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潜入 王都 Ⅴ

 約束の日。


 目と耳で索敵が出来るリズベットは近くの建物の上に待機してもらい、不測の事態に備えてマグノリアは室内に配置。


 《朝陽》で対応できそうな人数だったら接触して交渉する。それ以上の人数が来たら俺が壁になりリズベットの退路を確保、マグノリアはファウストの元へ。


 二名が安全な場所まで移動できたら俺も体を捨てて離脱する。


 俺たちが確認し合ったのはここまでだ。あとは相手の出方次第だろう。


 『リズベット、変わりはないか?』

 『いえ、特には。気持ちのいい朝です。ほのぼのしてますね』

 『そうか。オキタ邸に近づく者がいたら知らせてくれ』

 『はい。にしてもいい陽気です。個人的には夕空も好きなんですけどね。なんか哀愁があって』

 『リズベット、索敵に集中しろ』

 『あっ、はい。すいません』

 『気を配っておけ』

 『はい』


 哀愁、か。


 俺は夜の空の方が好きだ。


 草原の空はどこまでも広く、眺めていると己の卑小さに気がついたものだ。森の空、街の空はどうも狭くていか――


 はっ!


 哀愁……。


 デスクワーク派のあの髪型!


 なるほど得心がいった。そういう意味が込められていたのか。


 「ヨキ、どうしタ」

 「いや、ちょっと考え事をしてただけだ、気にするな。敵がいつ来るかわからん、配置についておけ」

 「わかっタ」


 ふふふ、次にデスクワーク派と会うのが楽しみだ。


 『男が建物の門を潜りました。小柄な若者。帯剣しています。金髪、ブルーの瞳』

 『一人か?』


 交渉に来た、と考えるのが自然だろう。戦うつもりならもっと数を集めるはずだからな。


 『リズベット、周囲の警戒を怠るな。追って指示を出す』

 『はい』


 失敗すればあの過保護鳥からなにを言われるかわからん。最大限に注意しておこう。


 「マグノリア、戦闘になったら俺が注意を引く、お前は死角から毒を」

 「わかっタ」


 ギーっと玄関の扉が開く音がする。


 『男が侵入しました。廊下で会われると射線が被りやすくなるので、その場で待機しておいてください』

 『あぁ』


 ギシ、ギシ、と床が鳴る。


 「すみませ~ん、誰かいますか~?」


 なんとも間の抜けた声だ。


 「入ってこい!」

 「は~い」


 ギシ、ギシ。


 『接触する。警戒しておけ』

 『……』『わかっタ』


 さぁ、来い。


 部屋に入ってきたのはリズベットの報告通りの男。ニマニマと不敵な笑みを浮かべている。


 「どうも~初めまして! あなたがオキタを瞬殺した方ですね? なんか想像してたのと全然違うな~。化け物化け物言うからどんなのかと思ってたんですけどね~。あっ、申し遅れました。僕はリッツ・アン・デガルステンです。気軽にリッツ君って呼んでください。どうぞよろしく」

 「ヨル・アスナ・セルチザハルだ」

 「おぉ、セルチザハル。草原の民ですね?」

 「俺の家名、王都では随分と有名なようだな」

 「あはは。一昔前にこの辺で暴れ回ってたバカがいたんですよ。そんなことよりヨルさん。本題に移りましょう」

 「あぁ」


 この男はとても強そうには見えんな。ただの使者か。


 「僕の目的は二つ。一つは指輪の回収。オキタが指輪をはめていたと思うんですが、それを貰いに来ました。アレはただの指輪じゃありません。一つあれば一生遊んで暮らせるほどの価値がある物なんです」

 「魔道具なのだろう? アレなら俺の仲間がもっている」

 「返して頂けますか?」

 「お前次第だ」

 「なるほどね。依頼したいことがあるんです。ヨルさん。あなたも仕事が欲しくてオキタを襲撃したんでしょう?」

 「あぁ」

 「いいねぇ。僕そういうの大好きなんです。たぶん、あなたは僕とおなじ人種だ。目的のためならなんでもする。目の奥が死んでる。決定的になにかが壊れてる。仲良くなれそうだ」

