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スクールガーディアンズ  作者: 雪野
第9話
77/596

9-1






     9-1




 立ち上る白い煙と、耳に心地よい薪の燃える音。

 そして何より、私達を顔を照らす赤い炎。

 たき火は良い。

 それも狭い場所ではなくて、これだけ広い庭でやるのはまた格別だ。

 手入れの行き届いた一面の青い芝と、遠くに見える葉の落ち始めた木々。

 大きな家を仰ぎ見ながら、枯れ葉をくべる。

「優、もっと丁寧にやって」

「うっさいな。いいじゃない、このくらい」

「まあ、口答え。誰に似たのかしら」

「君にだよ」

 朗らかに笑うお父さんと、きっと睨み付けてくるお母さん。

 人の家まで来ても、変わらないなこの二人は。


 そろそろ冬なので、たき火を楽しむ私達。

 ヤキイモと言い換えてもいい。

 ただ私の家では庭が狭いし、寮では許可が下りない。

 そしてやれる場所といえば、ショウの家くらい。

 正確には、おじいさんと伯父さんの家なんだけど。

「済まないね、ショウ君」

「いいよ。枯れ葉も燃やせて、俺達も助かるから」

「そういってくれると、私達も気が楽になるわ」

 一応はお父さん達も、気を遣っているのだ。

 こうしてたまに来るとは言え、人の家だからね。

 しかも、たき火だなんて。

 発案は私なんだけど。


「水、足りるかしら」

 しきりにバケツへ目をやるサトミ。

 コートに火の粉が飛ぶたび、手袋をした手で慌てて払っている。

 大丈夫だって言うのに、全然話を聞かないんだ。

「そのくらい気にするな。俺や名雲さんなんて、もっと燃えたぞ。サトミだって、そうだろ」

「私に当たったのは、高熱のガス弾。それと、特殊な人達と一緒にしないで」

 冷たく言い捨てるサトミさん。

 ショウは返す言葉もないらしく、棒きれでたき火をつついてる。

「それにしてもたき火なんて、久しぶりだよ。小学校以来かな」

「ふーん。お父さんも、ヤキイモしたの」

「僕の場合は火遊びだね。友達と、適当な物を燃やしてたんだ」

「いやらしい本とかでしょ」

 軽いジャブを放つお母さん。

 何か知ってるのか、皮肉っぽい視線が向けられる。

「お、お母さん。それはその、あの」

「聞いて、優。この人ったら、大学の時下宿にね」

「だ、だから。あれは友達が……」

 珍しく大慌てになるお父さん。

 大学なんてもう10年以上も前なのに、まだこれだけ楽しめるのか。

 本当に、仲が良いんだから。


「でもその話は、この人も同じですよ」

 相変わらず火の粉を払いながら、棒で示すサトミ。

 ショウはわざとらしく咳をして、たき火の傍に腰を屈めた。

「まあ。そうだったの?」

「そ、それはその。サトミ、変な事言うなよ」

「ああ、ごめんなさい。あれは、DDだったわね」

 全然フォローしない女の子。

 それにはお父さんとお母さんも、大笑いしている。

 笑ってないのは、ショウと私くらいだ。

 全く、何であんなのが見たいんだか。



「優、近付き過ぎ」

「大丈夫だって」  

「いいから、危ないでしょ」

 人の手を引き、後ろへ下がらせるお母さん。

「もう、子供じゃないんだから」

「それは、私の台詞です。あなたなんて小さいから、燃えたらすぐよ」

「燃えないって。大体私より、お母さんの方が小さいじゃない」

「その時は、お父さんが守ってくれるもの。ね」

 話を振られたお父さんは、芝生に這いつくばっている。

 何してるんだ、この人は。

「ちょっと、何してるの」

「オケラがいたんだ」

「おけら?何それ」

「ミミズが鳴くのは、実はオケラの鳴き声だった。という、あのオケラですか?」

「さすが聡美さん。よく知ってるね」

 何が楽しいのか、這いつくばったまま芝生を掻き分けている。

 我が親ながら、止めてほしい。

「お父さん、もういいって」

「でも、オケラが」

「いいから、起きあがって。しゃ、洒落じゃないわよ」

 のそのそと起きあがったお父さんに、お母さんが歩み寄って埃を払っている。

「聡美ちゃん、そろそろ焼いて頂戴」

「あ、はい」

 素直に頷き、アルミホイルに包まれたサツマイモを入れていくサトミ。

 何だか、仲の良い親子の光景にも見える。

「親子だな、まるで」

 同じ感想を洩らすショウ。

 私も何だか嬉しくなって、アルミホイルを放り込んだ。

「だから優、もっとゆっくり入れるの。聡美ちゃんを見習いなさい」

「うー」

「何で唸るの。ちょっと、お姉さん怒ってやって」

「駄目でしょ、ユウ」

 まなじりを上げ、人の頬を掴んでくるサトミ。

 対抗上、私も彼女のを掴む。

 こうなるとお互い意地の張り合いになり、離そうとしない。

「優も、聡美さんも。もう止めなさい」

「はーい」

 仲良く声を合わせ、お父さんに従う私達。

 でも腰の辺りで、手をコチョコチョしあうのは止めない。 

