31戦闘②
広間に充満する緊張は、かつてないほどに高まっていた。妖魔の圧倒的な力に、アニエスの結界は微細な亀裂を見せ、セレナの水流は幾度も弾かれ、メリルの回復魔法も追いつかない。王妃候補たちは必死に戦い、力を尽くしているが、押される一方だった。
「――これ以上は……!」
リディアは焦燥と決意が入り混じる声で、炎の魔法を渦巻かせる。だが、妖魔はその力を圧倒的な体躯で受け止め、前進を止めるどころか、力強く広間を揺らした。床のタイルが割れ、装飾が崩れ落ちる。人々の悲鳴と混乱の声が響き渡る中、リディアは拳を握りしめ、諦めるわけにはいかないと自分に言い聞かせた。
その瞬間、クラウスの冷静な声が響いた。
「リディア、今だ。俺に任せろ!」
クラウスは魔法の構えを取り、彼女の背後で補助魔法を展開した。光の奔流が周囲に広がり、アニエスの結界、セレナの水の攻撃、そしてリディアの炎を増幅する。微細な光の粒子が空間を舞い、全員の魔力が一瞬で高められる。
「クラウス様……!」
リディアの瞳に希望が灯る。これまでの疲労と不安が、一気に戦意に変わるのを感じた。妖魔の巨大な翼に光が反射し、闇の塊に束の間の輝きが差し込む。
「アニエス、セレナ、メリル、全力で!」
クラウスの声に合わせて、王妃候補たちは再び魔法を放つ。アニエスの結界が妖魔の前方に広がり、守りを固める。セレナは水流を強化し、渦巻く波となって妖魔を攻撃。メリルは仲間の体力と魔力を一気に回復させる。リディアはその隙に炎の魔法を解き放ち、妖魔の前に赤く燃え上がる壁を作り出した。
だが、妖魔は容易には退かない。
可愛い体を反射させながら、力強い一撃を放つ。
炎の壁に衝突し、衝撃波が周囲に広がる。床が割れ、装飾が飛び散り、広間全体が振動する。王妃候補たちはそれでも踏みとどまり、次の行動を考えながら戦い続ける。
「リディア、俺の補助魔法に集中しろ!」
クラウスの声に従い、リディアは魔法の集中を高める。クラウスの光の奔流が、炎を何倍にも強化する。炎は妖魔の白い肌えお焦がし、激しい熱波と閃光が広間を覆った。
妖魔が『キュー』と声をあげ、後退せざるを得ないほどの力が炸裂する。
「これが……クラウス様の力……!」
リディアの胸に感動と信頼が込み上げる。彼の存在が、自分の魔法を最大限に引き出してくれる。これまで押されていた戦局が、一気に形勢逆転へと傾き始めた瞬間だった。
アニエスも目を丸くする。「王太子……!」
セレナは水流を妖魔の脇腹に叩き込みながら、「すごい……魔力が違う!」とつぶやく。メリルも回復魔法を強化しつつ、仲間たちの魔力を見守る。全員の力が一つに重なり、妖魔に反撃の嵐を巻き起こす。
妖魔は巨大な翼を振るい、光と炎、水の渦に抵抗しようとするが、クラウスの補助魔法により、全ての攻撃が正確かつ強力に命中する。リディアの炎は肌を焼き焦がし、セレナの水流が妖魔の動きを封じ、アニエスの結界が仲間を守りながら妖魔を追い詰める。メリルの回復魔法が全員の魔力を支え、戦線は維持される。
「――行くぞ!」
クラウスの掛け声と共に、リディアは全力で炎を解き放つ。その炎は、光の奔流と融合し、まるで巨大な竜が咆哮するかのように広間を覆った。妖魔は光と炎の圧力に押され、翼を広げることすらままならず、ついに後退を余儀なくされる。
「勝てる……かも!」
リディアの心に希望が芽生える。クラウスと自分、そして仲間たちの力が一体となった瞬間、圧倒的だった妖魔に一筋の隙が生まれたのだ。広間全体が光と炎、水の奔流に包まれ、妖魔の影が揺らぐ。
クラウスは瞳を鋭く光らせ、次の一手を見据える。「リディア、準備はいいか?」
リディアは力強く頷く。「はい、クラウス様!」
その瞬間、光と炎の奔流がさらに加速し、妖魔の黒い影を焼き尽くす勢いで前進する。押されていた戦局は完全に逆転し、王妃候補たちの連携とクラウスの補助魔法による圧倒的な攻撃が、ついに妖魔を追い詰める。
広間に光と魔力の奔流が渦巻き、妖魔の巨大な体が揺れる。人々は息をのむ。その圧倒的な力に、誰もが目を奪われ、戦局の変化に希望を見出す。
しかし、そう思ったのも一瞬の事、妖魔は瞬く間に姿を戻し、
攻撃を緩める事はなかった。