 「いいから要件を言え」


 クスッと笑ったリッツは、顔のまえで人差し指を立てる。


 剣ダコ……。


 しかも尋常なものじゃない。


 『コイツはただの交渉役ではない。気を付けろ』

 『はい』『わかっタ』


 体は嘘をつかん。コイツは、やれる。


 「殺して欲しい人がいるんです。ヨルさんは死体を消せるのでしょう?」

 「あぁ。跡形もなくな」

 「死体を食べると聞きました。今度ぜひ拝見したいものです」

 「機会があればな」


 リッツはニィっと片方の口角を上げて、気味の悪い微笑みをした。


 「手始めにヨルさんの実力を拝見したい。僕が指名する相手を殺して欲しいんです。で、綺麗サッパリ死体を消してください」

 「いいだろう。ターゲットは誰だ」

 「悪魔です。どうやら奴隷らしいのですがね。目障りなんですよ、人の国にあぁいうのがいると。だから駆除しましょう。偉大なるシャム・ドゥマルトを浄化するんです」


 脅しか。まぁこの程度は想定内だ。


 『やろうカ?』

 『挑発に乗るな』


 いま戦闘をしては意味がない。


 「最初からそのつもりで来たのか?」


 リッツは芝居がかった動作で椅子に腰かけて、高い笑い声をあげる。


 「あははは。まさか。ジョークですよジョーク。一応あなたのことは調べさせてもらいましたよ、ってことです。ねぇヨルさん。ところで、本名はなんていうんですか?」

 「ヨルだ」

 「やめましょうよ、そういうの。腹を割って話ませんか? セルチザハルにヨルなんて名前の人物はいません。それに、当主ヨジンさんの妻にアスナという方もいない。下調べもせずに来ると思いました? 答えてください。あなたは誰です?」

 「貴様は名を名乗る程度で相手を信頼するのか?」

 「おぉ、そうくるか」


 この男、仕草や行動すべてが胡散臭い。わざとらしく過剰。舞台上の俳優のようだ。


 「指輪は俺に寄越せ。貴様の仕事は引き受ける。魔道具があれば勝算は高くなるだろう」

 「図太い人だな~、もう。そういうことばっかり言ってると寿命を縮めますよ?」

 「だろうな。俺は早死にするタイプだ」


 リッツが、コツン、コツン、と指先で机を叩く。そして背もたれに体を預け、大きく息を吐いた。


 「なんか態度が気に食わないな~。ねぇヨルさん、ちょっと勘違いしてるんじゃないですか? 教えときましょうか。どっちがご主人様か」



 ガタン



 椅子が倒れたかと思うと、リッツは一歩で距離を詰めてきた。


 速い、が、反応できないほどではない。


 俺は大きく踏込み、相手の利き手を抑える。


 「どうした、抜かないのか?」

 「いい反応ですね」

 「踏み込みが雑だ」

 「ご忠告どうもッ」


 そのままリッツは体を回転させ、俺の腹を蹴る。


 「剣を振る者の弱点はな、リッツ」


 目を見開いて絶句するリッツ。


 伸ばした足は俺の腹を突き破り、背中に貫通している。そして首筋には針を突きたてるマグノリアが。


 「背後への意識が散漫になるとこだ」



 ドサ



 しばらく痙攣した後、リッツは泡を吹いて気絶した。

 

 「コイツから情報を聞き出そう」


 第一王子の使者であり、実力もある。なにも知らんということはないだろう。


 「うン」

 「マグノリア、少し離れたいのだが、このまま放置しておいたらコイツはいつ目を覚ます?」

 「夜までハ無理」

 「そうか。用事を済ませて荷物を纏めに行く。マグノリアは尋問に必要な毒を準備しておいてくれ。俺が戻るまえにコイツが目覚めたらまた寝かせておいてくれると助かる」

 「わかっタ」


 次いでリズベットに通信をする。


 『リズベット。帰り支度をするぞ。コイツから情報を引き出す』

 『わかりました』

 『会いたい奴もいるしな』

 『え?』


 俺が向かったのはデスクワーク派のところだ。なにかとお世話になった、義理は通しておきたい。


 「故郷(くに)に帰ることになった。世話になったな」

 「おいニィちゃん。そりゃないぜ? 退職希望は三カ月前には言っておくのが基本だろ? 社会人としてそれくらい守ってもらわなきゃ困るぜ。いまはイサキさんも出てるし、俺の判断じゃどうにも出来ねぇよ」

 「急用だ。イサキによろしく伝えてくれ」


 深いため息をついたデスクワーク派は、わかりやすく項垂れる。


 「マジか……。なぁ次が決まるまではいてくんねぇか? 頼むよ。いろいろ面倒なんだわ。後任者の調整とかさ。それに給与、給与はどうするよ。時間で清算するからよ、そんなすぐにはやれねぇぜ?」

