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変わるための準備

1月31日(日)の朝、ひろみと敦は、陽生学園第二高校のAO入試に向かうためにバス停に来て、時刻表を確認した結果、乗る予定にしていた10時30分のバスが土日運休であることに気づいた。敦が事前に調査したときに見間違えていたのであった。ひろみは、敦賀でタクシーに乗ったことがないので、タクシー会社も連絡先も知らない。試合中ならば通話できないだろうな…と不安を感じながら、祈る気持ちで電話をかけるのであった。


敦は、無事、大阪にたどり着き、AO入試を受験することができたのか?また、前章では、大樹が職場での上司・阿南からの無茶ぶりに苦しむ姿が描かれましたが、これを解決するために阿南と話し合うことを決め、職場に向かいました。大樹の職場環境がどのように変わっていくのかも詳細に描かれています。


この章では、敦のAO入試と大樹の職場での葛藤が描かれ、どちらも新たなスタートを切るための重要な出来事となります。

(1) 入試前のトラブル


1月31日(日)の朝、ひろみと敦は、陽生学園第二高校のAO入試に向かうためにバス停に来て、時刻表を確認した結果、乗る予定にしていた10時30分のバスが土日運休であることに気づいた。敦が事前に調査したときに、見間違えていたのであった。


ひろみはびっくりして「10時30分のバス、土日運休やんか~」と叫ぶ。敦が確認すると、土日運休が見にくい状況であり「土日運休が見えんかった」と緊張しながら答えた。ひろみは、敦賀でタクシーに乗ったことがないので、タクシー会社も連絡先も知らない。大樹に電話をして駅まで送ってもらうしかないが、今、試合中ならば通話できないだろうな…と不安を感じながら、祈る気持ちで電話をかけるのであった。


一方、大樹は卓球の試合に行ったが、敦が無事に入試に行けるかを心配しており、10時30分から始まる団体戦の第一試合は、緊急電話に備えて、控えに回っていた。


10時20分頃、大樹の電話に着信音が鳴った。相手はひろみであった。大樹は、まさかぐずっているのではないかと、ドキドキし、手が震えながら通話ボタンを押すと、ひろみが「敦がバスの時間を間違えてたので、バス停まで迎えに来て、駅まで送ってほしい」と頼まれた。大樹は、少しほっとしながら「わかった。今から行く」と答えて電話を切った。


この時、卓球大会には地区の体育部長である千葉が見に来ていたので、大樹が千葉に「今日、息子が高校のAO入試であり、バスで行く予定をしていたが、乗るバスが土日運休なので、駅まで送らなければなりません。また、弁当も取りに行かないといけませんので、帰りに取ってきますので、皆さんに伝えてほしい」と言うと、千葉は「お前は今日の取りまとめで、プレイヤーだから、俺が行くし、弁当をもらってくるので、車を貸して…」と言ってくれた。


大樹は「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」と答え、車の鍵と予約した弁当リストとお金を渡して、千葉は会場を後にした。


大樹は、ひろみに電話して「千葉体育部長が行って、駅まで送ってくれるから」と伝えた。大樹は、頼むぞ千葉さんと願う気持ちであった。


11時過ぎに、千葉から「奥さんと息子さん、無事に送ったよ。それと、弁当ね!」と報告があったので、大樹はほっとしながら、千葉に「ありがとうございます」と御礼を言った。


(2)変革への切符


11時24分、ひろみと敦が乗った特急サンダーバードは、敦賀を発車した。電車は山越えをするためにループ線に入り、トンネルを出ると、雪景色に晴れた空が敦賀市内を一望し、とても明るく綺麗なコントラストが広がっていた。まるで敦の新しい道を祝うようであったが、敦もひろみも、緊張からか景色を見る余裕もなかった。1時間30分がたち、13時過ぎに特急サンダーバードが大阪駅に到着した。


到着したひろみと敦は、緊張しながら試験会場の梅田ビジネススクエアまで向かった。場所は大阪駅の近くのビルであり、エントランスにたどり着くと、保護者と中学生らしい生徒が3組ほどいた。同じエレベーターで12Fに行くが、エレベーター内には緊張感からか独特な雰囲気が漂っていた。12階に着くと、3組ともエレベーターを降りた。ひろみは、皆が同じ境遇であると感じ少し落ち着いたが、敦は緊張していたので小声で「落ち着いて」と答えた。


受付を済ませた後、控え室に入り、ひろみは敦を落ち着かせるように「大丈夫だよ」と励ました。しばらくすると「野坂さん」と呼ばれ、ひろみと敦はドアをノックして部屋に入り、椅子の前で一礼をした。面接官が「出身中学と名前を言ってください」と尋ねたので、「福井県敦賀市にある敦賀南中学の野坂敦です。よろしくお願いします」と答えると、「お座りください」と言われたので、着席した。面接官は「入学したら、何かやりたいことを見つけてね…」などの学校生活についての話をし、ひろみには「この高校は個性を重視しますので、留意してください」などの入学後のことを話したのみであった。