 血は繋がってないけど、気持としては「姉妹」だからね。

 どっちが姉で、どっちが妹かは考えないとして……。



 そんな事をして遊んでいると、凛とした佇まいを見せる初老の男性が歩み寄ってきた。

 お父さんよりもやや長身。

 オールバックの髪に白い物は混じっているけど、老いた雰囲気は全く感じさせない。

「お邪魔してます、玲阿さん」

 最初に頭を下げたお父さんに、私達もすぐ倣う。

 玲阿さんと呼ばれた男性は、明るく笑って手を上げた。

「いえ。私こそ、挨拶が遅れまして。道場の方で、門下生に稽古を付けていたものですから」

「済みません。大勢で押し掛けてしまって」

「お気になさらないで下さい。こちらこそ普段から、孫の四葉が大変お世話になっております。大したもてなしは出来ませんが、おくつろぎ下さい」

 ショウのお祖父さんはそう言って、枯れた笑い声を上げた。

「あいにく月映つきえと瞬達は、所用で出掛けておりまして。何が御用がありましたら、遠慮なく四葉にお申し付け下さい。四葉、分かったな」

「ああ。風成と姉さんもいないの?」

RASレイアン・スピリッツへ、指導に赴いている。来週は、お前に行ってもらおうか」

「俺は、人に教える程の腕じゃないよ」

「だからこそだ。他人へ教える事により、学ぶべき点も分かってくる。とにかく、まだまだ鍛錬が足りん」

 厳しく諭すお祖父さんに、ショウは恐縮して頷いた。

 それにしてもこの人に「鍛錬が足りない」と言えるくらいだから、玲阿家の人達の強さが窺い知れる。


「ああ、済みません。四葉も力はあるものの、気持の点で弱い部分がありまして。私としても、つい」

「いえ。そう言って下さる人がいるというのは、何よりだと思います。そうだよね、ショウ君」

「は、はあ」

「はは。彼には、まだお小言にしか聞こえていないようです」

 優しく笑うお父さんと、苦笑するお祖父さん。

 そしてショウは、恐縮しっぱなしだ。

 二人とも年長者で、しかもそれなりの経験を重ねているため、私達など本当に子供としか思えないのだろう。

 またショウが、いまいち分からないのも。

 私も全然分かってないので、彼の気持ちは良く理解出来る。



 お祖父さんはお父さんと後でお酒を飲む約束をして、凛とした佇まいのまま本宅の方へと戻っていった。

「面白くないな」

 鼻を鳴らし、枯れ葉をくべるショウ。

 子供扱いされたのを、まだ気にしてるようだ。     

 これで普段私が味わっている気持を、少しは分かってもらえたと思う。

「それも、ショウ君を思うからこそだよ。苦言を呈する、とでも言うのかな」

「分かりますけどね」

「だったら、お祖父さんの話を今日はよく考えなさい。あなただって、いつまでも子供ではいられないんだから」

 穏やかに諭すお母さんに、ぎこちなく頷く。 

 他人事なので、私はたき火に手をかざしている。

 暖かいし、お芋は焼けるし。

 嫌な事を、どんどん忘れていくような気持だ。 

 やっぱりこうして、ゆっくりとした時間を過ごすのは大事らしい。

 これからも、折を見て気を落ち着けるような事をしてみよう。


「怒られたわね」

 ふっと微笑み、被っていた皮のキャップを被り直すサトミ。

 舞地さんが被っているのは、布製のもっと大きなキャップ。

 彼女のはその鍔で、目元が隠れるくらいだ。

 どっちにしろ、二人ともよく似合っている。

「普段はサトミが怒るし、ここ来たらお祖父さんが怒るし。俺が、何したんだよ」

「拗ねないで。大体私は、本当の事を指摘してるだけじゃない。少しは自分の行動を振り返って、反省しなさい」

「反省って、別に悪い事なんて……」

 しかし切れ長の鋭い視線に合い、慌てて顔を伏せる。

 最近は落ち着いたけど、前はよくケンカしてたからね。

 心配掛けさせるな、という意味もサトミの視線には込められているんだろう。

「はは。また怒られた」

「うるさいな」

「いいの、いいの。人間、そのくらいでなくっちゃ」

 そう言って、ぺたぺた彼の肩を叩く。

 何がいいって、私が怒られないのがいい。

 私だって悪い事はしてないのに、みんなして怒るから。

 自覚がない、という意見は気にしない。


「そろそろ、食べれないかな」

「まだ早いわよ」

「でも、見てみたい」

 サトミの制止を振り払い、棒でアルミホイルを引っ掻き出す。

 火の粉が舞い上がるけど、それもまた楽し。

 後ろで叫び声を上げている女の子がいるけど、それもまた楽し。

「んー、まだ固い」

 お芋に刺した木の枝を抜き、さっきの棒でたき火へと戻す。

 やっぱり、なかなか焼けないね。

 いいや。

 楽しみは、じっくり待って後まで取っておけば。

「ユ、ユウ。火の粉がっ」

「大丈夫だって。燃えないから」

「そ、そういう問題じゃないでしょ」

 血相を変えて、セーターに付いた灰を払うサトミ。 

 勿論ジーンズや、被っているキャップも灰だらけ。

 だけど、彼女より前にいた私は?


