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反撃 ノ 口火

 足音、怒声、金属の触れ合う音。


 一気に騒がしくなった。だが周囲に取り残されたように、俺の心だけはどこまでも静かだ。


 《ホメオスタシス》が働いてくれてる。


 「マンデイ。体調はどう?」

 「静か。気持ちがいい」


 気持ちがいい、か。確かにそうかもしれない。《ホメオスタシス》があらゆる感情や変化を平坦に戻しているからな。


 今後も本当に苦しい時、怒りでどうにかなりそうな時、これを使ってみるのもいいかもしれない。


 頭がよく働く。焦燥(しょうそう)や恐怖すらないから。


 《ブルジャックの瞳》で俺の位置を把握しているのは、まだ少数だろう。あまりにも急な出来事で、伝達する時間なんてなかっただろうし。


 接敵するとしたら、俺を感知している可能性が高いデ・マウ。それかデ・マウの指示を受けた兵士、あるいは音を聞いて駆けつけた者。


 囲まれても空に逃げればいいが、《ホメオスタシス》が精神攻撃を防げなかったら、どうしようもない。


 「マンデイ通路を塞ごう」

 「うん」


 瓦礫の山でバリケードを築いておこう。創造する力で変質させて崩れにくいように。


 隣にいたマンデイのスーツがメリメリと音をたてる。そして、壁を殴る。


 とてもトンファーで壊したとは思えないような崩れ方で壁が崩壊した。


 俺は瓦礫や壁を変質させてバリケードを構築、同時進行で空のケアも。カーテンを細く鋭い糸に変質させて、ピアノ線トラップ的な物を造る。これで飛竜が来ても大丈夫。突っ込んで来たら飛竜の三枚おろしの出来上がりだ。


 そうこうしているうちに何人かの兵士が到着したようだ。


 バリケードをどうにかしようと頑張っているが複雑に組まれた瓦礫や、カーテンを変質させて造った粘着性の(あみ)に四苦八苦。


 暗殺や潜入もいいが、トラップ使った迎撃も向いてるかもな、俺。


 その時、空間がグニャリと歪んだ。溶けた(あめ)みたいに、物の輪郭(りんかく)が崩れていく。しかし妙な感覚に(おちい)ったのは一瞬で、すぐに正常に戻った。


 「マンデイ」

 「なにかされた」


 付与対策のリングがカチカチと音をたてはじめる。恐らく弱体化をされてるんだろう。が、なんの変化も感じない。


 と、急に体が半分()けた兵士がバリケートをすり抜けてきた。そして俺にたどり着くまえに消える。


 「いま幻覚を見せられてる。だが不完全で簡単に見分けがつく。《ホメオスタシス》が効いてるのかもしれない」

 「こっちも」


 強化のレベルを体験しておきたいが《ホメオスタシス》はデ・マウの魔術を完璧に防いでいるとは言い(がた)い。


 当初の予定では、中途半端に効果を発揮した場合は即撤退だった。だが思ったよりも余裕がある。


 ん? 余裕があると感じている現在(いま)この瞬間が幻覚という可能性もないことはないのか?


 考えるだけ無駄か。疑いはじめたらキリがない。


 「マンデイが見た幻覚を送ってくれ」


 魔力の導線が伸びてきて、俺に触れる。


 マンデイが見たのは、俺が剣を抜いて攻撃してくるというもの。やはり体が半分透けていて、動きがぎこちない。かなり杜撰(ずさん)な仕上がりだ。


 この程度なら兵士と戦う余裕がありそうか? いまやっとかないと、次にいつチャンスが巡ってくるかわからないしな。


 欲張りたくはない、が、懸念材料を後に残したくもない。


 「リスクはあるが、デ・マウの強化のレベルを確認しておきたい。構わないか?」

 「うん」


 ん?


 指先がチクチクと痛む。


 今度は幻痛か。


 「マンデイ、感じるか?」

 「感じる」


 普通にしてても我慢できる程度の痛み。動作にも支障はなさそうだ。


 「針でチクチク刺されてる程度の痛みを感じる。マンデイはどう?」

 「それくらい」

 「動きの邪魔にならない?」

 「ならない」


 いい感じに《ホメオスタシス》が刺さってくれてるようだ。本来ならこんなもんじゃ済まないだろう。


 「それじゃあ強化のレベルを——」


 投降シロ、投降シロ、トウコ——


 今度は幻聴。


 器用な男だなデ・マウは。


 「聞こえた?」

 「うん。もう聞こえない」

 「《ホメオスタシス》が無効化したんだろう」


 なんの準備もしないで襲撃して、モロに幻覚や弱体化を食らってたら絶対に捕まってただろう。


 幻覚のせいで疑心暗鬼になり、反応が遅れる。痛みを与えられるせいでどれが本物のダメージがわからない。幻聴で連携が取れなくなる。おまけに弱体化。


 リングと《ホメオスタシス》無しでどれくらいの影響が出るのだろうか。一度試してみたい気持ちはあるが相手は格上、そんな余裕はない。

 

