第18話:女帝の休日、あるいは新たなる遊戯
全てが黄金と調和に満ちたアルカディア帝国の最奥。
女帝エリザベートは、皇帝カエルスと共に、浮遊する空中庭園で極上の茶を楽しんでいた。
もはや地上に敵はなく、天界は彼女への上納金(魔力)を計算するだけの事務局と化している。
「……退屈ですわね、陛下」
エリザベートは、クリスタルグラスに注がれた「星の雫」を揺らしながら、ため息をついた。
あまりにも完璧に管理された世界。それは彼女の望んだ結果ではあるが、知性を刺激する「不合理」が足りない。
「貴公が完璧に整理しすぎたせいだな。……いっそ、どこかの大陸を一つ、私が更地にしてこようか? 貴公がまた一から再開発できるように」
「あら、それは野蛮すぎて休日には向きませんわ。……それよりも、セレーネ。例の『次元観測装置』の調子はどうかしら?」
影から現れたセレーネが、空中の一点に指を触れる。
すると、虚空に数え切れないほどの「気泡」のような映像が浮かび上がった。
それは、この世界とは異なる可能性の枝分かれ――「並行世界」の断片である。
「陛下、お嬢様。……現在、第824並行世界において、看過できない事象が発生しております。……どうやら、その世界の『エリザベート・フォン・ローゼンベルク』が、著しく不当な扱いを受けているようですわ」
「ほう、興味深いな」
エリザベートは、その映像の一つを指先で拡大した。
そこに映っていたのは、かつての自分と同じ、銀髪の令嬢。
だが、その姿はあまりにも惨めだった。
薄汚れたパーティー会場。
下劣な笑みを浮かべる低俗な王子と、勝ち誇ったような令嬢たち。
その中央で、並行世界のエリザベートは泥を投げられ、謝罪を強要され、ただ震えながら涙を流していた。
その世界では、彼女は「真の力」に目覚めることなく、ただの生贄として物語を終えようとしていたのだ。
「……あら。あれ、私かしら?」
エリザベートの瞳が、急速に温度を失い、絶対的な零度へと凍りつく。
彼女は手にしていた扇を、バチンと鋭い音を立てて閉じた。
「不愉快。不愉快極まりありませんわ。……セレーネ、次元の『ブランド価値』を計算しなさい」
「は。……我が主の姿をした存在があのような醜態を晒すことによる、ローゼンベルク家及び女帝としての『イメージ毀損損害』は、魔力換算で $$D = \sum (V_{imp} \times C_{rank})$$ を超える甚大な数値となります」
「そうですわね。……あれは、私の『私有財産』の侵害ですわ。……陛下、休日の行き先が決まりましたわよ」
エリザベートは立ち上がり、ドレスを翻した。
その背後で、次元の壁が音を立ててひび割れ、黄金の光が溢れ出す。
「あの世界へ乗り込みますわ。……そして、あの下劣な王子とやらには、私の名前を無断で使用した『商標権侵害』と、私のブランドを貶めた『慰謝料』、……そして、私の休日を台無しにした『迷惑料』を、その国丸ごとを没収することで支払っていただきます」
「ふふ……。いいだろう。久々に私の剣も、他世界の王冠を斬りたがっている」
カエルスが不敵に笑い、彼女の隣に並び立つ。
その頃、第824並行世界。
王太子がエリザベートへの「処刑宣告」を口にしようとした、その瞬間。
広間の天井が、見たこともない黄金の稲妻と共に粉砕された。
「――あら。随分とお安いお芝居をなさっていますのね」
空から降り立ったのは、その世界の住人が見たこともないような、圧倒的な「格」を纏った真の女帝。
エリザベートは、呆然とする「自分」と「王子」を冷たく見下ろすと、優雅に告げた。
「準備は、すべて整いましたわ。……さあ、私のニセモノさん。代わって差し上げますわね。ここからは、本物の『ざまぁ』の時間ですのよ」
次元を越えた、史上最大の「セルフ・プロデュース」による復讐劇。
女帝エリザベートの「遊び」は、今、宇宙の理を超えて拡大していく。
「別の世界の自分」を救うために、次元を越えて殴り込む……。
これこそが、全ての権力を手に入れたエリザベート様の、究極の「余暇」ですわ。
弱々しい自分が、女帝の降臨によって最強の武器を手に入れるカタルシス。
続きが楽しみで仕方ないと思っていただけましたら、
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皆様の評価が、エリザベート様による全宇宙の「クオリティ・コントロール」の力となります。
次回、第19話『次元の監査:王子よ、その命の価格を答えなさい』。
格の違いを、魂に刻み込んで差し上げますわ。
明日からは1日1話の投稿予定です。
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