「な、何これっ」

「自業自得」

 冷たく言い放ち、お母さんに灰を払ってもらってるサトミさん。

 冗談抜きで灰かぶりになった私は、お父さんの元へ駆け寄った。

「は、払って」

「いつまで経っても、優は子供だね。前も水たまりで遊んでて……」

 遠い目で、昔話をし出すお父さん。

 それはいいけど、今の私も見つめてよ。

「ちょっとっ」

「ああ、ごめん。ほら、上着脱いで」

「うん」

 赤のジャケットをお父さんへ渡し、ジーンズと白のブラウスをはたく。

 白い灰が一気に立ち上り、また舞い降りてきた。

 なんか、虚しい。

 所詮人間、最後には灰になるんだし。

「灰、か」

「え?」

 ジャケットをはたきながら、聞き直してくるお父さん。

「は、俳諧」

「俳句でも詠むの?急に風雅だね」

「あ、秋だから」 

 へへと笑い、空を見上げる。

 秋の空 灰にまみれて 雪模様

 ……訳分かんない。


 結局サトミと向き合って灰を払っていると、火の勢いが弱まってきた。

 しかしくべる枯れ木や枯れ葉が、もう残り少ない。 

 最初は山のようにあったのに、燃えれば早い物だ。 

 でも、このままでは火が消えてしまう。

「ど、どうしよう」

「いいじゃない。電子レンジで、加熱すれば」

「そんなの、駄目よ」

 夢の無い事を言うサトミをきっと睨み付け、取りあえず残っていた枯れ木を放り込む。

 さて、本当にどうしよう。

「あ、もうやってる」

 無愛想な声がして、埃まみれのケイがやってきた。

 また土蔵で、マンガを読んでたんだろう。 

「少しくらい、待ってくれても……。燃やす物は?」

「無い」

 あっさり答えるショウ。 

 彼にとっては、元々はゴミだった枯れ葉が無くなっただけという気持だろう。

 でも私にとっては、貴重な楽しみであり喜びの時だった。

 そして、この人にとっても。

「仕方ない。家をばらして、適当にくべるか」

 真顔で、玲阿家本邸を見やるケイ。 

 檜や柿の木やら。とにかく、いい木を使った立派な建物。

 確かに、良く燃えそうだ。 


「冗談、だよな」

「ああ、冗談冗談」

 笑って見つめ合う二人。

 しかしショウの目元は、全然笑ってない。

 対してケイは、満面の笑みを浮かべている。  

「珪君。本当に燃やすの?」

「だから、冗談ですよ。後は、熾火で焼けばいいでしょう」

「おきび?」

 訳の分からない事を言った男の子は、たき火の傍に屈んで穴を掘り始めた。

 そしてそこに、火の中から取り出したアルミホイルを転がしていく。

「後は土を掛けて、と。元々焼き芋は熾火で焼くっていうし」

「つまり、余熱で焼く訳よね。アボリジニのように」

「さすが、天才美少女。食い気だけの子供とは違う」

 親がいるのに、平気で言うなこの人は。

 面白くないから、お芋と一緒に埋めてやろうか。

 と私が悪巧みをしてるのも知らず、少しずつ火を今埋めた場所へ動かすケイ。  

 不器用だけど、火は好きだからね。


「ショウ、もう少し木」

「ああ」

「それと、芋だけってのは寂しいな」

 たき火に焙られ、不気味に彩られるケイの横顔。

 見た事はないけれど、地獄の釜を番する悪魔のように。

「適当に、高そうな物も持ってきてくれ」

「食べ物を?俺、よく分かんないんだけど」

「だから、適当だって。肉でも魚でもいいから、高い物」

 喉を鳴らし、何とも言えない笑い声を出すケイ。 

 その迫力に押されたのか、ショウはこくこくと頷いて本邸の方へ歩いていった。

「ユウも、付いていけば。その方が、食材を見つけれそうだし」

「あ、うん」



 その辺のレストランのようなキッチンへと入り、設備の整った室内をさっと見渡す。 

 玲阿家の人間だけでなく、住み込みの門下生もいるのでこれだけの大きさが必要なのだろう。 

 幾つも並ぶコンロに、大きなオーブン。

 鍋やフライパンも、大小が何個も揃えて並んでいる。 

