26:成金豚
すみません!投稿遅れました!
何度やるのか……これも全部、必死にならないとできない授業が悪いんだ!
という訳でどうぞ!
痛む体に頭を悩ませつつも、気づけばいつものごとくベッドに寝そべっていた。体中の骨が痛い。何故なのか。
何か忘れているような気もするが、思い出そうとすると背筋が震えるのでやめた。きっと思い出さないほうが俺にとって幸せなんだろう、うん。
体を起こそうとするが、痛むので諦めた。確か、もうすぐ礼の決闘だったと思うがこれでは無理だろう。無理かもしれない。無理だ。
というわけで俺はこのまま寝てても問題ないはず。体調不良なんだから仕方ないね!
思わず笑みを浮かべて枕に顔を押し付けるが、どうやらそう都合良くはいかないようで、鍵をかけていたはずの部屋の扉がバンッ! と勢い良く開け放たれた。
「ちょ、ちょっと! 何でドアノブがないの!? 壊したんじゃないでしょうね!?」
今日は装いが違うようで、見慣れた魔法使いの姿はどこへやら。今は貴族のお嬢様らしく淡い黄色のドレスを身に纏っていた。相変わらずの胸部装甲である。しかし、何故ドアノブがないんだ?
「ドアノブ? …壊れた……握力…うっ、頭が…!!」
「え、あ、頭が痛いの!? 大丈夫なの!?」
慌てた様子で駆け寄ってくるPさん。俺の脳内には倒れた彼女の姿があるのだが何故なのだろうか。
とりあえず、そこまでひどくないので大丈夫だと返すと、彼女は大きく息を吐いてそう、とだけ呟いた。どうやら心配してくれていたようだ。
「意外にも、心配してくれたんだな」
「っ!…ま、まぁあなたにはこれから決闘に出てもらわなくちゃいけないし…その、だ、だんな……」
「? だんな?」
「…っ!? ば、バカァ!!」
それだけ言って部屋から出て行くPさんの姿を、俺は何も言えずに見送ることになった。いったい、今のどこに俺が罵倒される要因があったというのか。
わっかんねぇなぁ…と頭を片手でかきながらベッドから降りる。やる気はまったく起きないし、今でも決闘なんぞくそくらえではあるが、約束は約束だ。それにこれさえ乗り切れば夢の生活が待っているのだ。ほどほどにがんばる理由にはなるだろう。
あとじいさん怖い。
「『咲け』」
寝起きがてらに青林檎…リアの実を咲かせてもぎ取る。
長いこと青林檎と呼んでいるため、未だになれない呼び名だ。訂正するのも面倒なのでもう青林檎で良いのではないだろうか? それに万が一見られいても誤魔化しが効くかもしれないし。
シャクシャクと未だに飽きない味をかみ締めながら杖を片手に部屋を出る。流石に、そろそろ動かないとPさんにまた罵倒されかねない。そんな理由で動くのも気に入らないが仕方ないと思って諦めよう。人間、時には諦めて流れに身を任せることも必要なのだ。
ユリウスに見られて何か言われるのも面倒なので、手早く食事を終える。誰かに案内でもしてもらおうかとメイドさんを探す。
が、廊下の曲がり角で意外な人物と鉢合わせた。
「っ……チッ、貴様か」
「…ああ、あんたか」
初対面から俺に突っかかってくるご存知海藻類のカーマイン君。こんな言葉遣いをする奴ではあるが、一応はこのアリエリスト家でも筆頭の魔法使いらしい。あと、この家の当主の座を狙ってるとか何とか。面倒ごとを起こさないでほしいと願っておこう。
「…ふんっ、ずいぶんと余裕そうではないか。私が推薦した者を倒していい気にでもなったか?」
その言葉に、ふとあの日のことを思い出した。
確かあの決闘相手、ウィリアムに任せたんだったっけか。一応死なない程度にはしておいたんだが大丈夫だったんだろうか。今まで忘れていたことには反省でもするべきか。
…まぁ、言ってこないならいいだろう。わざわざ関わることじゃないからな。
「おいっ! 聞いているのかっ!」
「…何だよ。耳元で叫ぶなっての」
青林檎のおかげで体調も気分も良かったんだが、こいつのせいで一気に気分が悪くなる。頑張って部屋から出てきたというのに何なのだこの仕打ちは。
相手にするのも面倒なので、それじゃ、とだけ言ってその場を去る。案の定、その態度が気に食わなかったらしく貴様っ…! と苛立った声を出していたのだが、どうしたわけかその後に続くであろう罵声はなかった。あんな奴でもそれなりの常識はあるらしい。
「…ふんっ。その余裕がいつまで続くか、見物だな。今の間だけでも生を謳歌するがいい。恨むなら、この件に関わった自分の不運を恨むんだな」
どうやら俺の勘違いだったようです。こいつ常識ないどころかかなりの馬鹿なんじゃないだろうか。これが筆頭の魔法使いだったというアリエリスト家もどうかしているんじゃなかろうか。
まるで俺が負けることが確定しているような発言を聞き流しながら、俺は廊下を進むのだった。
とりあえず、メイドさんたちってどこにいるんですかねぇ?
