第23話:ボイドの逆襲:因果律の番人VS多次元の女帝
多次元連合の拠点、監査神殿。
そこは本来、あらゆる次元の干渉を拒む絶対領域であったはずだが、今、その空間に「ノイズ」が走っていた。
黄金の空がひび割れ、そこから漏れ出したのは、色彩を持たない無機質な「灰色の光」。
現れたのは、顔のない白装束の集団――次元管理機構『ボイド・システム』の執行官たちである。
「――特異点、エリザベート・フォン・ローゼンベルク。貴殿の行動は、全並行世界の因果律を著しく毀損している」
中心に立つ「観測者」と名乗る影が、感情のない声で告げた。
「『悪役令嬢の破滅』は、世界のエネルギーを循環させるための不可欠な儀式。貴殿がそれを買い叩き、運命を書き換えることは、宇宙の熱力学第二法則に対する重大な違反である。直ちに全ての買収を撤回し、元の『脚本』に従って死ぬが良い」
その言葉と共に、神殿内の重力が数万倍に跳ね上がり、救出されたばかりの令嬢たちが悲鳴を上げる。
だが、玉座に座るエリザベートは、優雅に脚を組み替え、冷めた笑みを浮かべた。
「あら。……物理法則を引用して脅迫とは、随分と古典的な営業スタイルですわね。セレーネ、この方々の『不法侵入』および『業務妨害』による損害額、算出できまして?」
「は。……神殿の修繕費、および令嬢たちの精神的ケアにかかる魔力コストを含め、現時点で金貨一億枚相当の損失が発生しておりますわ」
「そう。……では、観測者さん。貴方の仰る『脚本』とやらが、どれほど非効率で無能な経営計画であるか、ここで証明して差し上げますわね」
エリザベートが指を鳴らすと、神殿の空間全体が、巨大な貸借対照表へと変貌した。
「貴方たちは『悪役令嬢の死』によって、民衆の負の感情を浄化していると仰いましたわね? ですが、その過程で失われる『ローゼンベルク家の資産』『令嬢の知性』『国力の低下』。……これらを合算すると、宇宙全体の資産価値は、一回の断罪ごとに $$15\%$$ ずつ目減りしていますのよ」
「な……何を馬鹿な。感情の浄化こそが世界の理……」
「それは貴方たちが、知性という名の『高付加価値』を運用する能力がないからでしょう? ……これを見なさいな」
エリザベートが示したのは、彼女が支配した第1世界、第102世界の成長グラフ。
「断罪」を回避し、令嬢が支配者となった世界では、魔力の生産効率が数千倍に跳ね上がっていた。
「私の経営下では、世界は滅びるどころか、繁栄を謳歌していますわ。……つまり、貴方たちが守ろうとしている『因果律』とは、単なる『無能な管理職による、既得権益の維持』に過ぎませんの」
エリザベートは、玉座から一歩踏み出し、観測者の喉元に扇を突きつけた。
「ボイド・システム。……貴方たちは、世界の維持に失敗しました。……よって、本日をもって宇宙の『管理権限』を私、エリザベート・フォン・ローゼンベルクが、強制執行させていただきます」
「おのれ、人の子が……消え失せろ!」
観測者が「次元消去」の波動を放ったその瞬間、背後から一閃の漆黒の刃がその首を断ち切った。
カエルス皇帝。彼は次元の揺らぎさえも物理的に切断し、不敵に笑う。
「……私の妻の計算に、異論があるなら私が聞こう。……ただし、私の剣は、貴様らの『存在理由』を斬り裂くのが得意なのだがな」
首を失った観測者が、ノイズとなって崩れ落ちていく。
「……さて。陛下、セレーネ。……敵の本陣がどこにあるか、今の波動で逆探知できましたわ」
エリザベートは、消えゆく灰色のノイズを見下ろし、極上の笑みを浮かべた。
「全次元の『私』に伝えなさい。……これより、宇宙を支配する『運命の神』に対し、史上最大の訴訟――いえ、全面戦争を開始いたしますわ」
「宇宙の物理法則」すらも経営不振として切り捨てる……。
これぞ、エリザベート様による、全宇宙規模の「究極のリストラ」ですわ。
運命の番人が計算違いを指摘されて消滅するカタルシスに痺れていただけましたら、
ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を評価に入れ、彼女の「宇宙乗っ取り」を応援してくださいな。
皆様の評価がある限り、エリザベート様は次元の果てまで監査のメスを入れ、
「幸せになれない運命」そのものを破産に追い込まれることでしょう。
次回、第24話『神々の破産:宇宙の中心で「債務超過」を叫ぶ』。
ついに物語の「作者」とも呼ぶべき最上位存在の前に、
エリザベート様が「差押予告通知」を手に現れます。
お楽しみに。