 洗い場なんて場所もあり、何だか圧倒されるくらいだ。 

 それでも業務用サイズの冷蔵庫へ取り付き、クリア仕様になっている扉を外から眺める。

 食材は確かにたくさんあるんだけど、何が何だか訳が分からないな。

  キープした分も含めて、もう少し欲しいところだ。

 そう思っていたら、キッチンに人の良さそうなおばさんが入ってきた。

 玲阿家で主に食事を作っている人で、その関係から私も良くお世話になっている。

「四葉さん、雪野さん。どうかしました?」

「えーと、その」

 言いづらそうなショウに代わって、私が答える。

「高くて美味しい物捜してるんです」

「はは、そうですか。今日も色々仕入れてきたんですが……」

 おばさんは冷蔵庫を開け、奥の方からラッピングされた切り身を取り出してきた。

「北海道産の鮭児です。値は張りますが、それだけの味は保証しますよ」

「へえ」

「野菜だと、ジャガイモとかモロコシ。福井の方から、カニも来てましたね」

 出てくる出てくる。

 今からお店が開けるんじゃないかと言うくらい、冬の味覚が並べられた。

 たき火で楽しめて、山海の珍味も食べられて。

 つくづく生きていて良かった。

 そして、ショウと友達で良かった……。


 簡単に調理してもらった食材を段ボールに詰めて戻ってきたら、みんな芝生の上にしゃがみ込んでいた。

 かろうじて火は消えていなく、弱々しい赤い色が見えている。

「遅いよ」

「だって、これ見て」 

 ショウが抱えている段ボールを降ろして、開けてみる。

 当然洩れる感嘆の声。

 でもケイはそれに目もくれず、同じく持ってきていた枯れ木をたき火へ放り込んだ。

 食い気より、火の方が好きらしい。 

 近所で放火があったら、真っ先に彼を疑おう。



 アウトドア用の簡易テーブルへ並べられる、高級食材のホイル焼き。

 カニ、エビ、ホタテ、牛肉、タン、サーモン、名古屋コーチン……。

 新鮮な野菜やサラダもあって、もう言う事無い。

「あー、美味しかった」

 程良く溶けたカマンベールチーズをビールで流し込み、一息付く。

 この間の旅行じゃないけど、一通り食べ終えたのでもう満足。

 後はビールをちびちび飲みながら、スモークサーモンでもかじっていよう。

「優、もう食べないの。大きくなれないわよ」

「あのさ、お母さん。私はね」

「はい、あーん」

 口元へ差し出される、キャラメル掛けのフランスパン。

 だから、子供じゃないんだから。

「あーん」

 適度な香ばしさと押さえた甘みが、何とも言えない。

 結局は、食べるんだよね。

「僕には」

「いい年して、変な事言わないで」

「子供が出来ると、こうなるんだよ。みんなも、覚えておいた方がいい……」

 寂しく微笑み、ビールを傾けるお父さん。

 サトミもショウも答えようが無いらしく、「はあ」とだけ呟いた。

「どうでもいいっすよ。俺は、この松茸を」

 ホイルからスライスされた松茸を取り出し、大胆にかぶりつくケイ。

「……何だ、これ。シイタケじゃん」

「あのな。それ、丹波産の最高級品だぞ」

「ったく。期待させてこの味か。所詮はキノコだな」 

 ショウの話も聞かず、身も蓋もない事を言っている。

「あなた、初めて食べるの?」

「ああ。サトミだってだろ」

「私はおじさん達に、何度かご馳走になったわ」

 ああ?

 娘の私を差し置いて、ご馳走だ?

「ちょっと。どういう事よ、お母さん」

「あなただって、食べさせてあげたでしょ」

「サトミばっかり可愛がって」

 私も話を聞かず、松茸を頬張る。

 口の中に広がる芳醇な香りと、弾力のある歯応え。

 秋の味覚その物といった、最高の味。

 どうして、これが分かんないかな。

「まあいいや。俺は、芋でも食べてよ」

「え?」

「芋だよ、薩摩芋。甘藷。青木昆陽様々だって」

 一人で笑い、別なホイルを開けるケイ。 

 そして、よく焼けたお芋を食べ出した。 


 ……ちょと待って。

 今日ここへ来た理由は?

