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デルア 2

   ~ 竜将ワイズ ~


 シャム・ドゥマルト 竜舎


 「僕はどうするべきなのでしょうか。ウェンディさん」

 「どうもこうも宰相様の命令なんでしょう? 従う以外の選択肢があるの?」


 ウェンディさんはこんな時も冷静だ。真面目で強く、訓練もサボらない。おまけに事務仕事も(そつ)なくこなす完璧超人みたいな人。ちょっと冷酷な部分はあるけど、本当は優しい人だ。飛竜への態度を見ていればわかる。


 でもな。


 飛竜愛はあるし、優しいんだけど僕と違って生粋の軍人だから上の(めい)ならなんでもやるだろう。


 年は少ししか違わない。だけど落ち着きが全然違う。若いのに飛竜隊の隊員からの信頼も厚い。


 「だいたい調教もしていない飛竜を集めたところで戦力になるはずがないじゃないですか。子供が考えたってわかることだ。ていうか誰が乗るんです? 初見の飛竜に乗れる人なんていません。乗り手と飛竜が深い信頼関係で結ばれる、だから僕らは自由に空を飛べるんです。野生の、しかも未調教の飛竜なんてとてもじゃないけど乗れません。飛竜は谷で平和に暮らしているんです。彼らの暮らしがあって生活がある。なぜ僕らの都合で危険な目に合せなくちゃいけないんです? 意味がわからない。なにを考えてるんだ」

 「そんなの簡単じゃない。敵に殺させるのよ」

 「へ?」

 「こっちには魔将ドミナ・マウがいる。死体は多ければ多いほどいい。これがデルアの戦略なのよ。いつもそうやって戦ってきた」


 なんてこった。


 それじゃあ……。


 「大変ですウェンディさん! 朱恩寺の人もアシュリー教徒もみんな……」

 「盾にするつもりでしょうね。まず死の山が築かれる。なにも知らない不憫(ふびん)人たちの死が。そこからデルアは牙を剥く」

 「バカ気てる。そんなの普通じゃない!」

 「普通じゃないよ。殺し合いだもん」


 やっぱり僕は……。こんな……。


 「間違ってる……」

 「ねぇワイズ君。飛竜を連れて逃げようとしたってホント?」

 「……」

 「別に怒ったりしないから」

 「ここ最近のデルアは変です。救護が原則禁止になったのもおかしい」

 「なったね」

 「救える命を見捨てるなんてどうかしてる。早めに処置すればまた飛べるようになる竜だっているし、普通に生活できる兵士だっているのに。このままじゃ飛竜が全滅します! もうデルアは何種もの生き物を絶滅させてきたじゃないですか。もう充分じゃないですか。せめて……。竜だけでも……」

 「国が所有している竜を逃したところで、状況はなにも変わらないと思うけどね」

 「でも……」

 「ワイズ君は考えが甘いんだよ。最高の乗り手だということは認める。でも人の上に立つ器じゃない」

 「すみません……」

 「責めてるんじゃない。バレバレの脱走しようとしたんでしょ? 飛竜には旅装させて、パンパンに荷物を詰め込んだバックもって。家出する子供じゃないんだからもっと上手くやらないと」

 「手ぶらで行ったら苦労するかなと」

 「うふふふ、あはは。ははははははは。本当にワイズ君は救いようのないバカだね。いまは混乱してるからいいよ? でもこの戦いが終わって余裕が出来たら君、断罪されるよ?」

 「……」

 「飛竜を助けたかったのはわかるけどさ。そんな早まったことしてワイズ君がいなくなって、今後誰が飛竜を守るの?」

 「……。もう、どうすればいいかわかりません」

 「そうだなぁ。もしデルアが勝てば戦後の処理がはじまるね。戦前逃亡しようとしたワイズ君は間違いなく追及される。十年単位の禁固刑は確定、奴隷落ちか死刑もあるかも。いくら君が飛竜を愛していても守りたくても(おり)のなかからじゃ、なにも出来ない。でもデルアが負ければ君は自由だ」

