第1話 封印された守り神
かつてこの村にはエノコロと言う大変凶暴で悪辣なキツネの神がいた。エノコロは村人を恐怖に陥れ、支配して全てを貪り食おうとした。頭を抱えた村人達の中から立ち上がった村長は遠方より豊穣神、クジャラ様を呼んでエノコロを退治してもらった。
しかしその力は強大なものであり、クジャラ様の力をもってしても抑えるのは容易ではなく、エノコロを抑えつける力のために村の中から毎年人柱が選ばれる様になった。
それは村人達にとっても辛い事だったが、エノコロの封印のためにクジャラ様と共にある事こそが自分達の宿命だと受け入れたのである。
「…ムエタ。ムエタ!聞いておるのか!」
ゲンコツが飛ぶ。村長の拳がムエタの頭に振り下ろされ、ゴチンと音を立てる。彼は村長の昔話を居眠りして聞いていたのだ。周囲の子供達に笑われる。
目から火が出たムエタは頭を擦りながら村長を見上げる。村長はため息をついた。
「あはは、お前、年に一度の話もまともに聞けないのかよ。ひょっとして、エノコロの使いなんじゃないのか?」
そう言って笑うのはイノセだ。少し前まではムエタと仲が良かったが、他の友達のグループに入るためにムエタをいじめる側に加わった。
一年に一度とは言えこのお話は毎年同じで、その上に決まって夜に行われる。他の子も眠いのを我慢しているが、眠りそうになれば誰かが起こしてくれるものだ。ムエタにはその友達がいない。
人柱のせいで村は年中、誰かの死を悼んだり別れを恐れたりしていて雰囲気は暗い。土地は痩せ細って毎年の様に死者や病気が出る。僻地で流行病が滅多に来ないぐらいで、厚い信仰による恩恵を全く感ぜられないのだ。ムエタは内心この話を白々しく思っていた。
イノセの首元に下がっている新緑色の勾玉は友情の証にいつも1人で遊ぶ場所で拾った物をプレゼントしたものだ。ムエタは気に入っていただけにあげなければ良かったととても後悔している。
「やめなさい」
村長はイノセを注意した。話を終えると村長はそれぞれ家に戻って寝る様に言う。
他の友達と悪ふざけしながら帰るかつての友達を尻目に1人で家に向かうムエタ。しばらく歩いていると、わざわざ道も違うと言うのに村長がわざわざ彼を追いかけて来た。
また怒られるのかと思ったが、彼は呼び止めると屈んでこう言う。
「ムエタ。きっと辛い事も沢山あるだろう。だが君は1人じゃない。何か悩みがあれば私を親の様に頼りなさい」
「…村長、今年の人柱は僕でいいんじゃないですか?誰も困りません」
「クジャラ様に選ばれるのは栄誉な事だ。そんな自暴自棄に言うものではない。お役目を持った人が選ばれるのだ」
村長はそう言うとしゃがんでムエタに小さな砂糖菓子を握らせる。
「大丈夫だ。きっと大丈夫だよ」
そう言って村長はムエタを抱きしめる。
村長はムエタを引き取ったりしている訳ではないが、普段は誰よりも親身になって世話をしていた。ムエタは働いていたがやはり稼ぎは心許なく、今日まで生きて来られたのは彼の支えあってこそだった。
両親を失ったショックからは立ち直りつつあるものの、誰かを完全に信用する事はできなかった。
「………」
「困った時は何でもいいなさい。できる範囲で助けになるから」
「うん…」
そうして村長と別れるムエタ。痩せた土地の道を歩いて家に向かう。ボロボロの家に入る。彼の小さな「ただいま」の声に返る声はない。
彼の父親は建築の仕事で高い所から落ちて死に、母親は人柱に選ばれた。それからムエタはずっと1人寂しい日々を過ごしていた。
『最近のゲームってムービー短くなったよね。欲しいのはムービーじゃなくてプレイ体験なんだからボクはそれでいいんだけどさ』
ムエタは心に響く声に驚いた。
「え?何?」
辺りを見渡すと視界の左下にやや赤紫色がかった白い毛並みの獣人が現れる。
『オッスオッス。ボクは昼咲だよ』
「何?悪霊?」
『可愛いオスケモだよ』
孤独なあまり、頭がおかしくなってしまったのだろうか。ムエタはため息をつくと家を出ていつもの場所に向かう。
