第8話:宿題が終わらない!? メイド隊のスパルタ(?)合宿
第8話:宿題が終わらない!? メイド隊のスパルタ(?)合宿
「……終わらない。どう考えても、あと三日で終わる量じゃない……」
僕は、広大な書斎の机に積み上げられたレポート用紙と参考書を前に、絶望の声を漏らした。
夏休みの前半をメイドたちとの海や肝試し、そして毎日の過剰な奉仕に費やしてしまった代償が、今、巨大な壁となって僕の前に立ち塞がっていた。
「あらあら、ご主人様。……そんなに情けない顔をなさらないで」
メイド長の結衣が、淹れたてのハーブティーを置きながら、慈愛に満ちた……けれど、どこか逃げ場を許さない瞳で僕を見つめた。
「結衣……。ごめん、僕、遊びすぎたよ。このままだと、後期から大学に行くのが怖くなる」
「ふふ、ご安心ください。私たちがついているとお伝えしたはずです。……志保、例の『合宿プラン』を開始しましょう」
「了解いたしました」
部屋の隅で静かに本を読んでいた志保が、眼鏡をキラリと光らせて立ち上がった。
彼女の手には、分厚いバインダーと、何故か「特製」と書かれた木製の指示棒が握られている。
「健太様。……本日から三日間、この書斎を**『絶対学習領域』**に設定いたします。宿題をすべて完遂するまで、この部屋からの退出は一切認められません。……よろしいですね?」
「えっ、一歩も出ちゃダメなの!?」
「はい。食事、睡眠、そしてリフレッシュ……。そのすべてを、この部屋の中で完結させます。……もちろん、私たちメイドが全力でお手伝いさせていただきますが」
志保が僕の隣に座り、指示棒でレポートの空欄をコツコツと叩いた。
その距離、わずか数センチ。
彼女の知的な香りが僕の鼻腔をくすぐり、勉強への集中力を削いでくる。
「ちょっと待ったぁ!! 健太を一人で三日間も閉じ込めるなんて、私が許さないわよ!」
またしても、監視役の美波がドアを蹴破る勢いで入ってきた。
彼女の手には、何故かパジャマの入ったバッグが握られている。
「美波!? お前、その荷物はなんだよ」
「決まってるでしょ! 健太が合宿するなら、私もここに泊まり込むわよ! あんた、一人にしたら絶対メイドたちに……その、変な風にされちゃうんだから!」
「おやおや、美波様。……覚悟はできているようですね。では、貴女も学習補助スタッフとして採用いたしましょう」
結衣の不敵な微笑みに、美波が少しだけ顔を引きつらせたが、すぐに僕の隣の席を陣取った。
「さあ、健太様。……まずは、この英語の論文講読から始めましょうか」
志保のスパルタ合宿が、ついに幕を開けた。
開始から三時間。
僕のペンは、かつてないスピードで動いていた。
「……う、うう……。志保、ここがどうしても訳せないんだ」
「ふふ。……そうですね。では、正解したら……『ご褒美』に、私の指を一本ずつ、健太様が好きなようにして良い……というのはいかがでしょう?」
「……えっ?」
志保は眼鏡を外し、潤んだ瞳で僕を見つめてきた。
彼女の指先が、僕のペンを持つ手にそっと重ねられる。
「志保さん!! 教育中に何を教えてるのよ!!」
美波が叫ぶが、志保は涼しい顔だ。
「これは『動機付け』ですわ。……さあ、健太様。この一文、訳せますか?」
「……や、やります!!」
僕は鼻血が出そうなほど集中し、見事に難解な一文を訳しきった。
すると志保は、満足げに微笑み、自分の細く白い指を僕の口元に差し出してきた。
「……お見事です。さあ、健太様。……約束ですよ?」
「あ……あ……」
僕が志保の指先に触れようとした、その時。
「健太様ぁ~!! 栄養補給の時間ですよぉ!!」
陽葵が、盆の上に載せきれないほどの料理を持って現れた。
「本日のメニューは、陽葵特製の『脳力アップ・フルコース』ですっ! さあ、健太様、あーんしてくださいね?」
陽葵が僕の膝の上に乗り、ムチムチとした太ももの感触を僕に押し付けながら、フォークで高級なステーキを運んでくる。
「ひ、陽葵、重いよ……。それに、今勉強中だから……」