 「でもそしたら……」

 「デルアが勝ったら君の負け。デルアが負けたら君と飛竜の勝ち。どうすべきだと思う?」


 それってつまり……。


 「そんなことしたら脱走より重罪ですよ!」


 口をムの字に結んでなにか考えている様子のウェンディさん。


 変な沈黙が訪れた。


 ……。


 そして、ウェンディさんが口を開いく。


 「一緒に逃げちゃう?」

 「へ?」

 「だから一緒に逃げようかって言ってるの」

 「そんなことしたらウェンディさんが……」

 「そうだね。困ったことになっちゃうね。それで?」

 「それでって」

 「私にもワイズ君にもいないでしょ? 家族。それに飛竜隊のトップが脱走するんだ。責任をとらされる隊員もいない。逃げても誰にも迷惑かからない。違う?」

 「……」

 「……」

 「本気で言ってます?」

 「本気だけど?」

 「でも一緒に逃げてもウェンディさんにメリットがないじゃないですか」

 「ワイズ君を失わないで済む」

 「はい?」

 「好きなんだ、君のことが。こんな国なんかより、君一人の命の方が大切だ」

 「……」


 ん?


 いまなんて言われた?


 「やっぱ私じゃダメか。女らしくないもんね。ごめんワイズ君。変なこと言っちゃって」

 「……」

 「えぇっと……。早く逃げなよ。一緒には行けないけど、ここは離れてた方がいい」

 「変じゃないです」

 「え?」

 「全然変なことじゃないです。ウェンディさんは僕の憧れで、その……。ずっと一緒にいて……、だから……。なんて言えばいいのかわからないけど」

 「……」

 「迷惑かけると思いますし、あれ、なに言ってんだろう、僕」


 綺麗な歯を見せて、明るく笑うウェンディさん。


 「頑張れワイズ」

 「僕もウェンディさんのことが好きです。大好きだ!」

 「そうかなって思ってた」


 いつもの冷静なウェンディさんとは違う、柔らかで優しい女性が、そこにいた。


 「えぇっと……。これ、竜石なんですけど……。綺麗だなって思って……。いまはこれしかないから」

 「お? もしかしてプロポーズかワイズ君」

 「え? あ、はい。そんな感じかもしれません。ウエンディさん、僕と一緒に逃げてくれますか?」

 「もちろんだよ。竜石、ありがとね、もらっとく。さぁ時間がないぞ、ワイズ君。可愛い飛竜を連れて敵前逃亡だ!」




 ~ 弓将ルベル ~



 シャム・ドゥマルト


 「ステイン様、報告です。竜舎に飛竜がいません! 一頭も! それに(くら)(むち)、油や手綱(たづな)も! 竜具一式全部ありません!」

 「な、なんだと!?」


 ワイズには逃亡の恐れあり、要監視とウェンディには伝えておいたはずだぞ。


 まさか、あの女も裏切ったのか? バカな。考えられん。任務のために己を殺す生粋の軍人だと思っていたが……。


 しかし、いまはワイズにさく人員もいない。


 憶えていろワイズ、ウェンディ。この戦いが終わったらしっかりと責任をとってもらう。


 しかしあの二人が抜けるとなると……。


 うぅむ。


 悩ましい。が、ワイズの穴を埋めるだけの活躍を出来る人間となると限られる。


 「おい、一つ頼まれてくれないか?」

 「はっ」

 「いまから教える家を尋ね、ルートという狩人を連れてこい」

 「どのような名目でお連れしましょう」

 「俺からの伝言をそのままルートに伝えろ」

 「はっ」

 「戦場に立つことを許可する、と」




 ~ 闘将ユキ ~


 シャム・ドレイン山脈中腹 朱恩寺


 「ご無沙汰しています。ヤァシリ師匠」

 「うむ」

 「お話はお耳に入っているかと思いますが」

 「賊と戦っていると聞いた」

 「はい。応援の要請に来ました」

 「賊程度に我々が出向く必要があるのか?」

 「……」

 「なにやら迷っているようだな。ユキ」