 松茸を食べに来た訳でも無い。

 ましてたき火をしに来た訳でも。

 そうよ、そうだよ。

「私も食べる」

「ほら」

 前に置かれる、よく焼けたお芋。

 保温器に入っていたので、暖かさも申し分ない。

 でも、手が伸びない。 

「食べられない」

「あ?」

「お腹、一杯だもん」

 恨めしげにお芋を睨み、指でつつく。

 さっきのキャラメルパンが余分だった。

 あれさえなければ、食べられたのに。

「じゃあ、私が」

 そういうや、お母さんはお芋を持っていってしまった。

 そして、お父さんと仲良く食べ始める。

「ちょっと、残しておいてよ」

「食べ物は、他にもたくさんあるじゃない」

「お芋は、もうないじゃない。大体もっとたくさんあったはずなのに、どうして……」

 するとお母さん達は、一斉に目を逸らした。

 もしかして、この人達。

「さ、先に食べたって言うのっ?」

「ユウに高級食材を食べさせるための、おじさん達の親心よ。分かって上げなさい」

 とのたまう、少なくとも私の親ではないサトミ。

 ショウへ付いていくようケイが言ったのは、このためか。

 確かに高級食材は美味しいけれど、お芋のあの甘みとあの食感は……。


「何でナイフ持ってるんだ」

「お芋の恨み」

「じょ、冗談が過ぎるな、雪野さん」

「焼いて、切って……」

 ナイフを両手で構えたら、目の前にアルミホイルが転がってきた。

 何となく、突き立ててみる。

 ケイの顔色が変わったけど、気にしない。

「あ」

 破れたホイルの中から見えたのは、よく焼けたお芋。

「全部食べる訳無いでしょ。ちゃんと、取ってあるわよ」

 呆れたサトミの声を聞き流し、ナイフをぺろりと舐める。 

 食感はないけれど、サツマイモの甘い味が口の中を駆けめぐっていく。

「はは」

「はは」

 顔を見合わせ、思わず笑い合う私とケイ。

 彼の笑いが強ばっているように見えたけど、それも気にしない。

 秋の空 ヤキイモ食べて 友笑う

 やっぱり、訳が分かんないな……。




 そんなたき火が恋しいと思えるくらい、最近は寒くなってきた。

 じき今年も終わりだし、物悲しさも感じてくる。

 今年も色々あった、と振り返るにはちょっと早いかな。

 とはいえ、楽しい事ばかりでもなかった。

 止めよう、これ以上考えるのは。

 考えても仕方ないし、解決もしない。

 自分と、みんなが楽しければそれでいい。

 後は、考えないでおこう。

「寒い」

「モトちゃん、薄着じゃないの」

「ここ、暖房は?」

「今、メンテナンス中」 

 私は制服の上にコートを羽織り、コーヒーをすすっている。

 しかしモトちゃんは制服だけなので、少々震えがちだ。

「こんな時期に、そんな事しなくても」

「真冬にやるよりはいいでしょ」

「そうだけど」

 余程寒いのか、体中をさすりだした。

「私のジャージなら、ロッカーにあるよ」 

「伸びてもいいの?」

「……サトミの服が、何かあると思う」 

 彼女のロッカーを勝手に開けて、ブルゾンを持ってくる。

「これ、着たら」

「ありがとう」

 これでも少し袖が短いにしろ、私のよりはいいだろう。

 あーあ。

「ショウ君の実家で、マツタケ食べたって聞いたけど」

「うん。ケイは、シイタケだって言ってた」

「貧乏舌ね。所詮、その程度の子なのよ」

 冷たく、私も思っている事を口にするモトちゃん。


「それで。独立はどうなった?」

「フォースも生徒会へ統合するようだし、そろそろね」

「やっぱり、ここの近くになるの?」

「ええ。丹下さんとも相談中だけど、D-2かな」

 私達の管轄はD-3なので、隣か。

 全てのブロックに駐在する生徒会ガーディアンズやフォースと違い、ガーディアン連合は人数や装備の関係上ブロックには空きがある。

 だからブロック変更も、簡単に出来る訳だ。

 それに来年度には私達も、別なブロックへ配置転換するシステムになっている。

 また引っ越しか。

 それはケイに任せるとしよう。

 今年の春と、同じように。

 やっぱり役に立つね、あの子は。

 面倒事を押し付けている、とも言うけど。


 うだうだ二人で下らない話をしていると、ドアがノックされた。

「開いてます」 

 今時手動のドアが開き、綺麗な女の子が入ってきた。

 池上さんではなく、もっと快活な感じの人。

 確か、予算編成局の……。

「こんにちは。中川っていうんだけど、覚えてる?」

「ええ。沙紀ちゃんの、従兄弟の方ですよね」

「そうそう」

 気さくな笑みを浮かべる中川さん。

 薄手の白いセーターに、黒のショートスカートという出で立ち。

 ただ寒いらしく、しきりに腕をさすっている。

「済みません。今ここ、暖房がメンテナンス中らしくて」