村外れの空き地に向かうとそこで親からもらったボールを投げたり蹴ったりして遊ぶ。昼間は誰かに見られるから、夜しか外で遊べなかった。
『まるでボクを見てるみたい』
「うるさいなぁ。俺の頭から出てってよ」
昼咲と言う変な獣人は視界の端で頭を左右に揺らす。
勢い余って強く蹴ったボールが木々に当たって跳ねる。すると近くにあった像に当たった。像が倒れる。
「あ、やばっ」
そこにある像はかのエノコロと言う邪神を封じるための物だった。急いで像を起こそうとするムエタ。しかし、像の下からボコッと音を立てて右手が伸びる。
「うわっ!」
今度は左手が伸びる。そしてピョコっと獣の様な耳が生える。それから両手で地面を掴むとガバッと少女が出て来た。ケモミミにケモ尻尾を携えた少女は古めかしい服から土を払いながらゲホッゲホッと咳き込む。
「ぶえーっ、酷い目に遭ったのう…」
金色の耳と尻尾を震わせてて残りの土を払い落とす。
『ここまでオーソドックスなタイプは1周回って最近見なくなった気がする。流行れ流行れ…』
ムエタは一歩、二歩と後退りする。
「でもシャバの空気はうまいのじゃ」
そう言い終えるや否やその場にうつ伏せに倒れた。
「あわわ…邪神…」
ムエタはそう言いながら走り出した。しかし透明な壁に行く手を阻まれて先へ行く事ができない。
「お主、近う寄れ」
少女はうつ伏せのまま手を起こすと手招きする。
邪神と言い伝えられる少女から、村長から聞かされたお話の様な禍々しさは感じられない。ムエタはどうすべきか迷う。
『ガン無視でバッドエンド回収しよう』
「バッドエンドって何?」
『体当たりして結界出られない?』
ムエタは見えない壁に向かって体当たりする。何度も身体をぶつけるとやがて見えない壁から外に出られた。
『やったぜ』
昼咲の言われた通りに逃げようとするムエタ。しかし後ろの少女が気がかりで逃げるに逃げられない。振り返ると少女はうつ伏せのまま倒れており追いかけてくる様子はない。
初めは逃げようと考えていたムエタだったがおそるおそる少女の元へ向かう。
「存外に聞き分けのよい子供じゃな。何か食べ物を持っておらんか。百年ほど埋まっていたかはお腹が空いてかなわん」
「その前に1つ聞きたいんだけど…。あなたが邪神、エノコロ?」
「村の守り神であり、豊穣神のエノコロじゃ!クジャラめ、言うに事欠いてわしを邪神呼ばわりさせるとは…」
そう言うと彼女は起き上がり近くの植物に手を当てて花を咲かせる。言い伝えによればクジャラが持つはずの力である。力を使い果たしたのか、腹の虫が鳴るとまたそのままうつ伏せになって倒れた。村長からもらった砂糖菓子を差し出した。彼女はそれを見ずに受け取る。
エノコロは顔を上げて掌にある砂糖菓子を見つめてパァーッと顔が明るくなった。
「おおお!砂糖菓子!砂糖菓子ではないか!百年振りの馳走が砂糖菓子とは、先行きが良いのう!お主、豪商の息子か?」
「いや、村長にもらっただけ…」
「家が太ければ家でお世話になろうと思ったのだがのう」
そう言いながらエノコロは砂糖菓子を食べる。
それからムエタは村の現状を話した。彼女が眠っていた百年を概ね把握する。
「そりゃクジャラが邪神に決まっとるじゃろ。土地は痩せてるしわしの封印はこの有様じゃぞ。人柱を捧げてる割に何の恩恵も受けておらぬではないか」
砂糖菓子の粉のついた自身の指を舐めながら呆れた様に言うエノコロ。ムエタはエノコロに頭を下げた。
「お願い!村を助けて!邪神のせいで村はボロボロなんだ、このままじゃ滅んでしまう!」
エノコロは肩を竦めて笑う。
「そうしてやりたいのは山々なんじゃが無理じゃ。神格はないし、信仰心もない。今のわしじゃ返り討ちにされるだけじゃし」
そう言うとエノコロは立ち上がり村の反対側へ向かって歩き出す。
「世話になったな小僧。わしは新天地へ行くから元気でやるのじゃぞ」
「そんな…!」
冗談という風でもなく本当に尻尾を揺らしながら去り行くエノコロ。ムエタは頭を抱えて塞ぎ込む。
