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警察署前にて

 自衛隊の基地を去ってから数十分。

 僕は特に当ても無くフラフラと街を彷徨っていた。

 あの後一応敷地内に隊員の死体でも無いかと思って探してみたが、死体どころか血痕一つ無く、もしかしたら着ているかも知れない防弾チョッキを追い剥ぐ事も出来ずに泣く泣く敷地内を出て行った。


 いや、本当死体どころか血痕一つ無いってどういうことさ。

 確かに思い返せばどこの建物も荒らされた形跡はあれど誰かが傷ついたり争った痕跡は見られなかった。


 ……撤退すんの早過ぎじゃね?

 仮にも国を守る精鋭達が勤めている場所だろ?

 実はたまたま全員が遠方に遠征演習で出払っていたとか?

 それともそもそもあそこは自衛隊の基地では無く、そういう職種に就きたい人を育成する為の専門学校だったとか?

 ……今更わざわざ確認をしに戻るのも面倒臭いし、もう忘れよう。

 はい次!


 それで当面の目的はやっぱり防弾チョッキないしそれに準ずる効果を発揮してくれる服や防具になりうる衣類の確保だな。

 身の安全の為にもこれだけは何としてでも成し遂げたい。


 で、しばらく当ても無く彷徨っていたわけだがここでふとある事を思い出す。

 そう言えば自衛隊以外にも一部の警察も防弾チョッキを所持してそうだなって。

 機動隊員なんか特にさ。

 ただ、僕の居る街から防弾チョッキを備品として置いてそうな大きな警察署まではかなりの距離があるから中々に移動が大変なのだ。

 電車やバスなどの交通機関は勿論使えないし、車やバイクも動きはするがそこら中に乗り捨てられた乗り物があるから正直使い物にならない。

 かといって徒歩で行くにはしんど過ぎる。

 さて、どうしたものかな……


 ……ん?あ。良い物があるじゃないか!

 何か良い方法が無いかと周りを適当に見渡していた所、ある物が僕の目に止まった。

 その名も自転車!

 これなら車が立ち並ぶ道路の狭い隙間もスイスイと進む事が出来るし、バイクみたいに運転を誤って大怪我に繋がる事は無い。

 何より徒歩よりも早い馴染みのある乗り物だしな。


 そうと決まれば目の前のこの自転車を拝借させて頂こう。

 普段なら持ち主が現れるかも知れないから一週間は放置して、その後拝借する所だが今回に限ってはそれは無し。

 特例、と言う訳では無く単純に自転車がズラッと並んで放置されているからだ。


 お店の前に立ち並ぶ自転車群。

 ここは別に駅の近くでも駐輪場でも何でも無い。

 なのに何故そんなに自転車があるのかと言うと、単純にこれらは全て放置自転車だからだ。

 全部が全部というわけは無いが、何台かの自転車のハンドル部分には自転車の持ち主に違法駐車を警告するステッカーが貼られているから間違いない。


 だから、僕はそのステッカーが貼られている自転車から一番性能が良さそうなのを見繕って拝借する事にする。

 ステッカーが貼られているのにも関わらず、それが剥がされる事なくそのままになっているのは既に所有者は居ないという事と同義だからな。

 なのでありがたく頂戴致します。


 一応自転車には後輪のスポーク部分にガチャッと手錠みたいなロックをかける鍵とダイヤル式のチェーン鍵との二重ロックがかけられていたが、そんなものゾンビの力の前には無意味。

