第19話:次元の監査:王子よ、その命の価格を答えなさい
天井の崩落から舞い散る瓦礫と埃。
悲鳴が渦巻くパーティー会場の壇上で、第824並行世界の王子カイルは、呆然と空を見上げていた。
「な……何だ、貴様らは……! どこから入ってき……ひっ!?」
カイルの言葉は、すぐ隣に降り立った黒髪の男――カエルス皇帝が放つ、物理的な「殺気」によって喉の奥に押し戻された。
カエルスは一瞥もくれず、ただ背後に控える護衛のように、静かに、しかし圧倒的な圧を伴ってその場に佇んでいる。
そして。
黄金の光を背負い、静かに歩み出たのは、この世界の住人が見たこともないような、絢爛豪華なドレスに身を包んだ「女帝」エリザベート。
「――あら。随分と賑やかなゴミ捨て場ですわね。ここ」
その声が響いた瞬間、会場の騒音は氷を打ったように静まり返った。
エリザベートの視線は、壇上の端で泥にまみれ、震えている「この世界のエリザベート」へと注がれる。
「……酷い顔ですわね。私の名前を冠した存在が、そのような情けない姿で這いつくばるなんて。……セレーネ、この世界の『所有権(デフォルト設定)』を調べなさい」
「はっ。……この第824世界は、低俗な恋愛脚本(乙女ゲーム)の理に支配されており、主人公補正によりこの王子が絶対権限を握っているようですわ、お嬢様」
「脚本? ……そんなもの、私の前で口になさらないで。吐き気がいたしますわ」
エリザベートは、震える自分のニセモノ(並行世界の自分)に手を差し伸べた。
その手は温かく、同時に絶対的な安心感を与える「強者」のそれだった。
「立ちなさい。……あとは私が、この世界の『不備』をすべて修正して差し上げますわ」
並行世界のエリザベートが、夢を見るような瞳で女帝を見上げる。
女帝エリザベートは、ゆっくりと振り返ると、まだ震えているカイル王子を冷たく射抜いた。
「さて、王子。貴方は先ほど、彼女――私のアイデンティティを損なう発言をなさいましたわね? 『婚約を破棄し、国外へ追放する』……でしたかしら?」
「そ、そうだ! リリアンを虐めた悪女など、我が国には不要だ! 貴様がどこの誰かは知らんが、私の国で私に逆らえると――」
「『私の国』? ……ふふ、笑わせないでくださる」
エリザベートは扇を閉じ、王子の胸元を軽く指した。
「この国の経済、その基盤を支える銀山は、隣国の『ローゼンベルク商会』の融資で成り立っておりますわね。……そして、貴方のその豪華な衣装の生地、私が次元を越えて持ち込んだ特許技術の無断盗用によるものですわ。……つまり、この国そのものが私の『知的財産権』の上に成り立っている不完全な模倣品に過ぎませんの」
「な……何をデタラメを!」
「デタラメかどうか、今すぐ証明して差し上げますわ。……セレーネ、この国すべての『債権』を一括で買い取りなさい。代金は、私の小銭入れに入っている『神の涙(魔力石)』一つで足りますわね?」
「御意、お嬢様。……買い取り、完了いたしました。現時刻をもって、ヴァリエール王国(第824支店)は、アルカディア帝国の完全子会社へと移行いたしましたわ」
その瞬間、王子の腰に差していた聖剣が、まるで力を失ったようにガラガラと砕け散った。
王宮の照明が消え、代わりにエリザベートが放つ黄金の魔力が、会場を昼間よりも明るく照らし出す。
「お、王子……? 私たちの幸せは……!?」
傍らにいた「この世界の聖女」リリアンが縋り付くが、カイル王子は腰を抜かし、その場にへたり込んだ。
彼らが縋っていた「王権」という名の幻想は、エリザベートが放った一言――「買収」という現実の前に、文字通り粉砕されたのだ。
「王子……いえ、ただの『負債』さん。貴方の命の価格を計算いたしましたが……。残念ながら、私が今履いているこの靴の踵を直す費用にも及びませんわ。……よって、貴方の存在価値を『零』と査定いたします」
エリザベートは、冷酷なまでに美しい笑みを浮かべ、絶望に染まる王子を見下ろした。
「さようなら。……私の休日を汚した罪、その無能な魂で一生かけて償いなさいな」
エリザベートが指を鳴らすと、カイル王子とリリアンは、光の粒子となって「異次元のゴミ捨て場(収容所)」へと転送されていった。
静寂が戻った会場で、女帝エリザベートは、呆然とする「並行世界の自分」の頭を優しく撫でた。
「……さあ、顔を上げなさい。今日から貴方は、私の『代理人』としてこの国を支配するのですわ。……やり方は、私が直々に、一から『監査』して差し上げますわね?」
女帝の休日。
それは、不当な運命を書き換え、全宇宙に「エリザベート・フォン・ローゼンベルク」という名の秩序を刻み込む、至高の遊戯の始まりだった。
次元を越えて「自分」を救い、王子を資産価値ゼロで叩き出す……。
これこそが、最強へと至ったエリザベート様の、優雅で非情な「慈善事業」ですわね。
「本物の女帝」による次元を超えたざまぁに、心の底から痺れていただけましたら、
ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を評価に入れ、彼女の「多次元経営」を応援してくださいな。
皆様の評価がある限り、エリザベート様は全並行世界の不当な断罪を差し押さえ、
宇宙のすべてを「黄金の美学」で塗り替えていかれることでしょう。
次回、第20話『二人のエリザベート:女帝による帝王学の極限教育』。
弱かった自分を、最強の「右腕」へと作り変える禁断のレッスンが始まります。
お楽しみに。