 「いらん。デスクワーク派、お前が取っておけ」

 「ありがたく頂くよ。それくらいはしてもらわなきゃ割に合わねぇ。はぁ。アンタのせいで残業決定だわ」


 デスクワーク派には申し訳ないことをした。俺はコイツを買ってるんだ、出来れば良い印象のまま別れたかったのだがしかたがない。


 「最後に言いたいことがある。デスクワーク派」

 「な、なんだよ」

 「お前のその髪型だがな、頭頂部はもっと上に行きたい、強くなりたいという上昇志向を。そして、後頭部の髪は、デスクワークに甘んじているお前の状況を現している。そして、側面を刈り上げる理由は邪念を振り払い、わき目も振らずに仕事に邁進(まいしん)しているという意味が込められているのだろう。いつかお前が大成した時、その後ろ髪も刈り落とす算段だな? つまり、お前の髪型には、理想と現実の狭間でもがきながらも努力しているお前自身が投影されているのだ。その形は人生そのもの、生活そのもの。一言で表現するなら、哀愁……、悲哀……、違うか?」

 「ちげぇよ。これはモヒカ――」

 「皆まで言うな。俺だけはわかっている。いつかその後ろ髪が刈り取られることを、願っているぞ」

 「はぁ? なに言って――」


 俺はデスクワーク派の言葉を聞かずに扉を閉めた。


 大丈夫だ。安心しろ。俺だけは理解している。


 お前の生き様を……。


 「あ、あの……」

 「どうしたリズベット」

 「デスクワーク派さん、なにか言ってましたけど?」

 「構わん。研鑽(けんさん)し、日々鍛錬し、ひたすらに強さを求める男同士、余計な言葉はいらんのだ」

 「そうですか……」

 「戻るぞ」

 「はい」


 オキタ邸に戻ると、すぐに尋問用の新しい毒を入れ、情報を聞き出した。


 意思が強いせいかわからないが、リッツはなかなか情報を吐かなかった。だが、毒の量を調整し、痛みを与えることで、なんとか必要な情報を聞き出すことに成功した。


 まずは敵戦力の主軸。


 デルアには卓越した実力をもつ五人の将がいる。


 舞将リッツ・アン・デガルステン


 闘将ユキ・シコウ


 弓将ルベル・イム・ステイン


 竜将ワイズ・リン・ダバス


 魔将ドミナ・マウ


 「まさかコイツがデルアの将だったとはな」

 「どうしますか?」


 とリズベット。


 「殺しとク?」


 とマグノリア。


 「殺す。だが情報を引き出してからだ」


 舞将リッツは剣、体術に優れ、主な戦闘手段は接近戦。


 一度手合せした感じだと、かなりのやり手だろう。反応もそこそこだったし、動きも速かった。マグノリアのフォローがなければ攻略までに時間がかかっていたかもしれない。


 しかし、将が一人で来るとは思わなかった。余程、腕に自信があったのだろう。


 闘将ユキ。


 あらゆる武器を使うが、最も得意とするのは徒手格闘。自己強化をして非人間的な動きをするらしい。リッツの師でもある。


 弓将ルベル。


 大弓を使う。弓の腕はデルアに比肩するものはなく、視野の広さと視力の高さ、状況判断能力、観察眼といった弓兵に必要な能力は、すべて高い水準で兼ね備えている。


 竜将ワイズ。


 幼少期よりデルアに仕え、飛竜の世話をしていた。乗り手としての才能を見出され軍に入隊。すぐさま頭角を現し将にまで上り詰めた。


 魔将ドミナ。


 死霊術で戦場を引っ掻き回すデルアの要。使う死体によって戦闘スタイルや有効射程が変化する。


 「なるほどな」


 他に訊き出すことは……。


 「ヨキさん! なにか接近してます。屋根の上を跳んでる」


 跳ぶ? ファウストの人形か?


 「数は」

 「十ちょっとだと思います」


 その数なら、ファウストではあるまい。


 退くも一手、居座るも一手。


 コイツを救出しにきたのなら、それなりに出来る奴だろう。


 ここで数を減らしておけば、後が楽になるか。


 「リズベット、スーツを発動してここから離れろ。適切な位置についたらフォローを」

 「はい」

 「マグノリア、迎え撃つぞ。落とせそうな奴から落としていけ。まずは数を削る」

 「わかっタ」

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