無事目的地であった訓練場前に到着。
そして到着早々にユリウスにさっきの海藻類の言葉を全部話してやった。当然のことである。何せ、アリエリスト家の筆頭魔法使いでありながら俺が負ける、すなわちアリエリスト家が負けると言う発言をしているのだ。当然のことである。
決してむかついたからチクッてやろうとかそんな幼稚なことを考えたわけではない。俺は害になりそうな奴を排除したいだけなのだ。
仮に養われることになっても、あいつがいたら気分が悪いからね。
「遅かったじゃない。まさかあんた、迷ったの?」
「そうだよ」
そして現れるPさん。その後ろにはクェルの姿もある。
先ほど見たドレスのPさんに鎧を纏い騎士らしく側に控える二人の姿は、どちらも容姿が整っているということもあってかかなり絵になっている。もっとも、Pさんについては話さなければ、という注釈がつくし、クェルに関しては目を直視しなければの話だが。
クェルの目はまだちょっと怖いんです。
「すまない、カオル殿。本当なら、誰か案内を寄越すはずだったんだが…」
そういってチラッとPさんに視線をやるクェル。どうやら、その案内はPさんがやるはずだったんだろう。あの時部屋に来たのはそういうことだったのか。
何故か罵倒されるだけになったがな。
Pさんに視線をやると、うっ、と気まずそうに顔を背けていた。若干ながら顔が赤いのは羞恥からなのだろうか。
「はぁ…で? 今日の相手ってのはもう来てるのか? まだそれらしいのはいないみたいだが…」
「ああ。それならもう着くだろう。…と、噂をすれば、というやつか」
クェルが視線を移した先を俺も見る。
そこには、アリエリスト家の広大な庭をこちらに向かって進む大きな馬車が一台。四頭の馬を操る御者と思われる青年も見えた。
馬車もずいぶんといい趣味をなさっているようで、あちこちに金の装飾が施されていた。まさに、漫画やアニメでよくある成金のイメージしかわいてこない。
「…私、あいつ嫌いなのよね……」
「海藻類と比べたら?」
「…まだ海そ……カーマインの方がマシかしら。もっとも、底辺争いしてるようなものよ」
よっぽどなようだった。
はたしてどんな奴なのかと馬車のほうを見る。
馬車にはユリウスのほかに、カーマインや他数名が向かっている。執事服を身に着けたウィリアムの姿もあった。
間もなくして、御者の青年が馬車の扉を開ける。するとそこから出てきたのは人の顔をした豚だった。
…いや、素で間違えた。あれ人間っぽい。
人の外見を初見で悪く言うのはよくないことであるが、あれは間違えても仕方ないと思う。
でっぷりした腹に、遠目でもわかるほどの脂ぎった顔。果たしてあれが貴族なのかと思えてくるが、馬車に負けず劣らずの装飾品を身に着けた姿で貴族なんだなと一応の納得は出来た。
「なんと言うか…すごいのが出てきたな…」
「まぁ、初めて見たらそう思うでしょうね…。あいつ、私やクェルのことも変な目で見てくるから気持ち悪いのよ」
何をユリウスと話しているのかは聞こえないが、それほど興味もないので無視しても良いだろう。
それよりも俺が興味を持ったのは、フルフートとかいう成金豚とユリウスが何か話している間に馬車から出てきた一人の男だった。
真っ赤なローブを纏い、赤い髪を逆立たせた若い男だ。別に俺は男が好きなわけじゃない。勘違いはしないでほしい。
多分、あれが俺が相手をするコールとかいう魔法使いなのだろう。遠目でわかりにくいが見た目はただの厳つい不良にしかみえない。
馬車での移動に疲れていたのか、男はその場で体をほぐす様な動きをしていた。そして首を動かしてあたりを見回している。
「…あ」
ふいに、男と目が合った。
男とはそれなりに距離が離れているんだが、あちらは完全に俺を見ているようだ。やめろ、俺にそっちの趣味はない。
一向に視線を逸らさないので、仕方ないと俺が目を逸らすことにした。
気のせいだといってほしいのだが、目を離すその直前、男の顔がものすごい怖い笑顔を浮かべていたんだが、そんなことないよね?
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