悪徳領主になるまでの物語。
翌日
「さて、昨日の続きを始めよう」
顔面にまーるい青いあざを何箇所も作ったいい男。つまりグラフィットが同席することとなった宰相に向けて「始めてくれ」と声を掛けると、宰相は目の下のクマを擦りながら立ち上がり、グラフィットの下手に設置されたボードの前に立つ。
「はーあ、では始めさせていただきます」
今にも閉じそうなほど重い瞼を無理やり開き、会議室全体を見渡す。
この場には先日紹介した各近衛隊の隊長とその下っ端と重苦しい空気に耐えるセバス、アラエルの両名も昨日と同様に同席していた。
「奥さんはいいのか?」
「あぁ、心配ない。ちゃんと説明して納得してもらえた」
その回答にセバスは『こりゃ、まだ燻っているな』と少しだけ口に出した。
「さて、だ。まずこれだけは言わないといけないことがあるな」
「とうとう、別れを切り出されたか、……思ったより長かったな」
「なんのことだ? セバス」
「いえ、なんでもありません」
「大丈夫だ私は偉い。大海原のような穏やかな心も持ち合わせてる。だから安心して発言をしてくれ、そんな簡単に打首にするなどとは言わないから」
これも演技なのか、グラフィットは穏やかな表情で囁いた。
「先程、奥様が片付けをしているところを拝見いたしました。もしやと思い口に出しまでです」
「片付けなど誰でもするであろう、王族だからといって全てをメイド部隊にやらせていたら、いつか、背中を刺される」
グラフィットの演技に会議室に集められた全員が思わず声を漏らした。
「なんだ? 俺の心の広さがわかったか」
「わかりました、で、なんの謝罪ですか?」
「謝罪ではない。昨日拘束したグランド・オズワルドについてだ、彼は国家転覆罪で死刑になってもらうそのことを皆に話に来たんだ。」
真面目な顔に戻ったグラフィットの発言を理解したものは一様にアラエルを見る。
「国家転覆罪となりますと連座制が適用され、オズワルド家に関連する全ての者が死刑、または国外追放となります」
最初から段取りが決められていたのか宰相が淡々と手元に用意してあった台本を読み上げた。
「だとさ、うちの頭の固い宰相はこう言っている。だが、一つ、この国家転覆罪に連なる連座制を免れる方法がある、それが『国王と各近衛隊隊長と宰相が連座制を適用しないと宣言すれば連座制は適用されない』と言う内容だ。これは俺の独断じゃない。ちゃんと法律に書いてある。宰相が確認した」
「で、だ。俺はお前たちを巻き込む事にした。俺が1人で連座制を適用するなと言ったら全ての批判が俺に来る。だからお前たち、巻き添えになってくれ。」
「では私は棄権します」
真っ先に宰相が責任から逃れるために手を挙げた。
「まぁ待て、グランドを国家転覆罪にすると国民に発表しなければならない。そうすると俺の支持率が下がる。だからグランドと少し話をしてグランドが自ら家督を息子に譲るということでまとめておいた」
「あれはまさに、地獄の悪魔を見ているーー」
「宰相は黙ってろ」
「口が滑りました申し訳ありません」
「拷問ですか……」
セバスは呟く、その隣に座るアラエルは目を瞑る。
「拷問? なんのことだ? 話し合いだ。」
既に王都輸送されたグランドの身柄は近衛騎士団が引き取り、今現在王城の地下のA級犯罪者用の牢屋に入れられたと朝、グラフィットから聞いていたセバスであったがここまで話が進んでいたとは思わなかったようだ。
後に酒の席で口を滑らせた身なりのいい服を着た老人寝言で「彼は生きている…彼は生きている、」と口にしていた。その彼と言うのは誰を示しているのかわからないが、この寝言を聞いていた人が「その彼とは誰だ」と聞くと、老人は急いで店から逃げるた。その後、酒の席でその老人を見たものは居ないと言われている。
「わかりました、で、その結果アラエル様に家督を譲ると言ったと」
「そうだ、でだ、この場で決議を取りたい、今現在、グランド・オズワルドが統治しているオズワルド領を本人の希望によりその息子、アラエルに譲りたいと言ってきた。この事に反対の者はいるか?」
まるで明日の飯どうすると聞いているかのようにフランクに、決議を取ろうとする国王に異論の手が上がる。
「なぜ私たちまで呼ばれたのですか?。決議など取る必要もないのに、国王陛下の独断で全てが決まると思いますが」
「まだ若いね、アンソニーくん。私の独断で決めたらもしバレた時私だけに批判がくるだろ、だからみんなを巻き込み、みんなで意見を交わし議論をし、適切な対応を取りました、そうアピールできる。でグランドには悪いけど痔が悪化して実務に集中出来ないから家督を譲るそう言う筋書きで行く」
「もう好きにしてください」
宰相は諦めたように呟いた。『どの道、私たちもただでは済まないのです、ここはいっそのこと、みんなで踏み越えましょう』
宰相がボソッと言った一言に、近衛隊の隊長たちは深ため息を吐いた。
「え、お、俺が領主? になる?」
「セバス後のことを頼む、アラエルに領主としての基本を叩き込んでやれ、タイムリミットは一年だ。それまではオズワルド領は国の管轄にする。一年後、アラエルがオズワルド領を引き継ぐ。反対の者は?」
国王の決定に異を唱える者はいなかった。これでアラエルは悪徳領主になる第一歩を踏み出す事となった。
勿論セバスによる地獄の帝王学と王城勤務のメイドと執事たちによるその他全ての教育を受けながら……
……………………
「そんな事があったんですか」
夜の営みを終えリラックスしていたニナージャはアラエルの横に腰を下ろした。
「私の母はどんな方でしたか?」
「それはそれはおっぱーー」
「おっぱ? 」
「……色んな意味で刺激な的な人だったよ俺が領主になって間もない頃から支えてくれたよ」
「何かありますね」
アラエルが逃げよう体を捩るが、ニナージャの手がアラエルの体を押さえつけ、「今夜は眠れませんね」と耳元で囁いた。




