第16話:天界の監査、天使のリストラ:神使の給与(魔力)カット
大聖堂の天井が、眩い白光と共に消失した。
瓦礫が舞い散る中、空から舞い降りたのは、六枚の翼を持つ巨大な存在――神の意志を執行する上位天使、ザドキエル。
その神々しい姿に、周囲の騎士たちは息を呑み、本能的な畏怖に震えた。
「――増長したな、人の子よ。神の庭を汚し、信仰を否定する魔女エリザベート。その魂を、虚無へと還してやろう」
ザドキエルがその聖剣を振り上げると、空が黄金の炎で染まった。
まさに終末の光景。だが、その光景を特等席で眺めるエリザベートは、優雅に耳を塞ぐ仕草をして見せた。
「あら。……随分と騒々しい鳥が迷い込んできましたわね。セレーネ、この騒音のデシベル数、帝都の環境基準を超えておりませんこと?」
「はっ。既に騒音規制法違反として記録済みですわ、お嬢様」
「貴様……! 神罰を前にして、何を戯言を!」
ザドキエルが咆哮し、炎の剣を振り下ろそうとした、その時。
彼の翼から、まるで煤が剥がれ落ちるように、黄金の光が急激に減衰した。
「……!? なんだ、力が……魔力が供給されない……!?」
「不思議がることでもありませんわ、ザドキエル様」
エリザベートは、手に持っていた「魔導タブレット」の画面をザドキエルに向けた。
そこに表示されていたのは、天界と地上を繋ぐ『魔力供給』のリアルタイム稼働グラフ。
そして、その供給ラインが、真っ赤な「遮断(STOP)」の文字と共に停止している様子だった。
「貴方たち天使が地上でその『無駄に豪華な姿』を維持するために消費する魔力……。一日あたり、小国の国家予算に匹敵しますのよ。……その出処はどこだとお思い?」
「……信仰だ! 人間が神に捧げる、尊き祈りの力だ!」
「いいえ。それは、私が既に『全額買い取り』させていただいたものですわ」
エリザベートは、冷たい紫水晶の瞳で、宙に浮く「高価な置物」を見つめた。
「聖教国を解体した際、私は各地の聖地に眠る魔力貯蔵庫の所有権を法的に取得いたしました。……つまり、貴方の『燃料』は、今や私の私有財産ですの。……無断で使用し続けるなら、窃盗罪で訴えますわよ?」
「バ、バカな……! 神の使いである私に、人の法を適用しようというのか!」
「適用されるのは法だけではありませんわ。……『市場原理』もです。ザドキエル様、貴方の過去一時間の活動記録を精査いたしましたが……。滞在一秒あたりの神罰執行率、および民衆への威圧効果。……これ、私の私兵である勇者レオン一人分よりも効率が悪いですわね」
エリザベートは、冷酷な宣告を下した。
「つまり、貴方は『コストに見合わない不良在庫』。……天界の管理層(神々)に対し、私は既に提案書を送付済みですわ。……『不採算部門である天使のリストラ』、および『魔力供給の契約解除』を、ね」
「な……リスト……ラ……?」
ザドキエルの翼が、力なく垂れ下がった。
供給を絶たれた彼の肉体は、維持できなくなり、急速に半透明へと透けていく。
高位の天使が、一人の令嬢の「査定」によって、消滅の危機に瀕していた。
「あ、ありえない……。神が……私の主が、私を見捨てるはずが……!」
「あら、神様だって賢い経営者ですわよ? 私が提示した『天使を使わずに安価な魔導端末で神託を届ける新システム』の方が、圧倒的に利益率が高いことに気付かないはずがありませんもの」
エリザベートは、消えゆく天使の足元に、一通の書類を投げた。
それは、神とエリザベートとの間で(魂の契約として)交わされた『業務委託契約書』の写しだった。
「さようなら、ザドキエル様。……明日からは、ただの白いカラスとして、空を飛ぶ練習でもなさることね」
断末魔の叫びを上げる間もなく、天使は光の粒子となって霧散した。
あとに残されたのは、エリザベートの「監査」によって静寂を取り戻した大聖堂と、呆然と立ち尽くす観衆だけだった。
「……さて。陛下」
エリザベートは、カエルスに向かって優雅に微笑んだ。
「これで天界も、ようやく『話の通じる相手』になったようですわ。……次は、天界の役員報酬(魔力)を、人界へ還元させるための『配当金請求』を始めましょうかしら?」
女帝の知略は、今や神々の懐さえも抉り取ろうとしていた。
「神の使い」をコストパフォーマンスで切り捨てる……。
これぞ、エリザベート様流の、物理を超えた「理不尽なまでの合理主義」ですわね。
天使が「リストラ宣告」で消えていく様に、至高のカタルシスを感じていただけましたら、
ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を評価に入れ、神々との「直接取引」を応援してくださいな。
皆様の評価がある限り、エリザベート様は天界の全株式を取得し、
この世界の「真のCEO」へと就任することでしょう。
次回、第17話『神界の再編、運命の民営化』。
世界を支配していた「運命」という名の独占市場に、
エリザベート様が「自由競争」を持ち込みます。
お楽しみに。