 「今回の敵はいままでとは違います」


 ヤァシリの長い眉毛の下で、鋭く目が光る。


 「違う、というと?」

 「見たこともないような体をもつ剣士、飛竜以上の速度で空を飛ぶ男、身体強化なしで私と戦える少女、一番弟子を一撃で葬り、人並みの連携をしてくる獣。これほどの力をもつ者を敵に回しています。敵は神の使徒だと自称し、シャム・ドゥマルトを含む都市をいくつか襲撃しているのですが、我々は敵に傷一つ負わせていない。敵の目的もわかりません。宰相様は国盗りだと(おっしゃ)っていますが、私にはそうは思えないのです」

 「なぜだ」

 「名状しがたい気味の悪さがあるのです。なにかが違うということはわかる。なにかが食い違ってる。でもなにが違うかがわからない」

 「迷いは拳を鈍らせる」

 「はい」

 「では、どうすべきか解るか?」

 「進む」

 「左様。敵がいるなら駆逐すればよい。さすれば、お前が感じている気味の悪さも迷いも晴れよう」

 「はい」

 「お前の成長を見るのが楽しみだ」




 ~ 舞将リッツ ~


 シャム・ドゥマルト アシュリー教本部


 「いやいやいやいや、ご無沙汰してます。枢機卿(すうききょう)

 「リッツか」

 「話題になりまくっているのでご存知かと思いますがね。王子を誘拐したヤンチャな賊の討伐に付き合って貰いますよ」

 「王子誘拐。お前にとっては望外の喜びであっただろうな」

 「えぇ、賊がミクリルを殺しておいてくれれば最高なんですがね。ところで枢機卿。教会におもしろい娘が入ったと聞いたのですが」

 「耳が速いな」

 「情報収集はちょっと得意なのでね」


 ニヤリと口角を上げるジジイ。相変わらず気持ち悪い爺さんだ。


 「また教徒の締め上げをしなくてはな」

 「そんなことしてたら信者がいなくなっちゃいますよ?」

 「お前にウロチョロされるよりはいいだろう」

 「あぁやだやだ。で、その娘はどこに?」

 「賊討伐には力を貸す。だが娘は出さん」

 「ベル・パウロ・セコ、でしたかね」

 「名前まで調べ上げているか」

 「もちろんですとも」

 「まぁどちらにしろベルは出さんがな」

 「そこをなんとか。個人的にも興味がありますし」

 「出さんと言ったら出さん。デ・マウの目的は教団の出兵だろう。ベルは関係ない」

 「娘を出すことで戦況が有利になるのだったら出すべきだと思いますがね。なんなら宰相様に報告してこようかな」

 「貴様リッツ。そんなことをして唯で済むと思うか」

 「枢機卿。僕を脅して唯で済むと思ってるんですか?」


 人を見下し、見定めるような湿った瞳。嫌な爺さんだ。


 「まぁいいでしょう。娘はそのうち」

 「ふん。で、どれくらいの数がいる」


 一瞬、表情が強張ったな。そして安堵した?


 そうかそうか。話題を変えられて安心したか。


 これはアレだな。


 「あれ? あれれ? もしかして娘の話は御嫌ですか?」

 「いや、構わんが」

 「ベルの存在を必死で隠そうとしていましたねぇ。教徒を締め上げるなんて言ってましたし」

 「お前のような男に情報を漏らすような教徒はいらないからな」


 ふふふ、面白い。


 また一つ武器が増えそうだ。




 ~ 魔将ドミナ ~


 シャム・ドゥマルト 地下


 「首尾はどうだ。ドミナ」

 「解毒剤は仕込んだ」

 「そうか」

 「デイ」

 「なんだ」

 「空を飛ぶ男が欲しい。体が消えたという剣士も。怪鳥もだ。全部使える」

 「ならん」

 「なぜだ」

 「あの男の体には価値がある。お前には譲れん」

 「必要だ」

 「ならん」

 「(かたくな)なだな」

 「お前は言われた通りにしておけばいい」


 なにを偉そうに、能無しめ。


 いつか全部奪ってやる。俺が。お前の全てを。

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