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婚約破棄、承りました。ですが私の管理していた「国家予算」「精霊の加護」「魔導防衛網」は全て私有財産ですので、回収させていただきますわね?  作者: 桐谷ルナ


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第9話:勇者の来訪、跪く伝説

アルカディア帝国の玉座の間。

 そこに、不釣り合いなほど野性味溢れる若者が立っていた。


 聖剣を背に負い、ボロボロながらも神聖な気を放つ白銀の鎧を纏った男。

 大陸全土の希望、魔王軍を退けた「伝説の勇者」レオンである。

 彼は、玉座に座る皇帝カエルスと、その傍らで優雅に扇を揺らすエリザベートを、鋭い眼光で射抜いた。


「――皇帝カエルス、そしてエリザベート! 貴様らがヴァリエール王国を経済的に破滅させ、罪なき民を苦しめているという噂は、もはや無視できん!」


 レオンの声が、広大なホールに響き渡る。

 彼は聖剣の柄に手をかけ、一歩前へ踏み出した。


「エリザベート・フォン・ローゼンベルク。貴様は祖国を売り、今度はこの帝国で私利私欲のために権力を振るっているそうだな。……俺の正義にかけて、貴様の暴挙を止めてみせる!」


 帝国の近衛騎士たちが一斉に抜刀しようとしたが、エリザベートはそれを手制止した。

 彼女はゆっくりと立ち上がると、階段を降り、レオンの目の前まで歩み寄った。


「あら。勇者様、わざわざ辺境からお疲れ様ですわね」


「貴様の甘言など聞かん! 俺は貴様の悪行の数々を耳にしている。重税を課し、食料を独占し、かつての婚約者を泥の中に突き落としたとな!」


「ふふ、まあ。……情報の解像度が、随分と低くていらっしゃること」


 エリザベートは扇を閉じ、レオンの胸元を軽く叩いた。

 そこには、勇者の誇りである『聖教国の加護証』が光っている。


「勇者様。貴方が世界を救う旅をしている間、その聖剣の維持費はどこから出ていたとお思い? 貴方が守っている孤児院の食料、そして貴方が先ほど召し上がった最高級の干し肉……。それらすべて、どこの商会が提供していたかしら?」


「何……? それは、教会の寄付と、有志の支援によって――」


「その『有志』の筆頭が、わたくしですわ」


 エリザベートが指を鳴らす。

 影から現れたセレーネが、分厚い帳簿を開き、レオンの目の前に突きつけた。


「勇者レオン様。過去三年間、貴方のパーティーに支給された魔力ポーション、聖剣の研磨費用、宿泊費の総額……。合わせて、二億四千万ガルド。……すべて、私の個人資産から支払われております」


 レオンの顔から、急速に生気が失われていった。


「う、嘘だ……。そんなはずは……」


「あら、嘘だと思われますの? では、今この瞬間から、貴方への『支援』をすべて停止いたしますわね。……セレーネ、聖教国へ連絡を。勇者への寄付ルートを全て遮断なさい」


「は、お嬢様。……既に、勇者様のパーティーが利用している宿屋、および装備品の修理店は、弊社の系列へと統合済みです。一時間後には、彼らは一粒のパンすら買えなくなるでしょう」


 レオンは、震える手で聖剣を握り直そうとした。だが、その剣ですら、エリザベートが提供した希少鉱石オリハルコンがなければ、ただのなまくら同然だ。


「貴様……金で正義を買うつもりか!」


「いいえ。正義という名の『幻想』に、価格を付けて差し上げているだけですわ。……勇者様、貴方の言う『罪なき民』は、今、私の提供する仕事と食料でようやく生き延びています。貴方が私を倒せば、明日には数万人の民が餓死するでしょう。……それでも、貴方の『正義』は私を斬れとおっしゃるのかしら?」


 エリザベートは、震えるレオンの顎を、扇の先でクイと持ち上げた。


「さあ、選びなさい。私を斬って、民を見殺しにする『独善の勇者』になるか。……それとも、私の足元に跪き、帝国の『忠実な猟犬』として、その力を私のために振るうか」


「く……っ……、あああああっ!!」


 レオンの膝が、屈辱に震えながら石畳を叩いた。

 聖剣がガシャンと頼りない音を立てて床に転がる。

 魔王を倒した伝説の勇者が、一人の令嬢の前に、完膚なきまでに敗北した瞬間だった。


「……賢い選択ですわ、勇者様」


 エリザベートは、満足げに微笑むと、カエルスの方へと振り返った。

 皇帝は、その様子を特等席で眺めながら、深い感銘と共に拍手を送る。


「素晴らしい。……武力でも魔法でもなく、『価値』で勇者を屈服させるとは。やはり貴公を私の隣に据えたのは、我が人生最高の決断だった」


「陛下、お戯れを。……さて、勇者様。まずは、貴方のそのボロボロの装備を新調しましょうか。もちろん、『私の所有物』としての、新しい首輪(紋章)を付けてからになりますけれど?」


 エリザベートの足元で、勇者はただ頭を垂れ、絶望の涙を泥のように流し続けた。

 

 この日、世界から「自由な英雄」は消え、エリザベートの覇道を支える「最強の駒」が誕生したのである。

「正義」すらも、エリザベート様の手のひらの上。

伝説の勇者が跪くカタルシスに、心が震えていただけましたら、

ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価で、彼女の「盤面」をさらに広げてくださいな。


皆様の応援が、エリザベートをさらなる高み、

大陸全土を統べる「真の女帝」へと導くガソリンとなります。

次回、第10話『旧王国の崩壊、そして最後の一撃』。

狂ったジュリアンと、地下牢のリリアン。

二人の物語に、エリザベートが最も優雅な形で「幕」を引きます。

お楽しみに。

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