二人は面接を終え、ほっとしながら梅田ビジネススクエアを後にした。二人はほっとすると急に空腹に襲われたので、ひろみが「お腹減ったね…何か食べようか」と敦に聞くと、敦が「お好み焼き」と答えた。二人は梅田3番街の飲食街に入り、お好み焼き屋に行った。時間は1時30分を過ぎていたので、既に空いていた。店内にはソースの香ばしい香りとお好み焼きの匂いが漂い、食欲をそそる。


敦はミックススペシャルを、ひろみは豚玉を頼み、入試を終えた緊張感が解けたことから、会話をしながら堪能した。


その後、15時頃のサンダーバードで敦賀に帰宅した。駅には卓球大会を終えた大樹が車で駅に迎えに来ていたので、ひろみと敦は乗り込んだ。大樹が心配そうに「どうだった?」と聞くと、敦がにこやかに面接の話をした。


それから3日後、封書で合格通知と今後のスケジュールが自宅に届き、4人で喜んだ。ひろみが敦賀南中学の上野に報告すると「ほんまですか、よかったです」と答え、敦には「おめでとう!高校では頑張れよ!」と言った。


(2)大樹の限界


大樹は、敦の高校が決まり、ほっとするのであったが、仕事では、受託研究による福井科学技術大学との共同研究が佳境に入り、福井科学技術大学での仕事が週に3日、会社に行くと、上司である阿南の無茶ぶりで、12月から毎日23時近くに帰っていた。阿南の無茶ぶりは、データ整理、技術的評価、関係各所との調整と多岐に渡る。特に、福井科学技術大学への無理な要求をするように命令されることに関して板挟みになっており、オーバーフローの状態だった。


関係各所との調整に関しては、毎日、あれもこれもと言う感じであり、大樹もそれに従っていた。関係各所からは大樹は、嫌味を言われたり、要求を撤回させるなどの厳しい状況に立たされていた。このようなことから、時間的余裕も無くなり、冷静な判断やチェックができず、ミスも多くなってきた。大樹は「いろいろと仕事を振られたら、私も厳しいので、他にチェックする方も必要と思いますが」とやわらかめに反論したが、阿南は「人がいないのだから、お前自身で頑張れ!」と言うだけであり、その上司の榊も黙認していた。


大樹は、不登校である敦への対応や職場での状況で疲れが蓄積しており、限界に近い状況だった。家に帰って来ても、ストレスからか泥のように眠りにつくか、朝まで眠れない状況などがあり、体が限界を迎えており、就寝するとき「このまま、死んだら楽だろうな…と思いながら、来年から敦にお金がいるのだから、踏ん張らないと…」と心の中で葛藤していた。


2月3日(水)の夜であった。大樹は、11時過ぎに帰宅して、夕飯と入浴を済ませ、12時30分に就寝についたが、緊張感から眠れなかった。その時に、ふっと「何が、俺を苦しめてるのか、それを整理しよう」と思った。1番目に福井科学技術大に週に2~3日行くが、これは仕方ない。2番目に阿南の無茶ぶりについて検討したら、阿南は18時位に「俺は管理職だから残業代でないし、お前はもらえるので帰るね」と仕事を押し付けて帰る。その内容も別に俺に振らなくてもできるのではないかと頭を整理した。


ここで、大樹は、明日、阿南と話をして、向こうが納得して仕事が軽減されたら、問題なくこのまま続けられるが、喧嘩になったら異動だろうが、それでもいいと腹をくくったところで、眠りに入った。


2月4日(木)、大樹は心の準備を行うため、4kmの道のりを徒歩で行くため、7時30分前に家を出た。外は、薄い日差しが雲の間からさすが、風が大樹を容赦なく吹き付ける。まさしく、今から始まる嵐の前触れであった。心の中で、本当に戦っていいのだろうかと自問自答しながら行くが、冷たい風が容赦なく吹き付けるおかげで目が覚めて、腹をくくることができた。


8時20分頃に会社に着き、喫煙ルームで一服して、席に着くと始業のチャイムが鳴った。今日は、課長の榊は、福井科学技術大学の教授も兼務しているため、大学に出勤して会社には来ない。大樹は「阿南さん。少し、話があるのですが、よろしいですか」と緊張気味に問いかけると、阿南が「何…」と答えたので、大樹が「私は科技大の仕事もあるので、少し依頼する仕事を減らしてもらえますか。それと、関係各所への調整も、向こうに意思が伝わりにくいので、ご自身でお願いできないですか。今、業務もパンパンで私にこれ以上振られてもできません」と言うと、阿南が「それは、私でも可能だけど、貴方を育成して、立派な技術者に育成するために、あえて仕事を振っているのよ」と答えた。


大樹が「だけど、私にも限界があり、何でもかんでも押し付けられても、ミスばかりになり、意味がなくなるのではないですか。それと、この際、正直に言います。関係各所には私から説明して依頼しても、向こうも業務が滞っているので、不満を持ち、断られています。このようなときこそ、上司が向こうに出向き腹を割って話すべきではないですか」と聞くと、阿南は「俺は、お前に仕事を依頼したのだから、お前が説得すべきだよ」と答えた。