 「バリケードを一部撤去する。数人だけ入れたらまた(ふさ)ぐから」

 「うん」



 シェイプ・チェンジ《山猫》



 「いまから報告は通信機を使ってね」

 「うん」


 バリケードの一部を解除し数人だけ招き入れると、また(フタ)をした。


 一人か二人の予定だったんだけど、わりと入ってきたな。


 『マンデイ、相手をしててくれ。試したいことがある。キツそうだったら無理せず報告を』

 『うん』


 バリケードのなかに遊びに来てくれたお友達は四人。


 うち三人は普通の兵士に見える。棒状の武器を手にしているのが二人。一人は短剣。


 三人の兵士の後ろで構えているのが魔法使いチックな服を着た男。



 《衝撃・投擲(とうてき)



 敵の配置を確認するが早いか、衝撃で加速させて子機を投げた。刺したのは敵の後衛、魔法を使いそうな奴。


 こんな狭い場所で魔法は使わせてないよ?


 『マンデイ、兵士は二人落としていい』

 『うん』



 《電気魔法・避雷針》



 電気を流された魔法使いは、力なく崩れ落ちた。


 相手に電気耐性がなくてよかった。あったら毒使わなくちゃいけなかった。


 マンデイは……。


 やっぱ強ぇな。


 先頭を走ってきた棒装備二人相手に圧倒してる。


 ファーストタッチ。マンデイが前蹴りで一人吹き飛ばす。飛ばされた兵士に短剣の男が巻き込まれた。


 残った方にミドルキック。それを防ごうとして、棒が折れる。体勢が崩れた所に追撃のトンファー、体を守ろうとして上げた腕が変な方向に曲がった。


 一瞬の攻防だ。それで決まった。


 前蹴りされた方の兵士が腹を押さえながら立ち上がってくる。


 巻き込まれた短剣装備の兵士は、一方的に殴られ倒された仲間の姿に目を見開いていたが、すぐに気を取り直して俺の方に突っ込んくる。


 なぜ俺?


 数かけてマンデイ潰せばいいのに。マンデイには勝てないと判断したかな?


 ちょうどいい。実験台になってもらおう。


 相手の短剣の動きを見切り、太腿(ふともも)に針を刺す。


 注入したのは出血毒。


 そして、今度は首筋に軽めの神経毒。


 この人も強化されているとは思うんだけどな。思ったよりも強くない。いや決して弱くはないんだけどね。


 「痛い?」


 尋ねると、兵士は怒声を上げる。


 かなり怒ってらっしゃるようだ。カルシウムが不足しているのかもしれない。


 距離をとって観察。


 動きは鈍くなった。一部の筋肉が痙攣して動作がぎこちない。ただ足を痛がっている様子はない。


 が、俺が近づくと、苦悶の表情を浮かべた。


 ふむふむ。


 なるほどね。


 腕投げをして、そのまま肩の関節を外す。


 完全に戦意を喪失したようで、動きがなくなった。


 試しにまた距離をとってみる。すると元気になって突っ込んできた。足も肩も痛くなさそうだ。


 だが、俺との距離が縮まるとまた苦しみだした。


 ほうほう。


 大体わかった。もういいや。



 《衝撃・ストレート》



 短剣使いは激しく壁にぶつかって、意識を失った。


 ふぅ。


 マンデイの方も片付いているようだった。


 勇敢にもマンデイに挑んだ棒使いだが、一人は白目を()いて泡を吹いている。そしてもう一人はビクンビクンと痙攣していた。


 マンデイさん? やり過ぎでは?


 『強くなかった』

 『俺も似たような感想。さて、逃げようかね』

 『うん』



 シェイプチェンジ《鷹》



 外に出ると飛竜隊がお出迎えしてくれた。


 王城の潜入でわりと神経使ったから、さすがに疲れた。相手するの、面倒だ。


 『マンデイ。三つ数えたら全力でフラッシュ』

 『うん』


 三、二、一、さようならー。


 速度の暴力で飛竜を引き離して帰宅すると、真っ先に飛んできたのはマクレリアとマグちゃん。


 ここ最近、マクレリアは日に日に弱っていっている。飛行のプロフェッショナルとは思えない程フラフラと不安定な飛び方をするし、外皮の色も悪い。


 「無事に帰ってきてくれてなによりだよぉ。で、どうだったぁ?」

 「作戦通りにいきすぎて逆に不安になってますね。デ・マウの強みは完全に殺せてました。不干渉地帯周辺で戦闘することさえ出来れば可能性はあるかなと」

 「君は凄いなぁ」


 ニコニコ、ニコニコ。


 無理して笑顔をみせてはいるが、今日はかなりキツそうだ。俺のことを心配している余裕なんてないだろうに……。


 「これで終わったわけじゃないので、まだ気は抜けません。あくまで《ホメオスタシス》とボディリングの有効性が実証できただけですからね。そんなことよりマクレリアさん、無理に飛ばないでください。体に触ります」

