表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/35

モノクロの世界

目の当たりにした真実は、心を揺るがす

 幼い子どもに向けられた笑顔と、隣にいた女性を思い出すたび、胸の奥が締めつけられ、呼吸が浅くなる。

 もう速水の顔を見たくない。彼と出会話なければよった。

 あのふわふわと宙を歩いていたような錯覚から、一気に地面に落とされたように霧が晴れた。

 速水さんには速水さんの人生がある。


 寂しさや悲しみを感じていい立場ではない事は、重々に理解してる。二人の未来に期待なんてしていない。

 なのに、どうしようもなくこの現実を受け止められない私がいた。ただ心から速水を忘れようと決めた時から、目に映る世界が、色がない無機質なものになった。


 期待するから苦しいんだ。いつまでも頼っていないで家族に気持ちを戻そう。そう思い直し、速水と出会う前の生活へと戻そうと、思考の中から速水を消した。

 心の中でいつも速水に呼びかけていたが、思考の中から消して生活するのだ。

 けれど陽気さに輝いていたはずの世界は、無機質な白黒の世界を歩いているように色を失った。


 これでいい。


 この先この世界で過ごす事になろうとも構わない。速水の生活を邪魔などしたくなかった。

 これから、どうやって彼と向き合えばいいんだろう。けれど、母が良くなる為にも速水に托すのが一番だとわかっている。そこに、私の感情など関係ない。

 車椅子を押し、母をリハビリ室へ連れてゆく。看護師に任せてもいいところだったが、娘として出来る限られたことだ。本当は、それを理由にリハビリに付き添い、二人の様子を見ていたが、今は速水の声を聞くのが辛い。

 本当は、速水に直接お願いしたいところだったが、泣き出したい気持ちを抑え、速水と目が合わないように廊下に出ることで精一杯だ。

 部屋の奥から聞こえてくる速水の声に、胸の奥に溜まっていたものが溢れ、気づけば涙が頬を伝う。

 忘れたいと思うほど、過去の思い出が蘇る。そして悲しみにくれる夜、静まり返った部屋で携帯が震えた。

——速水さん

 表示された名前を見つめたまま動けなかった。

「何かありましたか? 今日は少し様子が気になって」

 おそるおそる開いたメッセージに書かれた気遣いが嬉しいのに、それでも感情を押し殺し、速水を愛してはいけないことがつらい。

「大丈夫です。少し疲れていただけです」

すぐに返事が来た。

「そういえば、この前美術館で一緒にいたの、妹と姪なんです。海外に赴任していて、一時帰国していたので、観光に付き合わされてました」

——え? 奥さんじゃなかったの。

 速水を愛していけないと思うただけで、あんなにも崩れてしまったのに、誤解だったなんて。

 またしても、私の一番欲しいことを言葉にしてくれていた。言葉にしなくても、私の不安を感じてメッセージを返してくれたとしか思えない。

「メッセージをありがとうございます」 

——また好きになってもいいの? 心でつぶやく。

 もう、引き返せないところまで来ているのかもしれない。


一度諦めた気持ちは、どうなっていくのか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