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瞑想

地に足をつけたい。

その願いは叶うのか?

 速水と出会ってからというもの、理解を超える出来事の連続だった。

 そもそも結婚しているというのに、告白を受け入れられ、一回りも年下の彼に抱きしめられるなんて、ありえない。

 それ以上に信じられないのは、思考が具現化することだ。心の中で軽く思ったことがすぐに叶い、違和感を覚えるほど偶然が重なっていく。

 まるで夢の中で暮らしているみたいに、ふわふわと足が浮いている。間宮に言わせれば、地に足のつかない現実離れした不安定な状態らしい。


「あの頃に戻して……」


 思わず、声が漏れた。


「速水さんになんて、出会いたくなかった!」


 究極の怒りを、速水を通して神にぶつけていたのかもしれない。そんな自分勝手な振る舞いを見つめる。

 プラトニックな愛とは、わずかな幸福と引き換えに、会えない苦しみだけが残る。

 最近、瞑想をすれば地に足もついて楽になると間宮に聞いて始めたが、呼吸を繰り返すうちに落ち着くどころか、能力が開花したように光が見えるようになり、願いが叶うスピードがあがっている。

 

「どうなっちゃうの……私」


 ブレーキの壊れた乗り物のように、コントロールを失っている。


「嫌……」


 怖いのに、だからこそ真理を確かめたいという、魂の渇望。

 心に引き寄せられるように空を見上げると、青い空の中に、プラーナが宙を舞う。


——光るみじんこ。


 この摩訶不思議な世界の探求をやめられない。気付き始めると、数式に当てはめれば解けるように、次々と答えを導き出す事が出来るようになってゆく。


 覚醒。

 アセンション。


 ツインレイは、互いの魂が力を与え合い、地球のアセンションを助ける存在。そんな説明が書かれている。


「賢哉に気持ち返してよ!」


 地球のことなんて考えたことなんてない。ただ、あの頃の、賢哉と二人で笑っていた平凡な日々に戻りたい。


「どうしてこんなことになったの!」


 張り裂けそうな声に、喉が焼けるように痛い。それでも、叫ばずにはいられなかった。

 涙と一緒に、胸の奥に溜め込んでいたものが、すべて溢れ出していく。

 全てが偶然や人間がなせる技ではなく、何かしらの意識の存在を認めざるをえるまでに。


「占いも興味のなかったし、初詣だっていった事ないんだよ。そんな私が何でこんな……なんでよ!」


 最近速水のことを思うと、胸の奥が熱くなって溢れ出した熱く痺れた感情が、脳から腕を伝い、指先へと広がっていく。


「まるで手から、見えない力が出るようになって……」


 一人で抱えるには多すぎる理解不能な出来事。けれど速水に話せばこんなグチャグチャな思考でも解決策を教えてくれるはず。


「何気なく母にその話したら、昔、おばあちゃんも手から煙みたいなものが出ていたって。だってね、抱えきれなくなって口にした言葉だったのに、否定されるどころか、思いもしない話が返ってくるの。もしかして……みんな言わないだけで、夢とか魔法みたいな世界って、当たり前にあるの? それとも、私だけまだ夢の中にいるの?」


 今まで気付かなかっただけで、些細な所にまで采配が行き届いていると感じる。

 長いレジ待ちや赤信号などは一切なくなった。

 信号はすべて青。

 どんなに長い列も、手を上げると海が割れたように道が開ける。 

 これまでもラッキーはあった。けれど、それが奇跡のような確率で起こるわけではない。毎回ラッキーだから奇跡という。

 こんな話をしても理解されないことはわかっていた。それでも否定せず、

「不思議ですね」と言ってくれただけで十分だった。


「ごめんなさい。仕事中なのに、こんなに……」


 速水は静かに頷くと、理学療法士としての仕事に戻っていった。

 その背中を見送った瞬間、胸の奥にぽっかりと穴が空いたような感覚が広がる。


 このままではいられない。


 いたたまれなくなりスマホを取り出すと、指先が震えるまま、間宮の名前を押した。

 神の言葉を伝えてくれるという、間宮の存在は、唯一の頼みの綱、伺うようにメッセージを打ち、送信ボタンを押した。

 周りで起きている理解のつかない出来事を、神の言葉で説明して欲しい。

 

 帰宅し一息ついたところでカランと音に振り向くと、突然棚の上に置いていた貯金箱から、硬貨が弾けるように飛び出した。


(まただ。今度は何?)


 見間違いだと信じたかった。貯金箱の口に引っかかっていたコインが、たまたま落ちただけだと。

 けれど。床に落ちた硬貨が、まだ小さく揺れているのを見て考えた。

 風もないし、勿論触れていない。それに地震があったわけでもなく部屋には誰もいない。

 

(もし神の存在に気づかせたくて起きているなら、どうせならお金を増やしてよ)


 そんな無謀な願いなど叶うはずない。全ては妄想だったと笑って忘れたい。

 その瞬間、貯金箱の口でカチンと小さな音をたて、もう一枚のコインがゆっくりと外へ転がった。


「嘘……」


 もう、誤魔化せない。神様はいる。


 一度履いてしまったら、踊り続けるしかない童話のように、私の意思とは関係なく、運命だけが前へ進んでいく。


「誰か止めて」


 もう、自分だけでは抱えきれない。願いが叶って嬉しいなんてレベルではない。世界のどこかに、本当に見えない力なんてものがあるのだとしたら、どうしてそれが、私のところに来てしまったのだろう。どう考えても説明がつかない。


「……もう、わからない」


 きっと、間宮さんに会えば楽になるよね。

 この胸を締めつける苦しさも、意味さえ分かればきっと終わる。速水への想いも、きっと手放せるはず。

 そう信じるように、自分に言い聞かせた。



瞑想の効果は。。。

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