『草。必要なのはエノコロの神格を宿した神器なので、討伐そのものは君1人で何とかなるかもしれないよ』
左下でご機嫌そうに笑う昼咲。
「エノコロの神格?」
その言葉にピタリと足を止めるエノコロ。
『そー。人間も物をお金に変えるじゃん?神様は余った神力を神器に変えて貯蓄するんだよ。エノコロは何も装飾具持ってなかったでしょ?封印される際にクジャラに毟られたんだろね。封印しかできなかったんだから、ましてや全盛期の力を持つ神器を破壊できる訳ない。後はムエタが神器を身に着けてクジャラをボコボコにすればおけ』
「神器を使う?俺が?」
『神器は所有者を選べないんだよ。誰にでも所有できるから基本的に神様は頑なに神器を手放さないんだ』
エノコロが振り返る。
「え?わしの神器まだどこかに保管されてる?」
『何なら現人神になれる。守り神レベルの豊穣神の神格になるといるだけで周囲の作物が育つから勝手に信仰心が集まるし、上手く信仰心を保てば一生働かなくていいよ』
「俺、現人神になって働かずに暮らすよ!昼咲、どこへ行けばいい?」
神器と聞いて血相を変えたエノコロがムエタの所へ戻って彼を揺さぶる。
「おい!昼咲って誰じゃ!神器はわしのじゃ!おい、聞いておるのか!」
『さあ。自分にも扱えない物を適当な所に置いてるとは思えないし、祭場じゃないの?この村に生贄を捧げる場所とかない?』
「よーし、頑張るぞ!」
ムエタはそう言って祭場へ向かう。エノコロもムエタの後を追う。
村奥に向かうと生贄を捧げる祭場へ続く道には見張りがいた。この辺りは年中じめじめしており、横路に生える草木がこちらに向かってもたれかかる様に生えていて実に不気味だ。
見張りは緊張感もなく眠そうにうとうととしている。強行すれば起きて咎められるかもしれない。ムエタは作戦を考える。エノコロはムエタの後ろからひょっこり現れて見張りを眺める。
「…仮にも邪神像へ続く道には見張りがいなくて、祭場に見張りがいるというのは何かおかしくないか?」
「何だ、いたんだ」
いかにも「さっきは村を見捨てたのに?」とでも言いたげな顔で言う。エノコロはあたふたしながら身ぶり手ぶりする。
「あーほら、お主らにとって守り神はいた方が良いじゃろ?神器があればクジャラだってちょちょいのちょいよ」
「それなら何でクジャラなんかに封印されたの?」
それを聞かれてエノコロはそっぽを向きながら尻尾の毛先を弄る。
「…美味しい酒を振る舞われたのじゃ。いつもはケチな村人も一緒になって勧めるから調子に乗って飲んでたら、毒を盛られてたみたいで眠らされたのじゃ。それで、気が付いたら封印されてて…。とかく、もう酒は飲まん」
「………」
ムエタは黙って酒を注ぐポーズをする。するとエノコロは耳をピンと立たせ、尻尾を振りながらお猪口を差し出す仕草をする。
「おー気が利くのう♡百年振りの酒じゃあ♡」
そこまで言ってハッとする。
「今のナシ!今のナシ!!」
必死になって言い訳を始めるエノコロ。ムエタはまるで聞き分けのない子供の相手をする様な笑みを浮かべていた。
『お酒ってそんなに美味いのかなぁ。大人は美味しそうにに飲んでるよね』
さすがに騒ぎすぎたためか見張りに見つかってしまった。
見張りは草をかき分けて2人を発見すると頭を掻いて困惑する。
「ムエタ…、それと誰だその子。駄目じゃないか、こんな夜遅くまでこんな所を歩いてたら。帰んな」
適当にあしらわれる2人。エノコロは首を傾げた。
「今、ひょっとしてわしは童扱いされたか?」
「その見た目じゃね…」
キツネの様な耳と尻尾が生えている事を除けばムエタとほぼ同年代の子供である。見張りは一向に立ち去らない2人の会話より、段々とエノコロの耳と尻尾に興味が湧いてきた様だ。彼は徐に中腰になるとエノコロの耳を手で掴んで引っ張る。
「ギャーン!この不敬者め!どこを触っておるか!」
甲高い悲鳴をあげると見張りのでこに人差し指を当てる。すると見張りはその場にコテンと倒れた。ムエタは驚いて見張りの様子を見るが息はしている様だ。