「ダメですぅ! 食べなきゃ頭が回りません! ほら、大きく口を開けてくださいっ! ……あーん」
「あ……ん……。……おいしい」
「えへへ、良かったです! ……あ、お口の横にソースがついちゃいましたね。……陽葵が、取ってあげます」
陽葵はティッシュを使う代わりに、自分の顔を近づけ、僕の頬をぷにぷにと触りながら……。
「ちょっとーーー!! 陽葵、あんたもどきなさいよ!!」
美波が陽葵を引き剥がそうとするが、陽葵は「やだやだ~、健太様は陽葵の栄養が必要なんですぅ!」としがみついて離れない。
勉強机の上は、もはや教科書よりもメイドたちの体温で溢れかえっていた。
夜が更け、時計の針は深夜二時を回った。
流石に僕の集中力も限界を迎え、まぶたが重くなってくる。
「……だめだ、もう……一文字も書けない……」
「……お疲れ様です、ご主人様」
いつの間にか、結衣が僕の背後に立ち、優しく肩を揉み始めていた。
「結衣……」
「三日間と言いましたが、無理をして体調を崩されては本末転倒。……今夜は、一時間の仮眠を取りましょう」
「一時間……。助かるよ」
「ですが。……ただ眠るだけでは効率が悪いですね。……陽葵、準備を」
「はいっ!」
陽葵がどこからか持ってきたのは、巨大な、そして驚くほど柔らかそうなクッション。
……ではなく、彼女自身の体だった。
「健太様。……今夜の仮眠は、この**『人間メイドベッド』**をお使いください」
「え……? これって……」
「はい。私たちの肌の温もりと、適度な柔らかさが、ご主人様の脳を最短時間でリフレッシュさせますわ」
結衣の合図で、数人のメイドたちが床に厚手の毛布を敷き、その上に陽葵や莉奈、さらには他のメイドたちが、重なり合うようにして横たわった。
「な、なんて贅沢な……」
「さあ、健太様。……こちらへ」
僕は、陽葵の豊かな胸と、莉奈の柔らかな太もも、そして結衣の優しい腕に包まれるようにして、その「ベッド」の中に沈み込んだ。
「あ……あったかい……」
「ふふ、ご主人様。……おやすみなさいませ」
結衣の囁きと、メイドたちの規則正しい寝息が子守唄のように響く。
美波も「……もう、勝手にしなさいよ」と言いながら、僕の隣で僕の腕を枕にするようにして寝息を立て始めた。
三日目の朝。
僕の目の前には、完璧に仕上がったレポートの山があった。
「……終わった。……終わったぞ!!」
「おめでとうございます、ご主人様」
結衣が、祝福の拍手を送る。
志保は満足げにバインダーを閉じ、陽葵は僕に抱きついて涙を流した。
「健太様、すごいですぅ! 陽葵、信じてましたぁ!」
「あんた、本当にやればできるじゃない。……まあ、誰かさんのサポートが過剰すぎた気もするけどね」
美波も少し眠そうな目をこすりながら、けれど嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、みんな。……みんなのおかげだよ。本当に」
「いいえ。……ご主人様の頑張りがあったからこそですわ。……さて」
結衣が、一段と艶やかな笑みを浮かべた。
「宿題がすべて終わったということは。……心置きなく、**『合宿の打ち上げ』**ができますわね?」
「打ち上げ……?」
「はい。三日間、勉強ばかりで溜まった『ストレス』を、私たち10人が全力で……それはもう、跡形もなく消し去って差し上げます」
結衣の言葉に、メイドたちが一斉に目を輝かせ、僕との距離を詰めてくる。
宿題という重荷から解放された僕の体に、今度は彼女たちの「解放された愛」が、津波のように押し寄せてきた。
「……あ、あの、打ち上げは、もう少し穏やかに……っ」
「ダメですよぉ、ご主人様! ここからは、本気の溺愛タイムなんですっ!!」
陽葵が僕を床に押し倒し、志保が僕のシャツのボタンに手をかける。
三日間の学習合宿は、いつの間にか「ご褒美という名の監禁生活」へと姿を変え、僕の夏休み最後の数日は、これまで以上に甘く、激しく溶けていくのだった。
第8話 完
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