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「あのさぁ、ホント、俺別に成仏しないとか駄々こねたわけでもあるまいに、なんでこんなとこに飛ばされたの? 窓際なの? 栄転という名の左遷なの? それとも天下り? ホントの意味で天の国から下っちゃったの?」
「質問が多い子だなぁ、ははは」
「お前を頼りにしてるわけじゃねーよ。お前しかいないからだよ」
そう、俺は未だに原っぱにひとり、たたずんでいる。
空には半透明のハゲ神が浮いているが。全身じゃないよ。バストアップで境界線がぼやけた感じに浮かんでいる。目の前にいたならとっくに石を投げてるからな。
「俺の異世界転生って何なの? 魔王はボケ、勇者なんか影も形もいないんだろ。何すんのホント、スローライフすんの? ハーレムくらいはあるの? 奴隷とか」
俺は鼻くそほども期待せずに尋ねてみた。どんな情報でも知っていて損なことはない、と自分を鼓舞しているんだよ。
「きみ、意外に野蛮だね」
さげすんだまなざしを俺に向けるな。何これ俺なんか変なこと言ったの? なろうのテンプレじゃねーのかよ知らんけど。ホントにすまんけど作者はラノベとか読まんのよ。5年くらい本屋に行ってないしさぁ、行くならまっすぐ文庫本コーナーだし。なろうからこんなに出版されてるなんて知らなかったんだよ。
「勘違いしたらいけないから、一応言っておくね。ここの国民、平均で偏差値70はあるから。奴隷とかいらないから。労働力足りてるし、皆勤勉だしね」
もうこれさぁ、人の二倍苦労してもいいから必死にレベル上げて、俺が魔王になろうかな。
「ついでにさぁ、要望が多かったから、男女ともに顔面偏差値も高めなの。女の子はおぱーいも大き目。髪の毛も色とりどりで、かわいい子ばっかりだよ」
「そこまで設定があってハーレムじゃねえのかよ……」
「そうそう、だって読者って貪欲でしょ。ツンデレっ娘がいいとか、メガネっ子がいいとか、イケメンに壁ドンとか、真っ赤なスポーツカーでドライブとか、高級寿司屋で時価のネタを食べまくるとか。そういうの応えていくと、どうしても、ネ」
「ちょっと途中から意味わかんない」
「それから、女の子はこのルートが良いとか、こっちの子の方が良いとか……」
「女の子のところだけ、なんで攻略ゲーになるんだよ!」
あと、読者の言うことを聞いて設定変えまくるの、良くないと思うよ。やっちゃ駄目なやつだと思うよ。そういうつもりで最初から書いてるんなら別にいいけど。竜骨っていってね、船でも一本、背骨のような部分があるの。筋が一本しっかり通ってないモノって、どんなものでも使えないからね。
「攻略ゲーにするんだったらハーレムにしとけよ、なろうなら」
「ハーレムハーレムって……、あのね、ここはウロナ国であって、一夫多妻を認めていない法治国家なわけ。あんまり分不相応なこと考えたらダメ」
分不相応。このハゲ神に言われるとか、ガラスのハートにリトルボーイが直下爆撃された気分になるわ。俺はハーレム望んでねえよ別に。なろうのテンプレ上、訊かなきゃならない質問だったんだよ。このハゲ。ハゲハゲハゲ。
「だから核ダメ、ぜったい!」
俺はこのハゲ頭を切り落とし、神社の境内に埋めてその上を連日のように数百人が踏み歩くというささやかな空想を楽しんだ。
「ちょっと! それ犬神でしょ! 呪いの媒体にしようとか、ホンマに作者がホラージャンルの常連とかマジでタチが悪いわー! ホンマ最低! このわらすはまだそったないんぴんばりかだってんのすかや」※訳:この子どもはまだそんな気難しいことばかり言っているのですか。
「なんで急に宮城弁になったんだよ」
「ホラ! それ! ツッコむの、好きでしょ!」
「もうお前と話したよって、ちょっとずつないねん」※訳:お前と話したせいでちょっと疲れた。
「奈良の方言で返してきた!?」
本当に、二度となろうで異世界転生なんて言うなこの鼻毛野郎。
「わたし鼻毛なんて出てないよ!?」
パンパカパーン、レベル4になりました。
お前まで心読むな!
※参考文献:佐藤亮一編(2002)『都道府県別全国方言小辞典』三省堂.