「そう。元野さん、お仕事は?」

「私がいなくても、順調に機能しています。よく、名前知ってましたね」

 特に慌てる素振りもなく、にこやかに聞き返すモトちゃん。

 それに対し中川さんも、その笑みを崩さない。

「塩田君の右腕にして、ガーディアン連合議長候補の一人。そのくらいは、ね」

「恐れ入ります」 

「へえ。モトちゃん、偉いんだ」

 素直に感心して、我が友の横顔を見上げる。 

 穏やかな表情と、鋭い視線を見せ中川さんを見つめるモトちゃんを。

 何にしろ平ガーディアンの私には、縁のない話だ。

「他の子達は?」

「サトミ……。遠野さんと玲阿君は、家の用事で今日はいないの」

「もう一人いるでしょう。沙紀のお気に入りが」

 口元を大きく緩ませる中川さん。

 いるにはいるけど、お気に入りかどうかは知らない。 

 というか、認めたくない。

「とにかく、彼も呼び出して」

「……何か、あるんですか」

「元野さん、警戒しない。ちょっと、話をしたいだけよ。もっと、暖かい所でね」

 それは同感だ。

 えーと、ケイはと……。       

「……今すぐ、戻ってきて。……パトロールの途中?知らないわよ、そんなの。……うるさいな。いいから、えーと」

「予算編成局」

「そう。予算編成局へ来て。はい、終わり」

 一方的に言って、勝手に切る。

 後は掛かってこないように、電源を落とす。

「さて、行きましょうか」



 場所は変わって、予算編成局内の応接室。

 暖かくて、椅子も柔らかくて、お茶も美味しくて。

 それにお金っていうのは、ある所にはあるらしい。

 機具もセキュリティも装備も、私達とは比べ物にならないね。

 記念に観葉植物の一つでも、持って帰りたいくらいだ。

「中川さん」

 機敏な動きを見せる綺麗な女の子が、私達の前に座っている彼女へ歩み寄った。

「どうしたの」

「ガーディアン連合の方が、一人みえてます。ただ受付で不手際が合ったらしくて、揉めているようです」  

「何をしても、その気になれば入ってくる子よ。すぐ、ここへ通して」 

「はい」

 余計な口を挟まず、直ぐさま端末で連絡を取る女性。

 お金だけでなく、人材も揃っているようだ。


 すると少しして、数名の男の子が人を囲みながら入ってきた。

「手荒な真似はしなかったでしょうね」

「は、はい」

 気まずそうに頷く男の子達。

 中川さんはため息を付いて、彼等に下がるよう促した。

「あ、あの。俺達、彼がその……」

「処分とか、そういう事は考えてないから。それと相手が誰であれ、応対に変化を付けないように」

「は、はい」

 低姿勢になる男の子と、その中から抜け出てくる男の子。 

 パーカーがよれていて、何となく息も荒い。

「また揉めて」

「呼ばれたから、入ろうとしただけだ。それを邪魔されたら、こっちだってそれ相応の事はする」

 何をしたのか、鼻を鳴らし乱れた髪を撫でつけるケイ。

 あれだけの怪我をしたのに、まだ懲りてないようだ。

 それはそれで、嬉しいけれど。

「ごめんなさい、浦田君。連絡が、上手く伝わってなかったようで」

「そのようですね」

「君には、いい薬だろ」

 不意に背後から声がして、ケイの肩を軽く叩く。

 フォース、Dブロック担当責任者。

 そしてフリーガーディアンという、全国に何人もいない特殊な肩書きを持つ人。

 沢さんだ。

 彼はジーンズにシャツだけという、かなりの薄着。

 名雲さんやショウ同様に。


「セキュリティシステムを壊そうとしてたんでね。僕が通らなかったら、施設内の電源も落ちてたよ」

「何をしてるの、あなたは」

 ほとほと呆れたというモトちゃん。 

 私も呆れてるけど、もう諦めてる。

「ガーディアン連合だっていうのに、通さないから。IDを見せても、「許可がない方は、審査をしていただかないと」だって」

「予算編成局は、企業や自治体との協議でそういう規則を作っているのよ」

「生徒への審査はIDのチェックと、所属組織への照会だけのはずです。それを越えたチェックを、フォースはしてるんじゃないですか」

 どうしてそんな事を知ってるのか知らないけど、皮肉めいた視線をさっきの男の子達へ飛ばすケイ。

 彼等は答えようがないらしく、沢さんと中川さんへすがるような眼差しを向けた。

「過剰な機密性というのは、僕も認めるよ。ただ場所が場所だけに、警備の厳重さが必要なんだ。その辺りを分かってくれると、助かるね」

「組織の通達以上に、各担当者の権限が大きくなってると思うんですが。特に、今の様な現場では」

「分かったから。全体の再教育とチェック体制の見直しも、追ってするわ」

「その前に、フォースが生徒会ガーディアンズへ統合されますよ」

 余程の事をされたのか、いつになく厳しいケイ。