 「あいかわらず君は過保護だなぁ」


 そうは言いつつ俺が手を出すと、素直に乗ってきてくれる。


 マクレリアの体は、嘘みたいに軽い。


 「マグちゃん、みんなを外に集めて。報告をする」

 「わかっタ」


 今回、得たものはかなりデカい。もしかするともしかするかもしれん。


 「結論から言います。デ・マウ攻略は不可能ではありません。

 まず《ホメオスタシス》ですが、完璧ではないものの、かなり高い水準で精神攻撃をブロックしてくれました。使われたのは幻覚系です。幻聴、幻視、幻痛。幻聴は一瞬声が聞こえただけ。幻視は不完全な上、すぐに消失。幻痛は針で突かれる程度。どれも戦闘の支障にはなりませんでした。

 ボディリングは正常に機能、弱体化の付与らしきものは感じませんでした。

 最後に強化ですが、痛みの緩和、戦意向上、戦闘能力の強化、この辺だと思います。

 まずは痛みの緩和ですが、敵は手加減なしのマンデイの蹴りを鳩尾(みぞおち)に食らったにも関わらず、普通に立ち上がりました。僕も出血毒を太腿(ふともも)入れたのですが、何事もなかったかのように距離を詰めてきた。

 以上の点から痛みの緩和はかなり高いレベルだと思われます。

 戦意の向上ですが、強化の付与が効いているあいだは決して諦めようとはせず、ひたすら攻めてきました。しかしこれに関しては確信はありません。痛みがないから戦えるだけかも。

 戦闘能力の向上ですが、これも憶測です。マンデイの蹴りに耐えた。スーツの補正込みでフルスイングしたトンファーを食らって骨折だけで済んだ。この辺の結果からそう推測しただけです。あるいは敵が闘将ユキとおなじような身体強化を使っていたのかもしれません。ですので確定ではない。

 その他の情報ですが、神経毒は強化されてても有効です。麻痺を確認しました。

 あとボディリングは強化の付与も吸いとるので、敵に接近すれば効果はなくなります。ですので負傷した相手を見つけたら、近づいて強化を解き、痛みを感じさせて動きを鈍らせた上で確実に再起不能にするのがいいでしょう。

 最後にデ・マウと対面してみた感想ですが、無策でいけばおそろしく強いですが、装備さえ整えておけば理不尽なほどではないという感じです。

 報告は以上。ありがとうございました」

 「よくやった」

 と、ヨキ。


 本当だよ。結構疲れた。ぐっすり眠りたい。


 「あっ、それと王子誘拐の段取り考えたので発表したいのですが構いませんか?」


 ……。


 会議の沈黙は肯定。


 「ムドベベ様は確定。輸送及び戦闘になってしまった場合の主な火力です。次にジェイさん。魔法で雲を操作してムドベベ様の姿を隠して貰います。戦闘になった場合はムドベベ様の補助を」

 「わかったわ」


 いい返事。そして自信満々のいい表情。


 「次、リズ。索敵しつつ王子を見つけてください。巨大な体をもつムドベベ様を隠しながら探さなくてはいけません。視程(してい)に恵まれないなか、これをやれるのはリズしかいません」

 「は、はい!」


 うん、大丈夫。たぶん。


 「次、マグちゃん。デ・マウに感知されてから対応されるまでのタイムラグ。その間に王子に毒を叩き込んで欲しい。警鐘が鳴れば不意打ちの効果は薄れる。ミクリル王子はそこそこ戦えるみたいだし、身体強化を使われない保証はない。王子が戦闘態勢に入るまえに距離を詰めて毒を打つ。いい?」

 「わかっタ」


 仕事人マグちゃん。やる気がある感じで頼もしい。だが打たれ弱いからしっかりフォローしなくちゃ。


 「最後、ヨキさん。マグちゃんが毒を打った後のカバーをしてください。広範囲かつ難しい状況を打開する能力にかけてはヨキさんが一番なので。最近は《朝陽》ばかり振らせて申し訳ないのですが、どうかお願いします」

 「あぁ」


 ヨキは問題ないだろう。


 「先程指名したメンバーは合同訓練を行って、各自の能力や性格を把握してください。フューリーさん、ムドベベ様への連絡をお任せしてもいいですか?」

 (うむ)

 「決行はミクリル王子の行動パターンを完璧に把握してからです。それとフューリーさんの能力、《追跡(チェイス)》は今後、デルア第三王子ミクリルに使います。亀仙とコンタクトを取り、王子の位置を把握、《追跡》を発動してください。以上の理由から、これからはデ・マウの動向を監視することが難しくなる。急襲に備え《ホメオスタシス》の打ち込みをし、不干渉地帯周辺の警備を強化します。皆さん協力、お願いします」


 ふぅ。


 無事に終わった。ちゃんと生き残ることが出来た。


 今日は熱い風呂にでも入って眠るとしよう。

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