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婚約破棄、承りました。ですが私の管理していた「国家予算」「精霊の加護」「魔導防衛網」は全て私有財産ですので、回収させていただきますわね?  作者: 桐谷ルナ


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第10話:旧王国の終焉、泥に沈む「真実の愛」

かつて「白亜の真珠」と称えられたヴァリエール王都は、いまやアルカディア帝国の「第13直轄区」という記号に成り果てていた。

 王旗は引き裂かれ、代わりに掲げられたのは帝国の双頭鷲。

 かつての貴族たちは、没収を免れたわずかな家財を抱えて路頭に迷い、平民たちは帝国の配給を求めて、かつての「断罪の舞台」であった王立アカデミーの広場に列を作っていた。


 その広場に、一台の絢爛豪華な魔導馬車が静かに停まった。

 降り立ったのは、帝国の皇后となることが内定したエリザベート。

 彼女の隣には、かつての「伝説」である勇者レオンが、いまや彼女の忠実な護衛(犬)として、静かに控えている。


「あら。……随分と、風通しの良い街になりましたこと」


 エリザベートが扇で口元を隠し、瓦礫の山となった王宮跡を眺める。

 かつての級友たち、彼女を「悪役令嬢」と罵ったモブたちが、今や泥にまみれた膝を突き、震えながら彼女を見上げている。


「エ、エリザベート様……! お救いください!」

「私たちが間違っていました! あの王太子が無理矢理言わせたのです!」


 手のひらを返したような嘆願の声。エリザベートは、それらを一瞥もせず、ただ一人の男の前で足を止めた。


 そこには、かつての面影など微塵もない、薄汚れた浮浪者がいた。

 ジュリアンだ。

 彼は地面に這いつくばり、泥の中に落ちた「石ころ」を必死に磨いていた。


「……ああ、エリザベート。戻ってきてくれたんだね。見てくれ、君との婚約指輪を見つけたんだ。これを磨けば、また昔のように……」


 彼が差し出したのは、指輪などではない。ただの割れたガラスの破片だ。

 精神が完全に崩壊した彼は、過去の栄光という幻影の中で、永遠に醒めることのない夢を見続けていた。


「ジュリアン様。……あら、失礼。ただのジュリアンさん、でしたわね」


 エリザベートの声に、ジュリアンが濁った瞳を上げる。


「リリアン様のことは、ご存知かしら? 彼女、地下牢で『精霊の呪い』に耐えきれず、最後は自分の肉を、魔力石だと信じて食べ尽くしてしまいましたわよ。……『真実の愛』の末路にしては、少々グロテスク過ぎましたかしら?」


「あ……あ……」


 ジュリアンの喉から、意味をなさない声が漏れる。

 エリザベートは、セレーネが差し出した小さなベルベットの箱を開いた。

 中に入っていたのは、かつてジュリアンが彼女に贈った――そして断罪の夜に彼女が投げ返した――10カラットの婚約指輪だった。


「これ、返してほしそうにしてらしたわね?」


「ああ……! それだ、それを返してくれれば、私はまた王太子に……!」


 ジュリアンが震える手を伸ばした。

 だが、その指が届く直前。

 エリザベートは指輪を高く掲げると、その指先に魔力を込めた。


 ――パキィィィン!!


 乾いた音と共に、大陸でも有数の硬度を誇るはずのダイヤモンドが、エリザベートの手の中で粉々に砕け散った。

 宝石の破片が、キラキラと残酷に輝きながら、ジュリアンの顔に、そして泥水の中に降り注ぐ。


「あら、手が滑ってしまいましたわ。……でも、ちょうどよろしいのではなくて? 今のあなたに相応しいのは、本物の輝きではなく、泥に混ざったガラスの砂ですもの」


「あああああ……! 私の、私の王冠が……!」


 ジュリアンは、泥の中に顔を埋め、砕けた宝石の砂を必死に掻き集めようと指を動かす。爪が剥がれ、血が滲んでも、彼は狂ったように泥を掘り続けた。


 その様子を、かつての民衆たちは冷ややかに見守っていた。

 もはや誰も、彼を王子とは呼ばない。


「勇者レオン。……このゴミを、適切な場所へ移動させておきなさい。私の領土ここに、これ以上汚物を置かせておくわけにはいきませんわ」


「……御意、エリザベート様」


 かつての英雄レオンが、ゴミを片付けるようにジュリアンの首根っこを掴み、引きずっていく。

 ジュリアンの絶叫が遠ざかる中、エリザベートは優雅に背を向けた。


 そこには、馬車で待っていたカエルス皇帝が、彼女を迎え入れるべく手を差し伸べていた。


「終わったか、エリザベート」


「ええ。……ようやく、視界がクリアになりましたわ。陛下、帰りましょう。私たちが支配すべき、新しい世界あしたへ」


 エリザベートが馬車に乗り込むと同時に、背後で王都の象徴だった時計塔が、轟音と共に爆破・撤去された。

 過去の遺物は、文字通り塵となったのだ。


 二度と振り返ることのない、銀髪の背中。

 彼女が去った後の大地には、帝国の軍靴の音だけが、新しい秩序の訪れを告げるように響き渡っていた。

「完封」そして「終焉」。

かつての婚約者が泥の中で狂い、その思い出さえも物理的に粉砕される……。

これ以上ないほど美しい幕引きに、溜飲を下げていただけましたら、

ぜひ【☆☆☆☆☆】の評価を、エリザベートへの「献金」としてお預けくださいな。


皆様の応援がある限り、物語は「復讐」を終え、

いよいよ世界そのものを彼女の色に染める「覇道編」へと進化いたします。

次回、第11話『女帝の戴冠、世界が跪く日』。

エリザベートが真の意味で「世界の主」となる瞬間を、どうぞお見逃しなく。

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