 まさか。


「ちょっと。あなた怪我の所を、殴られたんじゃ」

 ケイは答えもせず、髪をかき上げただけだ。 

 そして男の子達は、一斉に顔を伏せた。

「冗談じゃないわよ。知らなかったとか、警備がどうこうなんて言わせないからね」

 机に置いてあったスティックを伸ばし、素早く立ち上がる。

 他の事はどうでもいい。   

 でも彼の怪我だけは譲れない。

「ユウ、もういい」

「あなたがよくても、私がよくない」

 ケイを見もせず、すり足で彼等に近づく。

 スティックの先端は地面すれすれ。

 この距離からでも床を叩き割るくらいは、たやすく出来る。

「落ち着いて、ユウ」

 視界にモトちゃんがよぎり、出足を躊躇する。

 その途端、スティックを持つ手を握られた。

「モトちゃん」

「あなたの気持ちは分かるけど、ここで暴れても仕方ないでしょ」

「だけど」

「それに、もう済んでる」

 私の手からスティックを持っていたモトちゃんが、顎を逸らす。

 その先には、壁際まで下がり脂汗を流している男の子達の姿があった。

「まだ、何もして無いじゃない」

「そのくらい、ユウが怖かったの。友達思いも結構だけどね」 

「そ、そんな事は」

 一気に恥ずかしくなり、顔を伏せる。

 そして、そのまま手を振った。

「もう、帰って」

「は、はい」

 ドアの開く音がして、走り去る音が続く。

 そして室内には、静寂が戻ってきた。


「さすがね、あなた達」

「褒めていただくのは結構ですけど、また彼に何かあったら今度は止めませんよ」

「分かってる。あの子達は、中等部で北地区の生徒会ガーディアンズに所属してたの。だから場数を踏んでないし、対応がいまいちなのよね」

 フォースは元々、予算編成局の傘下にあったガーディアン組織。

 その予算編成局もまた、元は生徒会の内部組織。

 そういった関係上、中等部で生徒会ガーディアンズにいた子達が多く参加している。

 あくまでも人から聞いた話だし、どうでもいい事だけど。

「大丈夫?」

「なんとか」 

 蒼白い顔で、壁に持たれるケイ。 

 退院したとはいえ、今でも脇の傷は痛むらしい。

 それ以外にも打撲や切り傷は幾つもあり、今だ完調とは言えない状態だ。


 取りあえず席に着いた私達は、中川さんとそして沢さんとも向かい合った。

「塩田君達と、揉めてるんだって」

「話って、それ……。別に揉めてはいないです」

「敬語はいいわ。でも、避けてるんでしょ」

「そういう形にはなってるけど」

 口元で小さく呟き、顔を背ける。

 この話題は、出来れば触れてもらいたくない。 

 今まで塩田さんへ抱いていた感情と、彼を否定してしまった自分。

 その複雑な感情が、まだこの胸を傷めているのだから。

「ごめん。別に責めるとか、仲直りしろと言うつもりはないの。ただ私達にもこうなった原因はあるから、一言謝りたくて」

「いいですよ、もう」

 面倒げに答えると、中川さんの顔が悲しげに曇った。

 それは私の胸をも苦しめたけど、だからといってこの話題はあまりしたくない。


「浦田君から、何か意見はないのかな」   

「俺はユウに従うだけです。塩田さん達に恨みはないけど、関わらないと言うなら、そうするだけで」

「君は、自分の意見を曲げないんでしょ。そう、沙紀から聞いてるけど」

 探るような中川さんの視線にも、ケイが動じる様子はない。

「個人の意見は曲げません。でも全体の意見として考えるなら、ユウの考えが俺の考えです」

「例え、間違っていると思っていても?」

「間違ってないから、従うんです」

 静かに、淀みなく答えるケイ。

 聞いていた私が、言葉に詰まってしまうくらいに。

「なるほど。すると他の二人も同じという訳かな」

「当然です」

「言い切るね。じゃあ、元野さんは」

 沢さんに話を振られたモトちゃんは、指を組み直して少しの間を置いた。    

「私は彼等4人とは、また違いますので」

「でも、仲間だろ」

「ええ、そうですよ」

 柔らかく微笑みはしたが、はっきりとした答えは返さない。  

 しばし交差し合う、両者の視線。

 敵意は感じられないが、和やかな雰囲気という訳でもない。

「最後まで、彼等との一線は画すって?その砦として」

「彼等ほどの能力がないだけですよ。ただ、それだけです」

 あくまでにこやかに答えるモトちゃん。

 そして沢さんも、穏やかに頷く。

 両者の間に、目に見えないどれ程の駆け引きがあったのかは分からないが。 

「分かった。もうこの話はしない。ただ、塩田君達も決してあなた達を困らせるつもりはなかったの。それだけは、分かって上げて」

「はい……」

 曖昧に頷く私に何か言いたそうな素振りを見せる中川さんだったが、すぐに表情を明るく切り替えた。

