第15話:神の代弁者、定年退職の勧告
かつて大陸中の信徒が跪いた聖教国の大聖堂。
そこにはいま、不気味なほどの静寂が満ちていた。
守護すべき聖騎士たちは帝国へ「転職」し、有能な若手神官たちもエリザベートが提示した「魔導研究奨学金」に惹かれて次々と出奔した。
残されたのは、豪華な法衣に身を包み、誰もいない祭壇に向かって震える手で祈りを捧げる大司教、ベネディクトただ一人。
「……神よ、なぜ沈黙される。あの魔女に、これほどの暴挙を許されるのか……!」
「あら。神様もお忙しいのでしょう? 貴方のような『不良債権』の泣き言にまで付き合っている暇はございませんわ」
大聖堂の重厚な扉が、音もなく開かれた。
現れたのは、銀髪を揺らし、帝国の権威を象徴する紫のドレスを纏ったエリザベート。
その後ろには、かつての聖教国の盾であり、いまや帝国の「福利厚生」に心酔するガウェイン団長が、皮肉にも彼女を警護するように控えている。
「魔女、エリザベート……! よくも我が聖教国を、神の庭をここまで汚してくれたな!」
「汚した? 心外ですわね。私はただ、放置されていた『ゴミ』を片付け、適正な価格で再開発しているだけですわ」
エリザベートは、祭壇のすぐ前まで歩み寄ると、扇で鼻を覆った。
「ベネディクト大司教。貴方が神聖視しているこの大聖堂、実は既に『私の持ち物』になっておりますのよ。ご存知でしたかしら?」
「何を……馬鹿な! ここは数千年の歴史を持つ不磨の聖域だぞ!」
「ええ、歴史はありますわね。ですが『維持費』がございませんわ」
セレーネが、大司教の足元に一束の書類を叩きつけた。
それは、聖教国が過去数十年、周辺諸国から「奇跡の対価」を前借りするために発行していた『聖教国債』の山だった。
「治癒のサブスク化により、貴方たちの収入源は絶たれました。……そして、市場に溢れたその国債を、私がすべて買い取らせていただきましたの。……つまり、聖教国は現在、私に対して天文学的な負債を抱えた『債務超過状態』にあります」
エリザベートの紫水晶の瞳が、冷酷に大司教を射抜く。
「大司教様。本日をもって、この大聖堂を借金のカタに『差し押さえ』させていただきますわ。……今すぐその豪華な椅子から立って、建物を明け渡しなさいな」
「う、嘘だ……! 神の家を金で買うなど、そんなことが許されるはずが……!」
「許されますわ。なぜなら、貴方が神に捧げると称して着ているその法衣も、信者から騙し取った金で作られた『不当利得』ですもの。……ガウェイン、お仕事ですわよ」
「はっ。……ベネディクト元大司教。貴殿には、聖教国私物化、および公金横領の疑いで、帝国監査局による取り調べを受けていただきます」
かつての部下であるガウェインの手が、大司教の肩を強く掴んだ。
大司教は力なく崩れ落ち、その際に頭から落ちた煌びやかな冠が、石畳の上で虚しい音を立てて転がった。
「あ、ああ……。神よ、奇跡を……私に奇跡を……!」
「奇跡、ですか? あら、残念。……先ほど、天界のゲートへの魔力供給、私が『支払い停止』の手続きを完了いたしましたの」
エリザベートは、祭壇に安置されていた「神と対話するための聖遺物」を手に取ると、それをゴミを捨てるように床へ投げ捨てた。
「神様との通話料も、タダではありませんのよ? ……さあ、ベネディクトさん。貴方の『定年退職』のお時間ですわ。退職金は……そうね、牢獄での三食昼寝付きの生活で我慢してくださるかしら?」
叫び声を上げながら引きずられていく大司教。
静まり返った大聖堂で、カエルスがエリザベートの肩に手を置いた。
「これで、地上の障害はすべて消えたな。エリザベート」
「いいえ、陛下。まだ『元締め』が残っておりますわ」
エリザベートは、誰もいない祭壇の奥、虚空を見つめた。
そこには、地上の混乱を冷めた目で見下ろす「天界の視線」があることを、彼女の知性は既に確信していた。
「人間の信仰を搾取し、不当な利益を得ている『神』という名のシステム管理者。……次は、あの方々に『是正勧告』を叩きつけて差し上げませんと」
女帝の微笑みが、誰もいない大聖堂に冷たく響いた。
だが、それは同時に、世界を創造した「神々」への、前代未聞の監査の始まりでもあった。
「神の家」を差し押さえ、大司教を横領で突き出す。
これぞエリザベート様流の、法と数字を用いた「究極の除霊」ですわね。
権威が泥に塗れる瞬間に至高の悦びを感じていただけましたら、
ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を評価に入れ、彼女の次なる獲物……「天界」への進撃を応援してくださいな。
皆様の評価がある限り、エリザベート様は神々の隠し口座すらも凍結し、
この世界の「真のオーナー」へと上り詰めることでしょう。
次回、第16話『天界の監査、天使のリストラ』。
ついに姿を現した「神の使い」に、エリザベート様が突きつける「規約違反」の内容とは。
お楽しみに。




