22. プレゼント
数日後、アンナとエリオットは街で会う約束をしていた。
二人は合流し、賑やかな街並みを歩き始める。
「ジェイムズとは、話しておいたからもう心配ないよ」
「そっか、よかった……ありがとう」
アンナの表情がほっとしたように柔らかくなり、エリオットは軽く頷いた。そのとき、背後から明るい声が二人を呼び止めた。
「エリオットさん!」
振り返ると、グリフォネス魔法学校の三人組の女の子たちが立っていた。全員、少し興奮した様子でエリオットに注目している。
「学生委員会の子たちだね」
「はい……もしかして、デートですか?」
アンナが一瞬緊張した面持ちになったが、エリオットは気にする様子もなく微笑むと、肩越しにアンナを示した。
「そうだよ。紹介するね、彼女のアンナだ」
「は、はじめまして」
アンナが一礼すると、三人組のうち一人の女の子が僅かに悲しそうな表情を浮かべた。
「デート中に話しかけてすみませんでした。また学校で」
そう言って三人は立ち去っていったが、一人の女の子は明らかに泣いているようだった。その様子に気づいたアンナが、不安げにエリオットに話しかけた。
「あの子、泣いてるよ……?」
「それで?」
エリオットは気にも留めない様子で答えた。
「それでって……」
「よくあることだよ」
その一言が、アンナには少し冷たく響いたが、彼女は気を取り直して問い続けた。
「でも……」
「俺にどうしてほしいの?」
エリオットの少し強い口調に、アンナは一瞬たじろいだ。しかし、彼はすぐに表情を和らげて続けた。
「ごめん。でも、あの子には周りに慰めてくれる友人もいるみたいだし、大丈夫だよ」
「そうだね」
アンナはどこか納得しきれない様子で小さく頷くと、ふとエリオットを見上げた。
「あのさ……ちょっと話したいことがあるんだけど、公園に行かない?」
「いいよ」
エリオットは素直に頷き、二人は街外れの公園へと向かった。ベンチに腰を下ろすと、エリオットが軽く問いかけてきた。
「で、話って?」
「ずっと考えてたんだけど……やっぱり、あのとき私が言ったことを信じてもらえなくて、すごくショックだった」
エリオットは沈黙を保ちながら彼女の言葉を聞き続けた。
「でも、それってエリオットのことが好きだからこそ、そう感じたんだなって思うの。もしそうじゃなかったら、ただ怒って終わってたはずだから……」
アンナの言葉は少し震えていたが、その瞳はまっすぐだった。
「それに、私も中途半端な気持ちで交際を始めたのは失礼だったかなって」
「アンナ、それは——」
「だから……傷ついたけど、逆にそのおかげで私はエリオットのことが本当に好きだって気づけたの」
エリオットの瞳に少し驚きが浮かんだ。
「だから、私ともう一度、ちゃんとお付き合いしてくれますか?」
一瞬の沈黙の後、エリオットは柔らかな笑みを浮かべた。
「もちろんだよ。ありがとう、アンナ」
アンナは安心したように微笑むと、そっとエリオットに近づき、唇を重ねた。冷たい風の中、二人の温もりだけがそこに漂っていた。
二人は街中で夕食を済ませた後、グリフォネス魔法学校のエリオットの寮へ向かった。
冷たい夜風が頬をかすめる中、校舎の窓から漏れる明かりが、暗闇にほのかな温もりをもたらしている。
寮のエントランスに着くと、ちょうどヘンリーとばったり出くわした。
「おっ、エリオット! それにアンナも一緒か!」
ヘンリーが楽しげに声をかけ、笑顔を浮かべる。
「こんにちは」
アンナは控えめに微笑みながら軽く会釈した。
「そうだ、エリオット! 言ってたプレゼントだけど、部屋に置いといたぞ!」
ヘンリーが何かを思い出したように話を続けた。
「……変なもんじゃないだろうな?」
エリオットは少し警戒した様子で眉をひそめる。
「さあな。開けてみてのお楽しみだ!」
ヘンリーは悪戯っぽくニヤリと笑い、手をひらひらと振りながら去っていった。
二人がエリオットの部屋に到着すると、机の上に紙袋が置かれていた。
中を覗くと、大小さまざまな瓶に入った魔法薬がぎっしり詰められている。
「これ、いったい何の魔法薬だろう……?」
アンナが不思議そうに尋ねると、エリオットは慌てた様子で紙袋を閉じた。
「知らなくていい」
彼は頬を赤らめながら、そっけなく言い放った。
アンナはエリオットの反応を見て、思わず吹き出しそうになったが、言葉にはせず小さく微笑んだ。
「ねえ、今日ここに泊まっていってもいい?」
アンナの声は少し控えめだったが、どこか期待がこもっていた。
エリオットは一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに穏やかな表情を浮かべた。
「もちろん」
アンナは安心したように微笑み、そっとエリオットに寄り添った。
静かな夜が更けていく中、二人は自然と互いを求め合い、その距離をすべて埋めていった。
明け方、差し込む微かな月明かりの中で、空になった一つの瓶が机の上に置かれ、アンナはエリオットの隣で穏やかな表情を浮かべて眠っていた。