2018年11月 第2週―①
『どういう意味なんだか……』
[ダンタリオン]と[シトリー]には、ああ言われたけど――
結局のところ、自分のすることは変わらない。
今日もアルマゲドンに向けて、“仕事”に出ようとしていた。
――していたのだが。
「はい! グラたん入りましたー!」
…………
[ケルベロス]がロビーで待機していた。
居酒屋みたいなノリで『入りましたー!』と言われても、反応に困る。
「いや、これから“仕事”なんだけど」
「誰かと協力した方が効率いいよねー」
「暗殺だぞ?」
『ねー』じゃない。
まさか……付いてくる気か?
「他の人にも声をかけてみるから、少し待ってて」
とか言っている間にも、誰かにメッセージを飛ばしている様子。
ログインして早々、完全に[ケルベロス]のペースに飲まれていた。
「人の話を聞けよ!」
――――
『…………』
言葉が出てこない。
[ケルベロス]、[シトリー]、[括木]。
あっと言う間に、編成された四人パーティ。
『いいじゃない。ボクたちも暇してるし。人数が多い方が楽でしょ』
同じような台詞をさっき聞いた気がする。
完全にピクニック気分だった。
『……隠密って言葉の意味わかるか?』
単独行動が基本。
良くても、サポートに一人。
四人で行くなんて聞いたことが無い。
と言ったところで、聞くはずもなく――
不安を抱えたまま、“仕事”へと向かうこととなった。
――――
目的の街に入ってからは“仕事”モード。
気持ちを切り替えていこうとしたところで――
『この緊張感、なんだかワクワクするね!』
なぜか変に興奮している[ケルベロス]。
おい、大丈夫か。そのまま緊張しといてくれ。
『天使と遭遇しない限りは、大人しくしてろよ。……フリじゃないからな』
過去にいきなり火柱を打ち上げた[ケルベロス]がいるだけに、釘を刺しておく。
『この人ごみの中にも、天使が紛れてるかもしれないんですよね……』
自然と、[括木]の声が小さくなっていく。
往来に叢雲を出しておくわけにもいかず――
無防備な状態なために、心もとないのだろう。
『……[シトリー]。どんな感じだ?』
『んー。全然いない。みんな[ルシフェル]に首ったけみたいだねぇ』
『あの可愛さは仕方ないよねー』
『僕はアルマゲドンの最後にちらっと見たぐらいですけど……』
[ルシフェル]目当てに、天使たちが≪天国≫に集まっているおかげで――
だいぶ街の守りが薄くなっているらしい。
導入されて一週間あまりでこれである。
少なくとも、こちらに対して悪い効果ばかりでもないようだ。
『こんなところで、影響が出てくるのか……』
人を惹き付ける能力を見れば、確かに天使長の名に相応しい。
――が、カリスマとかそういうのとは違う気がするんだが。
『今回はラッキーだったねぇ。楽な仕事じゃない』
『ラッキーで済ませるのもどうかと思うぞ?』
結局は怪我の功名でしかないのだ。
しかも、日を追うごとに薄れていく。
アルマゲドンに勝利して[サタン]が来た時に――
同じようなことにならないよう、注意をしておく必要があるだろう。
『良くも悪くも、引っ掻き回してくれるな……』
水面に映る像が、波紋によって歪んでいくように。
確実に何かが変わり始めていた。
――――
『はい、次の通りを右ー』
『次は左ー』
[シトリー]のナビゲートをもとに――
バラバラで、時間差で。
目的の場所へと向かっている。
四人が同じ行動をしているだけで、見つかる原因となりかねない。
注意を払いながら、確実に進んでいた。
『あー、ストーップ』
『天使が来てる? それとも監視タイプ?』
『監視タイプがしっかりいるねぇ。今はまだ気づかれてないけど』
『……どこです?』
『――いた』
目標である聖人を見下ろせる位置に、それらしいのが。
この“仕事”を長く続けている自分でも――
注意深く観察して『だいたいそうだろう』というのが分かるレベル。
あまり経験のない[括木]にとっては、見つけるのは難しいだろう。
だけどそれも――
[シトリー]の“眼”にかかれば、一目瞭然。
『どんな天使だろうと、ボクには敵わないからねぇ』と、自慢げである。
『実際、その通りだもんね』
非戦闘能力ならば、悪魔側に軍配が上がるというのは――
【ケルベロス】の《奥義》の時に証明されていた。
もちろん、【グラシャ=ラボラス】の《奥義》も例外ではなく。
今のところ、透明化中でも認識できるのは【シトリー】ぐらいらしい。
『このまま進むと当然見つかっちゃうんだけど?』
それに、周りに人間も大量にいる。
どうやっても、暗殺とは言えない状態になるのは確かだった。
『……どうするんです?』
それなら――
『……ギリギリの所から《奥義》を使って、目標に近づく。倒したところで天使が湧いてくるだろうから、逃げ道の確保をしてくれ』
気づかれてから脱出に移るまでが、この“仕事”の成功率を左右する。
《奥義》が登場してからというもの、何が起きてもおかしくない状況なのだ。
『え゛ー。全員で突っ込めばいいじゃん』
『で、全員が囲まれて一網打尽にされるまでがテンプレだな』
[ケルベロス]から不満の声が飛んできたので、用意していた言葉を返す。
別に脳筋というわけではないのは分かっている。
極力、単独行動を取らせないように、という考えなのだろう。
これまで独断専行に走って、痛い目をみた自分が悪いのだが――
流石に、こればかりは、この状況ではどうしようもない。
『この面子ならその可能性は低いと思うけどねぇ。ま、グラたんの“仕事”だから? グラたんのやり方に任せるけどさ』
無理やりに付いて来て、この言いぐさだった。
――が、[シトリー]のこの発言のおかげで[ケルベロス]もしぶしぶ引き下がる。
『[シトリー]まで……』
申し訳ない気持ちもあるが――
『これ以外に方法がないんだから仕方ないだろ?』
[シトリー]も同意見だからこそ、フォローに回ってくれたのだろう。
普段は散々なことを言ってくるが――
大事な部分ではしっかりバランスを取ってくれる。
そのあたりに、これまでの付き合いの長さが出ていた。
『……それじゃあ、納得してくれたな?』
自分一人ならば、万が一囲まれたとしても《奥義》による離脱が可能であること。
離脱した後は《奥義》のデメリットで身動きが取れなくなるので――
その間の防御を任せたいことを再度説明する。
『――頼むぞ』
『はいはい。それじゃあ、ヘマしないようにねぇ』
『天使の動きがあれば、叢雲送りますから』
『……気を付けてね。グラたん』
「≪Pay with blood and life ≫」
三人に見守られながら――
一人、街の奥へと歩を進めた。




