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婚約破棄、承りました。ですが私の管理していた「国家予算」「精霊の加護」「魔導防衛網」は全て私有財産ですので、回収させていただきますわね?  作者: 桐谷ルナ


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第8話:帝国の薔薇、社交界の処刑場

アルカディア帝国の帝都は、祝祭の余韻に包まれていた。

 だが、その華やかさの裏側――帝都社交界の牙城である「鏡の間」では、冷ややかな空気が渦巻いていた。


「……亡命してきた小娘が、いきなり我が国の母ですって? 笑わせないで。所詮は捨てられた公爵令嬢。帝国の流儀も知らぬ田舎者に、この私が教育を施して差し上げなくては」


 扇を激しく動かし、不快げに毒を吐くのは、帝国貴族の頂点に君臨するソランジュ大公妃。

 代々の皇帝に娘を嫁がせ、社交界の法を自ら作ってきた「帝国の影の支配者」と自負する老婆である。

 彼女の周囲には、エリザベートの急激な台頭を快く思わない高位貴族の婦人たちが、獲物を狙うハゲタカのように集まっていた。


「今夜の晩餐会、楽しみですわね。彼女がどれほど『無知』であるか、全貴族の前で証明して差し上げましょう」


 その夜。

 煌びやかなシャンデリアの下、エリザベートはカエルス皇帝の腕に引かれて現れた。

 深紅のドレスを纏った彼女は、歩くたびに圧倒的な美しさを振りまくが、ソランジュたちの目にはそれが「借り物の美」にしか映っていない。


 カエルスが公務のために一時席を外した瞬間、ソランジュが取り巻きを引き連れてエリザベートの前に立ちはだかった。


「――あら、エリザベート様。帝国の生活には慣れまして? ヴァリエールのような小国とは違い、ここでは『格』というものが重要視されますの。例えば……貴女が今お召しのそのドレス」


 ソランジュが、舐めるようにエリザベートの衣装を眺める。


「その刺繍、我が国の伝統的な技法とは少々異なりましてよ。亡命者ゆえ、本物の職人を雇う伝手もございませんでしたのね? お可哀想に」


 周囲の婦人たちから、クスクスと品のない笑い声が漏れる。

 だが、エリザベートは眉一つ動かさなかった。

 彼女は手にしていたグラスを軽く傾け、ソランジュの瞳を正面から見据えた。


「あら、ソランジュ大公妃。……それはどの口がおっしゃるのかしら?」


「な、なんですって……?」


「このドレスの刺繍は、帝国の伝統技法ではなく、私が考案した『新魔導織法』によるものですわ。従来の三倍の強度を持ちながら、着る者の魔力を安定させる……陛下が戦場に赴く際の外套にも採用されることが決まった、最新の軍事技術ですの」


 エリザベートは優雅に一歩、ソランジュに歩み寄った。


「それよりも、大公妃。貴女が今お召しのその首飾り……エメラルドの輝きが少々濁っておりますわね。恐らく、貴女が先月、隣国の商会から『裏ルート』で買い叩いた密輸品ではありませんこと?」


 ソランジュの顔から、一瞬にして血の気が引いた。


「な、何を根拠に……!」


「根拠? あら、セレーネ。例の『帳簿』を」


 影から現れたセレーネが、一通の書類を差し出す。

 それは、ソランジュ大公家が長年行ってきた不正貿易、そして帝国の税を逃れるために構築した隠し資産の完璧なリストだった。


「帝国社交界の法を作るのは貴女だと思っておいででしたの? ……残念ですが、今日からはこの私が『法』ですわ。貴女が密輸に使っていた港も、資金を預けていた商会も、すべて昨日までに私が『買収』いたしましたもの」


 エリザベートは、震えるソランジュの耳元で、甘く、そして氷のような声で囁いた。


「大公妃、明日までに全財産を国庫へ返納し、領地へお下がりなさい。さもなければ……貴女のその誇り高い首に掛かっているのは、宝石ではなく『断頭台の鎖』になりますわよ?」


「ひ、ひぃ……っ!」


 社交界の支配者だったはずのソランジュが、膝から崩れ落ちる。

 その醜い音は、静まり返った広間に驚くほど大きく響いた。

 つい先ほどまで彼女に同調していた婦人たちは、蜘蛛の子を散らすようにエリザベートから距離を取り、一斉に膝を突いて頭を垂れた。


「……あら。皆様、そんなに急に跪いて。まだデザートも運ばれておりませんわよ?」


 エリザベートは、冷めた目で群衆を見下ろした。

 ヴァリエール王国を滅ぼした時と同じ、完璧なまでの制圧。

 彼女にとって、帝国の貴族たちを操ることなど、チェスの初期配置を整えるよりも容易なことだった。


 そこへ、カエルスが戻ってきた。

 彼は倒れているソランジュを一瞥もせず、エリザベートの肩を抱き寄せた。


「エリザベート、退屈はしなかったか?」


「ええ、陛下。皆様、私の新しい『魔導刺繍』に、それはもう熱心に見入ってくださって。……とても有意義な夜でしたわ」


 エリザベートはカエルスの胸に身を預け、勝利の笑みを浮かべた。

 かつて彼女を「亡命令嬢」と蔑もうとした者たちは、今や彼女の視線一つで命を削られる恐怖に震えている。


 第二章、開幕。

 帝国の薔薇は、その棘に毒を潜ませ、大陸全土を支配する準備を整えていた。

帝国の古参貴族をも一瞬で完封。

「場所が変わっても、エリザベート様は最強!」と痺れていただけましたら、

ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価で、彼女の新生活を祝福してくださいな。


皆様の応援が、エリザベートを「世界の女帝」へと押し上げる翼となります。

次回、第9話『勇者の来訪、跪く伝説』。

大陸の希望と呼ばれる「勇者」が、エリザベートの美貌と知略の前に、

己の正義を捨てる瞬間をお見せいたしましょう。

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