大樹は「それでも、向こうが不満に思っているなら、貴方が行くべきではないですか。もう、時間もないし、私は、科技大での共同研究もやり遂げないといけないので、厳しいと言っているのですよ」と声を荒げて言うと、阿南は「それでは、お前の成長を止めるが、普通の作業者になっても構わないのか」と強い口調で聞かれた。大樹は、この人とは仕事できないな…と諦めの境地に立ち、「それで、構いません」と答えた。


阿南は「わかりました。来年度は、貴方と仕事をするつもりがないので、榊課長と話して、人を変えてもらいます。いいですね?」と答えたので、大樹は「構いません。こちらも会社に報告しておきます。それと、明日から、2週間位、科技大へ行きますので、どうぞよろしくお願いいたします」と言った。阿南は「わかりました。向こうの仕事を2週間で終わらせてきてください」と答え、阿南との話は決裂に終わり、大樹も敦と同様に、新しい場所へ異動して、新たなスタートを切ることになったのだった。


その後、大樹は阿南と喧嘩になったことに対し、若干、怒られたりしたが、inecとの別の契約で上司の宮本も、阿南の無茶な仕様外の要求に対して喧嘩して、将来的撤退を検討していたので、厳しいお咎めはなかったが、タイトな職場へ異動させられた。阿南は、大樹のあとに入った要員を1年もたたないうちにメンタルヘルスに追い込み、榊が定年で去った後、敦賀市内の原子力研究機関が管理しているビルに1人で常駐することになり、孤独に耐えきれずに自殺するという寂しい最後を送るのであった。


(3)変革の準備


大樹は、2月5日(金)以降、土日も関係なく福井科学技術大学へ通っており、朝は7時前に自宅を出て、夜は22時頃に帰宅する日々が続いた。2月19日(金)に共同研究による成果を出させることができ、19時頃に帰宅した。 久しぶりの自宅での夕食は、おでんであった。カツオダシの香りが湯気とともに居間を包む。ビールを飲みながら、おでんを食べる。家族でご飯を食べるのは、久しぶり…だな!と思いながら、会話をしながら食事をしていると、ひろみが申し訳なさそうに「あんた。忙しいので、言えなかったけど、2月21日に陽生学園第二高校でクラス分けテストがあるので、連れて行ける?」と聞いてきた。大樹はクタクタであったが、土曜日休めばどうにかなると思い「いいよ」と答え、大樹が連れて行くことになった。


また、ひろみが封筒を渡し「陽生学園第二高校の入学金・制服・4月の月謝90万円を2月末まで振り込まないといけないのよ。どうする?」と聞いて来たので、大樹が「お前、お金持っていくの怖いだろう…」と聞いたら、ひろみが「そうなの」と答えた。 大樹が「わかった。来週のどこかで行くが、先に郵便局の定期を解約しないといけないな…。郵便局に月曜電話して決める。それと、敦、お前、どうせ学校に行ってないだろうから、お金を持っていくときに一緒に行くから、いいな!」と言うと、敦が少し嫌そうな顔で「わかった」と答えた。


その後、2月21日(日)、大樹は敦と夏帆を連れて陽生学園第二高校に行き、敦はクラス分けテストを受けて教養コースに決まった。2月26日(金)に、大樹は午後から半休を取得して郵便局で定期を解約して、90万円を手にして、敦にそれを渡し、札束を見せて、「敦、このお金は、俺とひろみが家を建てるために10年かけて貯めたお金であり、このお金をお前につぎ込むのだから、おろそかにするなよ」と言い、敦が神妙な面持ちで「わかった」と答え、振り込み手続きを終了した。


いよいよ、敦の新しい生活の準備はほぼ終了した。後は、悲しい生活の終止符を打つための中学の卒業を待つのであったが、敦賀南中学校長の津島の発言が、大樹を怒らせるのであった。

1月31日(日)の朝、ひろみと敦は、陽生学園第二高校のAO入試に向かうためにバス停に来て、時刻表を確認した結果、乗る予定にしていた10時30分のバスが土日運休であることに気づいた。ひろみは、祈る気持ちで電話をかけるのであった。一方、大樹は、緊急電話に備えて控えに回っていたので、通話ができた。体育部長の千葉が「お前は今日の取りまとめで、プレイヤーだから」ということで、ひろみと敦の送迎をしてくれて、無事にAO入試を受験できた。結果として、敦は合格し、陽生学園第二高校に行くことが決まった。


しかし、大樹は敦の合格に安堵できなかった。それは、上司の阿南に業務を無茶ぶりされてオーバーフローになっていたからだ。大樹は、業務のことについて阿南と話し合ったが、喧嘩状態となり、異動が決まったことで、大樹も4月から新たなスタートを切ることになった。


その後、敦は、陽生学園第二高校のクラス分けテストで教養コースから始めることが決まり、2月の終わりに入学金等を納めたことで、敦の新しい生活の準備はほぼ終了し、後は中学の卒業だけであった。しかし、敦賀南中学の津島の発言が、大樹を怒らせるのであった。


次章では、津島の発言による卒業前のドタバタと寂しい中学の卒業式の状況を描いていきたいと思います。

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