第11話:女帝の戴冠、跪く金貨の主たち
アルカディア帝国の聖カテドラル。
今日、この場所で、大陸の歴史が塗り替えられようとしていた。
皇帝カエルスと、その正妃となるエリザベート・フォン・ローゼンベルクの戴冠式である。
ステンドグラスから差し込む七色の光が、エリザベートの銀髪を神々しく照らし出していた。彼女が纏うのは、帝国の至宝である「魔導金糸」で織られた、目も眩むような黄金のドレス。
だが、その神聖な儀式の最中、列席していた「自由商業ギルド」の代表、守銭奴として名高いバルガスが、不遜にも声を上げた。
「――お待ちいただきたい、カエルス陛下! そしてエリザベート様!」
静寂を破る汚らしい声に、カエルスが黄金の瞳を冷たく細める。
バルガスは、背後に控える大陸各国の豪商たちを盾にするように、傲慢に胸を張った。
「我らギルドの協力なくして、帝国の経済は一日たりとも回りませぬ。……エリザベート様が提唱された『新通貨政策』は、我ら商人の既得権益を著しく損なうもの。この戴冠を認めてほしくば、政策の撤回と、我らへの独占販売権の譲渡を要求いたします!」
会場に動揺が走る。
ギルドが資金を引き揚げれば、帝国のインフラは麻痺し、軍の維持すら危うくなる。これは、事実上の「経済テロ」による宣戦布告だった。
しかし、エリザベートは動じなかった。
彼女はカエルスの隣で、優雅に扇を閉じると、バルガスを憐れむような目で見つめた。
「あら。……バルガス様、でしたかしら。貴方の仰る『協力』というのは、他国の食料を買い叩き、飢饉を煽って私腹を肥やす、あの薄汚い手口のことかしら?」
「なんと無礼な! 我らこそがこの世界の『血液』である金を握っているのだぞ!」
「ふふ、金……。ええ、確かに大切ですわね。……ですが、貴方が今抱えているその『金貨』、明日からただの銅板以下の価値しかなくなるとしたら、どうかしら?」
エリザベートが指を鳴らすと、天井の魔導投影機が、ある「公文書」を映し出した。
「な……これは、ギルドの全負債の譲渡証明書……!? なぜ、これが貴様の手に!」
「お忘れですの? 私は元ヴァリエール王国の筆頭公爵令嬢。貴方たちが隣国で不正に貸し付けていた債権の裏側、すべて把握しておりましたの。……そして昨日、私は帝国の全財産を投じ、貴方たちの『全負職』を買い取りましたわ」
バルガスの顔が、土気色を通り越して真っ白になる。
「さらに。今この瞬間をもって、帝国およびその同盟国において、旧金貨の使用を一切禁止いたします。……今後は、私が魔導技術で偽造を不可能にした『新・帝国紙幣』のみを法廷通貨とする。……つまり、貴方たちの金庫に眠る山のような金貨は、ただの重いゴミになりますわ」
「そ、そんな暴挙が許されるはずが――!」
「許すか許さないか、ではありませんわ。……セレーネ、勇者レオン」
影から現れたセレーネと、その隣に立つ白銀の勇者レオン。
レオンは、かつて魔王を斬った聖剣を、今はバルガスの喉元に静かに突きつけた。
「……勇者様、お仕事ですわよ」
「……御意、エリザベート様。……バルガス、抵抗はやめろ。お前たちのギルド本部は、既に俺の剣と、お嬢様の『経済封鎖』によって制圧された」
レオンの冷徹な言葉が、トドメとなった。
大陸最強の経済力を誇った商商ギルド。その代表たちが、次々とその場に膝を突いた。
エリザベートは、震えるバルガスの頭を扇の先で軽く叩いた。
「金で世界を動かせるのは、その金の『意味』を支配している者だけですわ。……貴方たちは、ただの運び屋に過ぎなかった。それを、これからの余生でじっくりと学んでくださいまし」
バルガスたちは、帝国騎士団によって無残に引きずり出されていった。
静寂が戻った大聖堂。
カエルスがエリザベートの手を取り、全ての臣民の前で宣言した。
「――今日、我らは二人で一人の皇帝となる。我が剣と、エリザベートの知略。この二つが揃った今、大陸に跪かぬ大地はない!」
教皇の手により、エリザベートの頭上に重厚な冠が置かれた。
その瞬間、帝都全土で祝福の鐘が鳴り響き、民衆の歓喜の叫びが地鳴りのように響いた。
かつて、婚約破棄され、国を追われた悪役令嬢。
彼女は今、大陸最大の帝国の「女帝」として、世界の頂点に君臨したのである。
式典の最中、エリザベートはカエルスの耳元で、そっと囁いた。
「陛下。……準備は、本当にすべて整いましたわね」
「ああ。これからは、二人でこの世界を美しく、そして残酷に作り変えていこう」
二人の支配者の視線の先には、もはや過去の遺恨など存在しない。
ただ、自分たちが描き出す「完璧な未来」だけが、黄金の輝きと共に広がっていた。
「経済」と「武力」の完封。
守銭奴たちが一夜にして破産し、エリザベート様が「世界の支配者」となった瞬間に、
至高のカタルシスを感じていただけましたら、
ぜひ下の【☆☆☆☆☆】を、女帝への「忠誠」としてお預けくださいな。
皆様の評価がある限り、エリザベートの覇道はさらに加速し、
大陸の全国家が彼女の足元に集う「統一帝国編」へと突入いたします。
次回、第12話『覇道の果て、女王の微笑み』。
真の平穏とは、彼女による完全なる支配のことだった……。
衝撃の結末を、どうぞお楽しみに。




