第22話:第102世界の崩壊:車椅子の令嬢による毒の監査
第102並行世界、ヴァリエール王国の王立歌劇場。
今宵、そこでは王太子セドリックと、新たな聖女(と称する男爵令嬢)の婚約内定を祝う大夜会が開かれていた。
「ハハハ! ようやくあの忌々しい『氷の令嬢』がいなくなった。毒で動けぬ女など、王妃の座には相応しくないからな!」
セドリックが下品な笑い声を上げ、周囲の貴族たちもそれに同調して嘲笑う。
その時、会場の重厚な扉がゆっくりと、しかし拒絶を許さぬ重圧と共に開かれた。
現れたのは、一台の黄金の車椅子。
そこに乗っているのは、一週間前に毒を盛られ、再起不能と噂されていたエリザベート(#102)だった。
「……あら。随分と楽しそうですわね、皆様」
彼女の瞳に、かつての怯えはない。
背後には、次元を越えて派遣されたセレーネが、無表情で控えている。
「エ、エリザベート!? 貴様、なぜ動ける……いや、生きていたのだ!」
「生きていては、不都合でしたかしら? ……セドリック様。貴方が私に盛った『忘却の毒』、非常に高価な代物でしたわね。一瓶で、この国の年間の医療予算の半分を費やしたと伺いましたわ」
エリザベート(#102)は、女帝から授かった「監査用魔導書」を開いた。
「ですが、残念。……その購入資金、元を辿れば私が管理していた『国境守備隊の軍備費』からの横領ですわね。……本日、帝国監査局(マルチバース本部)の権限により、その不正支出を『即時返還請求』させていただきますわ」
「は、ハッ! 何を馬鹿なことを! ここは私の国だ。どこの馬の骨とも知れぬ『帝国』などという――」
セドリックの言葉が途切れた。
歌劇場の壁に設置された全ての魔導灯が、突如として赤く点滅し、巨大なホログラムを空中に投影したからだ。
そこに映し出されたのは、黄金の椅子に座り、優雅に茶を啜る「女帝」エリザベートの姿だった。
『――あら、失礼。……第102世界の無能さん、聞こえますかしら?』
女帝の氷のような声が、会場全体を凍りつかせる。
『私の愛しい分身を毒殺しようとした費用、そして彼女が受けた精神的苦痛への慰謝料。……計算いたしましたところ、この国の全資産を以てしても、利息の一割にも満たないことが判明いたしましたわ』
「な、なんだ、この女は……! まさか、エリザベートの……!?」
『ですので、本日をもって貴方の国の「通貨発行権」および「全魔力供給」を差し押さえさせていただきます。……さあ、あの子(#102)に跪きなさい。……今この瞬間、貴方の国は「紙屑の山」に変わりましたのよ?』
女帝が指を鳴らした瞬間。
会場にいた貴族たちが持っていた金貨、宝石、さらにはドレスを彩る魔導具が、一斉に輝きを失い、ただの鉛やガラスへと変質した。
「そ、そんな……私の魔法が、消えた!?」
「私の国債が……ただの真っ白な紙に!?」
阿鼻叫喚の渦の中、エリザベート(#102)は、腰を抜かしたセドリックの目の前まで車椅子を進めた。
「セドリック様。……貴方が私に与えた毒は、体を動かなくさせるものでした。……ですが、私が貴方に差し上げる毒は、この国の『未来』を根こそぎ奪うものですわ」
彼女は、女帝から預かった「最後の一通」を、セドリックの顔に叩きつけた。
「それは、貴方の『廃嫡通知書』。……今日からこの国は、私が『総督』として支配いたします。……貴方は、かつて私が受けたのと同じ、薄暗い地下牢で……自分が毒で溶けていく幻影を見ながら、一生を過ごしてくださいまし」
「ひ、ひいいいいいっ!!」
セドリックは、自らが放った毒の報い(監査結果)に絶叫しながら、警備兵――ではなく、既にエリザベート(#102)に買収された元・近衛騎士たちによって、無残に引きずり出されていった。
崩れゆく王国の中心で、車椅子の令嬢は、天を仰いで美しく微笑んだ。
次元を越えた「私」が、自分を救ってくれた。
その勝利の味は、どんな毒よりも甘く、そして痺れるものだった。
かつての自分を救い、王家を「経済的毒殺」で滅ぼす。
これぞ、エリザベート様が全次元に広める「真の救済」ですわね。
車椅子の令嬢が、女帝の威を借りて立ち上がるカタルシスに痺れていただけましたら、
ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を評価に入れ、多次元連合の「支店拡大」を応援してくださいな。
皆様の評価がある限り、エリザベート様は全宇宙の不条理を「資産価値ゼロ」で処理し、
「私」という名の神々による新秩序を盤石にされることでしょう。
次回、第23話『ボイドの逆襲:因果律の番人VS多次元の女帝』。
世界の理を守る組織『ボイド』が、ついにエリザベート様の「買収工作」を阻止すべく、
次元そのものを消去する最強兵器を投入いたします。
お楽しみに。