エノコロは不機嫌そうに「童扱いはされるわ耳は触られるわ、全くかなわんな」とか言いながら祭壇の方へ向かう。
「何をしたの?」
「気を当ててやっただけじゃ。神に触れたり触れられたりしたんじゃ、幸せな奴よ」
「正直、尻尾は触ってみたい」
「構わんが触る時は遺言書はしたためてからにするのじゃ」
エノコロは笑顔で答えるが目が笑っていない。よほど嫌な様だ。
『ボクも尻尾はやだなぁ。頭と首と背中とお腹なら撫でてもいいよ』
「まず昼咲はどこにいるのさ」
『上』
ムエタは空を眺める。しかし姿は見当たらなかった。
しばらく歩くと祭場に着いた。ここに何十人者人が捧げられたと言うのに人の気配はまるでない。ムエタはかつてここに立っただろう母の事に思いを馳せる。
祭壇の上には最近置いたらしい農作物がある。エノコロは祭壇の供物を食べ始めた。
「それ、クジャラ様への供物なんじゃないの?」
「クジャラは豊穣神ではない。わしが豊穣神じゃ。作物の豊作を願った供物ならむしろわしのじゃろ」
次々に手を付けて食べる。百年振りに地上へ出たのだからお腹が空いているのは仕方がない。そう思いムエタはひとまず神器を探す事にした。
シャン…シャン…。
金属の擦れる音が聞こえる。ムエタが目をやると草むらから村長が現れる。いつもとは違いまるで住職の様な身なりをしている。手には錫杖があった。
「相変わらずの食い意地だな、エノコロ」
「イサカ。お前生きておったのか」
エノコロは百年は封印されていたはずである。普通であれば知り合いであるはずがない。ムエタは困惑した。場の空気が張り詰める。エノコロは供物を食べる手を止めて村長の方へ向かう。
「お主、老けたなぁ。色男が見る影もないわ」
「お前は随分と小さくなったな。だが内面に見合った容姿と言える」
「終活の相談か。昔のよしみじゃ、叶えてやらんでもないぞ」
今にも襲いかからんとした殺気だったが、エノコロは急にへたっと地べたに膝をついた。
「うおっ。な、何じゃ。力が入らん…」
「周期からして封印の力が弱くなっているのは分かりきった事。先手を打つのは実に簡単」
村長が印を結ぶとエノコロはのたうち回る。
「あだだだだ!」
「ふむ。お前の首を手土産にまたクジャラ様に若さを頂くとしよう」
そう言ってエノコロに歩み寄る村長。ムエタが彼女の前に立つ。
「村長、クジャラ様って本当に豊穣神なの?エノコロって本当に邪神なんだよね??」
「これから死にゆくお前には関係のない事よ」
そう言って村長は錫杖を振るう。エノコロは素早く起き上がるとムエタを抱えて少し離れた所へ跳ぶ。ムエタを降ろすとエノコロはまた力なくその場に膝をつき、そして嘔吐した。
「だ、大丈夫?」
「ぜんぜんだいじょうぶじゃない…。おなかのなかをトゲのついたおたまじゃくしがおよいでるかんじじゃ…」
顔色は悪く脂汗を垂らしている。
「くたばり損ないめ」
村長はお札を投げる。お札は空中で分裂するとカミソリの様に鋭い刃物となって2人を襲う。エノコロはムエタを抱えて地面を蹴り素早く避ける。彼女の後ろを縫う様にお札が刺さる。村長が錫杖で地面を突くと地面から巨大な針が波の様に生えて迫る。エノコロは尻尾の毛を抜くとそれを吹き、幻を生み出すと攻撃をそちらに向けた。
そのまま分身に村長を攻撃させるが、振るう錫杖にあっさりと掻き消されてしまう。村長が自身の人差し指を噛むと、お札に血を塗ってそれを吹く。すると血がお札から離れ粉の様に舞って赤く光る蝶々になりムエタ達へ襲いかかる。エノコロは手を前に差し出すと一陣の風を吹かせて蝶々を村長の方へ返した。蝶々は爆発して村長に傷を負わせる。
激しい妖術の応酬。村長は膝を突き、エノコロは地面に伏した。
「もうむり…むりいがいのなにものでもない…」
力を使ったためかエノコロは虫の息だった。
「エノコロ!エノコロ!俺は一体、どうすれば…」
立ち上がった村長が迫り来る。
「百を超えた人間の動きじゃないじゃろあのジジイ…」