 無理矢理鍵の部分を指でグシャっと潰して取り除く。

 別に無理矢理壊して外そうとしたら爆発する仕組みでは無いしな。

 安心安心。


 まぁそんな感じで六段階のギアが付いた銀色のママチャリみたいな自転車を手に入れる事が出来た。

 持ち主、生きてたらごめん。

 有用に使わせて貰うから勘弁な。


 ……よし。

 心の中で謝罪を済ませたし、これで心置き無く使う事が出来る。

 早速使わせてもらうとしよう。

 どれどれっと。


 おぉ。悪くない。今まで徒歩で街中を散策していたのが馬鹿らしく思えるぐらいに快適だ。

 予想通り車同士の隙間は難なく通り抜ける事が出来るし、多少地面や道路が荒れていた所で少し車体がガタガタするくらいだから何も問題は無い。

 うん。これは良い。


 ただ、この光景、人間からしたらどんな風に目に映るんだろうな。

 明らかにどう見てもゾンビの男が気持ちよさそうに自転車に乗っているってシュール過ぎる。


 自分で乗っといてなんだが、自転車に乗るゾンビってアニメにしても漫画にしても映画にしても中々見ないな。

 少なくとも僕は見た事は無い。

 まぁ物語の設定上生きていた頃の記憶が殆ど失われているってのが王道だからそんな描写が無いのも当然なのかも知れない。

 勿論、だからと言って王道通りの生活をする気なんて微塵も無いけどな。

 自由に好きに生活するのが一番。


 そんな訳で考え事しながら自転車を漕いでいたら目的の場所にまで来る事が出来た。

 ……デカイ警察署だな本当。


 見る者を圧倒するようなガシっとした構造の建物に、成人男性の身長以上はあるブロック塀で囲まれた敷地。

 大小様々なパトカーもこれだけ外の駐車場に並んでいると圧巻だな。

 外がこれなら建物の中もさぞかししっかりしているんだろう。


 ただ、少し気になっているのはこの警察署、さっきの基地みたいに荒らされた形跡が殆ど無い事。

 一階の窓ガラスこそ割られている所が多いけど、二階以降の上の階は全く窓ガラスは割られていない。

 それどころかよく見るとガムテープか何かで補強されている所もある。


 ……マズイな。

 もしかしたらこれまだ中に人が居るんじゃ無いか?

 だとしたら中に入るのは困難を極めるし、そもそも入った所で人間に出くわしてしまったらおしまいだ。

 狭い建物の中で殺人衝動に駆られて発狂してしまったら流石に逃げ切れないし挟み撃ちにでもされたらそれこそおしまいだ。


 うわー……ここまで来て無駄骨?

 マジで?

 一応確認だけしておくか。


 近くに落ちている瓦礫を一つ拾って、思いっきり上の階の窓を目掛けて投げてみる。

 僕の投げた瓦礫は綺麗な放物線を描きながら四階の窓ガラスに直撃し、見事ガラスが割れ……無い。

 え?割れないの?

 ヒビすら入って無いじゃん。

 どんだけ硬いのさあの窓ガラス。


 でも、幸か不幸か効果はあったようだ。

 僕が瓦礫を当てた窓から人が顔を覗かせている。

 勿論窓ガラスは閉めたままだが、透明なガラスだからどんな人物が覗きに来たのかは分かる。

 ゾンビの視力って便利。


 それでこっちを見ている人達だが、見たところ結構若い感じの男女と、妙齢のおじさま?って感じの計三人がこっちを見ているな。

 なんだか随分と驚いた表情をしている。

 まぁそりゃそうだよな。

 まさかゾンビが瓦礫を投げつけてくるなんて思わないだろうし。

 凄い慌てているようだけど僕には関係の無い事。

 少なくとも、これで僕はあの警察署には興味が無くなった。


 だってあの感じじゃまだ結構中に人が居るんでしょ?

 そんな場所に入ろうなんて思うのは流石に自殺行為。

 どうせ武装した人間もそれなりの数いるんだろうし、もしかしたら備品の拳銃とかも持っているかも知れない。


 あーあー……本当に無駄骨になっちゃったよ。

 マジでこれからどうしよ。

 今度こそ、当てが無くなった。


 とりあえずこのままここに居たら中に居る連中から攻撃をされるかも知れないから少し場所を移そう。






沢山のブックマークや評価ありがとうございます。

本当の本当に励みになるので感謝の極みです。


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