表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/14

12

 夏休みに入る前日、終業式の日を迎えていた。


 大輝は『込田純一』の身体に違和感を感じなくなっている。全校集会の間中、後ろにいた生徒から蹴りを入れられていたのだが、それにも慣れ始めていた。



『ドッジボールしようぜ』



 式を午前中で終え、生徒達が帰ってゆく最中のことだった。白井大輔は純一の腕を掴んで、無理やり校庭に連れて行った。


 取り巻きのクラスメイト等合わせ、向こう側には十人はいる。皆がニヤニヤと純一を見て、事の成り行きを見守っている。



『夏休みに入る前によ。タップリ遊んどこうぜぇ』



 そう言うと、白井大輔は全力でもって、純一にボールを投げつけた。


 ボールは鈍い音を立てながら、純一の腕に当たった。



『ホラ、次お前投げろよ』



 そう言うと、大輔はボールを仲間に渡す。


 仲間内でボールを渡しあって、彼らは純一に向かって思い切りボールを投げた。筋肉のない純一の腕では、素早いボールをしっかりと受け止めることもできない。


 イタイ。イタイ。イタイ……。


 ボールが純一に当たるたびに、彼らは腹を抱えて笑っていた。大輔が投げたボールが純一の顔面に入ると、ドッと笑いが湧いた。



 純一の中で、大輝が思った。



(どうして……)



 気付けば、鼻血を流していた。



(どうして……!)



 それは、悲しみと共に日々感じていたことだった。


 純一の中には無かったもの。


 それを、大輝は持っていた。



「どうしてッ‼︎」



 純一が――大輝が発した叫び声に、一瞬で笑い声は失せた。



「どうして……」



 震える声で、大輝は続けた。「どうして、こんなリフジンにいじめられなきゃぁならない……」



笑っていた大輔の顔が、スゥッと真顔になった。



『あぁ?』



 恐い目で睨みながら、大輔は大輝の元へと歩み寄って来た。『なんだって?』



「ど、どうして、僕ばっかりいじめられなきゃならないんだって、い、言ったん」



 言い終わらないうちに、大輔は大輝を殴った。


 歯がガチンと鳴る音がして、大輝は地面に突っ伏していた。



『お前、調子にノンなよ?』



 クスクスと、取り巻きが笑う。


 大輝は急いで、立ち上がった。


 純一の顔で、必死に大輔を睨みながら言った。「イヤだ」



『はぁ? ゴミタァ、お前何言って……』



「イヤだ! もうイヤだ!」



 顎ががくがくと震えて、声が震えた。堰を切ったように、ぼろぼろと涙が溢れた。



「もうイヤだ! こんなの! こんないじめられて、どうしようも無くって、ぼくは何もしてないのにっ! こんなことで死ぬなんてイヤだっ!」



 大輔は奇妙なものを見るような目で、純一を見ていた。



「こんなミジメな思いをして死ぬなんて、絶対にイヤだ! ぼくが死ぬくらいなら……」



 大輝は地面を蹴った。そして、腕を身体の正面で十字にすると、決死の思いで飛び込んだ。


 二人はもつれ、地面に転がる。彼は共に地面に転がる大輔を確認すると、四つん這いになって近付き、馬乗りになった。



「殺してやるっ!」



 必死になって、大輔の喉に手を伸ばす。が、大輔の方が力も体格も優っていた。すぐに胸を押され、逆に乗っかられてしまう。



『お前が死ね!』



「イヤだ! ぼくは死にたくないっ!」



 大輝はもがいた。彼は、いかっていた。悲しさよりも、怒りが勝った。目の前にいるのがかつての父親である事も忘れ、本気でかかっていた。自分の非力さなど、頭には無かった。刺し違えてでも、という覚悟が、彼にはあった。


 鼻血と涙にまみれた凄まじい形相で、大輔を睨んだ。



 すると、辺りがセピア色に染まっていった。そして、大輔の姿が、ほろほろと崩れた。



 見えない炎に、燃やされているようだった。大輔も、取り巻きの生徒たちも、後ろの校舎も。灰のように風に吹かれて、頼りなく崩れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