恐らくクジャラに与えられた力もあるのだが、それを差し引いても彼の動きは明らかに人間離れしていた。エノコロは悪態をつきながら身体を起こそうとするがままならないらしく動けない。ムエタはエノコロに覆い被さる様にして庇う。
「共々あの世に送ってやるぞ!」
村長が叫ぶ。エノコロは隙間から手を前に突き出した。
「一か八かじゃ!我の求めに応えよ神器!」
エノコロの叫びに呼応する様に祭壇の厚い石を砕いて現れる剣。それは宙を舞って村長に斬りかかる。神器の斬撃を何とか錫杖でいなして彼は後ろに下がった。神器はやがて力尽きた様にムエタの前の地面に突き刺さる。
「ムエタ、後は頼めるか?」
「わ、分かった」
ムエタは神器を引き抜いた。神器の力がムエタに流れ込む。ふつふつと血肉が沸き立つ。
村長はお札を撒いて2人に襲いかかる。ムエタが神器を振るうとお札は鋭さを失い紙吹雪の様に舞い落ちる。ムエタは地面を蹴って走り村長の懐に飛び込む。ムエタの感情的な斬撃を村長は錫杖で捌く。
「何故お母さんを、村を裏切った!」
「神器を手にしたお前になら分かるだろう?その力への憧れが。神の力とはそれを持つ者を狂わせる、如何ともし難い魔性の力よ」
そう言って振るう錫杖を神器で弾いた。そしてムエタが村長の胸部に刃を突き通す。患部から黄色く燃え上がる炎が村長の身体を覆う。村長は燃える体を眺め、諦めた様に笑う。
ムエタは神器を握り締め、拳をわなわなと震わせる。
「あなたの事、尊敬していたのに…!」
「実れ、太れと祈る相手を尊敬するとは笑わせる!実に愉快だ。ハハハハハ!」
彼はその言葉を残して塵になった。複雑な思いでその最期を見届ける。尊敬する村長と、目の前で死んだ村長の姿が心の中で重ならない。今は受け入れられない。
パチ、パチと塵が燻る。ムエタは深呼吸して心を落ち着ける。
『想像以上にクズで言葉を失ってた。ヤバいな。うん』
少し落ち着いたムエタは神器をエノコロに返す。彼女は神器を抱き締めると、その場で激しく嘔吐する。嘔吐物の中に不気味なものが蠢いているのが見えた。ムエタは思わず目を逸らした。
概ね吐き終えるとエノコロは神器を杖の様にして身体を支える。
「うぐぐ…。酷い目に遭った」
そして神器をムエタに差し出した。ムエタは困惑していたが、半ば押し付ける様にムエタに手渡す。すると彼女はヘナヘナと地面に膝をつく。
「わしの動向がバレてる以上、クジャラが強固な対策を打つ前に仕留めねばならん。悪いがお前にも働いてもらうぞ」
「で、でも神器があれば失った力も元通りになるんでしょ?」
村長との戦いでも一歩間違えればやられていたのだ。自身が戦力になれるとはとても思えないのだろう。
「後、腕輪と髪飾りと勾玉が足りん。声に応えられない場所にあるんじゃろうな。わし1人じゃ厳しい。ここまで来たんじゃ。今更クジャラが怖くて逃げたくなったとか言うまいな」
ムエタは神器を握りしめる。
頭に浮かぶのは人柱になった人々と母親の顔。これ以上、真実を知りながら自分と同じ人が増える事を指を咥えて見ていられるだろうか。できない。ムエタは覚悟した。
「やる。この村を邪神から解放するんだ」
「うむ。ではよろしく頼むぞ。さて…」
エノコロは祭壇の周りを探す。すると祭壇の後ろの何もない所に波紋が立った。彼女が何かを唱えて触れると虚空に切り口が開いた。中にはおどろおどろしい異界の建物が見える。一見は立派な御屋敷なのだが、まるで廃墟の様に所々が歪んだり壊れたりしている。
ここに立ち入れば自身もただではすまないのではないか。ムエタも思わず一歩を踏み出す事に躊躇ってしまう。エノコロはひょいと一歩を踏み出すとムエタに向かって手を差し伸べた。
「早う来い」
「う、うん…」
ムエタは思い切って一歩を踏み出した。
『…エノコロってあの時の供物を食べなきゃ1人で突入してたのかな』
昼咲は首を傾げる。
キャラクリエイト画面を触ってると画面左端に居座る可愛いけど指示厨のオスケモがやたらといちゃもんつけてくると言う夢を見たのでそれをネタに書いた。