「とにかく。何かあったら、私達を頼ってちょうだい。それすら嫌かもしれないけどね」

「いえ、そんな事は」

「いいのよ、無理しなくても」

 朗らかに笑う中川さん。

 するとドアがノックされ、さっきの男の子が入ってきた。

「天満さんが、お見えになってます」

「え?あの子、今日会う約束してたかな」  

「局長の顔を見に来ただけだと……」

 そこまで言いかけた所で、元気な声と共に元気な女の子が現れた。


「あ、お客さんだったの。ごめん、ちょっと暇だったから来たんだけど。……あ、あなた達」

「こんにちは」

 席を立ち、会釈する私達。

 天満さんも持っていた書類の束を大きく振って、それに応えてくれた。

 書類が数枚落ちたのは言うまでもない。

「凪ちゃんとも知り合いだったの」

「従兄弟の友達で、そこからね。嶺那りなこそ、どうして」

「シスタークリス歓待委員会でちょっと。特に、元野さんはね」

 どうやら、お互い友人同士だったらしい。

 そうすると天満さんも、去年のトラブルに関わっているのだろうか。

 あまり、そういうタイプには見えないんだけど。

「みんな、暇?」

「特に、今すぐする事はないわ」

「じゃあ、この席割りを決めて。学年と性別が書いてあるから、それが一致しないように」

 目の前に置かれていく、数枚の書類。

 二マスの列が横に幾つも並んでいるプリントと、今天満さんが言った名簿だ。

「あなた、暇だって言ってたじゃない」

「いいから。ほら、ケーキ屋の割引券上げるから」

「物で釣らないでよ」

 それでも、ため息混じりにペンを取る中川さん。

 モトちゃんはすでに、取り掛かっている。

 そうなると私も付き合い上、やった方がいいだろう。


「やらないの?」

 プリントすら手に取らないケイを、ちらりと窺う。

「どうして、俺が」

「こんな事言ってるけど」

「いいの、いいの。浦田君はやらなくても」

 鷹揚に頷く天満さん。

 男の子には甘いのかなと思っていたら、彼女が笑いながら言葉を続けた。

「字が下手だし、却って作業効率が落ちるから」

「失礼ですね、天満さん」

「本当じゃない。あなた仕事は出来るけど、問題も多過ぎるもの」

 鼻を鳴らす男の子と、笑い続ける女の子。 

 でもケイには悪いけど、それまでの張りつめていた空気が和んできた。

 現実の厳しさはあるとしても、私は笑っていたいから。 

 辛い分、苦しい分。

 それを上回るだけ、笑えればいいと思う。

 思うだけなら、出来るから……。



 どうにかマス目を埋めて顔を上げると、みんなはとうの昔に作業を終えていた。

 モトちゃんは事務系、先輩3人もこの程度は軽いらしい。

 いいんだ、私は別な事で才能を生かすから。

「……終わった」

 そう一言呟き、背もたれへ倒れ込むケイ。

 卓上の端末で、レポートを書いていたのだ。

「ご苦労様。お陰で、助かったわ」

「俺は、企画局の人間じゃないんですけどね」

「まあまあ。はい、ご褒美」

 天満さんがテーブルへ置いたのは、ガム。

 割引券でも、食事券でも、何でもない。

 風船ガムだ。

「あの、これが2時間掛けて作ったレポートへの報酬ですか。ローテと、陳列法と、移動順序と……」

「いらないのなら、別にいいけど」

 小声で唸り、やはりガムを持っていくケイ。

 それで満足なんだから、素直に受け取ればいいのに。

「ユウ、そろそろ戻ろうか」

「あ、うん。それじゃ、失礼します」

 席を立ち、会釈する私達。

 ケイは突っ立ったまま、ガムをかじっている。

 虚しい抵抗だ。

「また、顔見せてね」

「今度、何か差し入れるから。勿論、ガムじゃなくて」

「あ、はい」

 ひとしきり笑い、もう一度頭を下げ部屋を後にする。


「そこまで、送ろう」

 いつの間にか後ろにいたらしい沢さんが、すっと前に出た。

 ケイが揉めたので、その再発を防ぐためだろうか。

 そう思っていると、彼が前を向いたまま呟いた。

「あくまでも噂なんだけど、学校側が生徒会へ何か通達を出したらしい」

「え?」

「君がそれに関わりたくないのは、分かっている。ただ、向こうはそんな都合にかまってはくれない。直接狙ってはこないにしろ、気にはしておいて方がいいよ」

「はあ」

 どう答えていいものか分からず、曖昧に返事をする。



 また関わる気もないので、何があろうと知った事ではない。

 自分達に被害が及ばない限りは、好きにやっておいてもらおう。

 それでも沢さんの忠告は、予算編成局の建物を出た後も胸に残っていた。

 その日の寝付きは、あまり良くなかった。     











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