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婚約破棄、承りました。ですが私の管理していた「国家予算」「精霊の加護」「魔導防衛網」は全て私有財産ですので、回収させていただきますわね?  作者: 桐谷ルナ


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第7話:黄金の婚約、廃嫡王子の終焉

アルカディア帝国の帝都、その中央広場には巨大な「魔導投影機」が設置されていた。

 それは本来、戦勝報告や皇帝の演説に使用されるものだが、今宵、そこに映し出されているのは、歴史に残るであろう絢爛豪華な晩餐会の様子だった。


「――本日、我がアルカディア帝国は、新たな帝国の母を迎えることを宣言する」


 投影機から響くカエルス皇帝の朗々たる声が、帝都の活気ある街並みに、そして国境を越えた先にある、死に体のヴァリエール王都にまで届く。


 その映像を、ヴァリエール王都の薄暗い広場で、泥にまみれた群衆が呆然と見上げていた。

 群衆の最前列には、いまや浮浪者と見分けがつかないほどに落ちぶれたジュリアンがいた。彼は、ボロボロになった自分の指先を噛み締めながら、空に浮かぶ「かつての婚約者」を凝視する。


 画面の中のエリザベートは、帝国の至宝と言われる「星屑のダイヤモンド」を散りばめた純白のドレスを纏い、カエルスの隣で誇らしげに微笑んでいた。


「わが妃となるエリザベート・フォン・ローゼンベルク。彼女は、我が帝国に永遠の繁栄をもたらす『叡智の女神』である」


 カエルスが彼女の腰を抱き、唇を寄せる。

 帝国の貴族たちが、地鳴りのような拍手と歓声で二人を祝福した。


「……嘘だ。あんなの、嘘だ……!」


 ジュリアンが、血が滲むほどに拳を握りしめ、叫び声を上げた。


「あいつは私の婚約者だったんだ! 私の足元に跪いて、愛を乞うていた女なんだ! それがどうして、帝国の皇后になど……! おかしいだろう、間違っているだろう!」


 しかし、彼の叫びに同調する者は一人もいなかった。

 むしろ、周囲の平民たちは、軽蔑の眼差しをジュリアンに向けた。


「おい、黙れよ。お前があの方を追い出したせいで、俺たちの生活はめちゃくちゃになったんだ」

「あんなに美しい方が、お前みたいな無能の隣にいたこと自体が間違いだったんだよ」

「見ろよ、あの方の幸せそうな顔。お前の隣にいた時とは、まるで別人のようだぜ」


 民衆の声が、ジュリアンの胸に鋭い棘となって突き刺さる。

 画面の中のエリザベートは、かつてジュリアンに見せていた「義務的な微笑」ではなく、心からの余裕と慈愛に満ちた、真の強者の笑みを浮かべていた。


 その時、エリザベートがふと視線を「鏡(投影機)」の方へ向けた。

 まるで、数千キロ離れたこの場所で自分を見上げている「彼」の存在を知っているかのように。


「――皆様、お聞きになって」


 彼女の鈴を転がすような声が、広場に響き渡る。


「私は今、この上ない幸福の中にあります。……私に『自由』という名の翼を授けてくださった、ヴァリエール王国の皆様。特に、私を断罪し、追放してくださったジュリアン・ド・ラ・ヴァリエール様。あなたには、心の底から感謝しておりますわ」


 感謝。その言葉が、これほどまでに残酷な響きを持つとは。

 エリザベートは、扇子で口元を隠し、瞳の奥に宿る「絶対的な蔑み」を隠そうともせずに続けた。


「あなたのおかげで、私はゴミ溜めのような場所から抜け出し、真に愛すべきパートナーと、真に支配すべき大地を手に入れることができました。……どうぞ、いつまでもお元気で。泥の中で、私が築き上げた『残り香』を奪い合って生きてくださいまし」


 それが、彼女からの最後のメッセージだった。

 映像が消え、夜空には祝砲の魔法花火が次々と打ち上がる。

 帝都の繁栄を象徴する、色とりどりの光。


 対照的に、ジュリアンの足元を照らすのは、割れた水溜りに映る自分の惨めな姿だけだった。


「……あ、あ、ああああああああっ!!」


 ジュリアンは頭を抱え、泥の中に突っ伏した。

 プライド、地位、愛、そして国。

 彼が守りたかったものはすべて、彼が「ゴミ」として捨てた女の手によって、文字通り塵へと変えられた。


 追い打ちをかけるように、帝国の徴税官が彼の肩を叩いた。


「おい、ジュリアン。……いや、ただのジュリアン。お前の実家の『王宮』だが、今からエリザベート皇后陛下の命により、取り壊しが始まる。お前たちの寝床は、今日からこの路地裏だ。せいぜい、凍えないように気をつけるんだな」


 ジュリアンの精神は、その瞬間に音を立てて崩壊した。

 彼は笑い始めた。

 泥を掴み、空に舞う火花を追いかけるように、狂った笑い声を上げながら。


 第一章、完。

 

 ヴァリエール王国は地図から消え、そこにはアルカディア帝国の「ローゼンベルク州」という名が刻まれた。

 

 帝国の宮廷。

 エリザベートは、カエルスの腕の中で、遠く滅びた故国の方向に一瞥もくれることなく、最高級のシャンパンを飲み干した。


「準備は、すべて整いましたわね」


 彼女の物語は、ここから「復讐」を越え、「覇道」へと突き進んでいく。

第一章、これにて完結ですわ。

ジュリアンの精神崩壊、そしてエリザベートの完全なる勝利。

この「究極の幸福」と「究極の絶望」のコントラストを楽しんでいただけましたら、

ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を、彼への「手向け」のつもりで最大まで評価してくださいな。


皆様の応援がある限り、エリザベートの覇道は二章、三章と、

さらに残酷で美しいものへと進化し続けます。

次回、第二章開幕。

『女帝の進撃、大陸を跪かせる美貌』。

新たな敵、新たな盤面。さらなる絶望の先へ、ご案内いたしますわ。

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