2018年11月 第1週
アルマゲドン後のアップデートも終わり――
十一月。
≪地獄の宮殿≫
月が替わってすぐに、いつものメンバーが招集された。
もちろん内容は、あの[ルシフェル]について。
「結局なんだったんだ? あいつは」
「……可愛かったね」
「こっちが勝ってたら、[サタン]として悪魔陣営に来てたんでしょ? 勝ちたかったなぁ、うあー」
[ケルベロス]が机をバンバンと叩く。
「見たところNPCっぽいけど、一応の扱いは運営と同じということでいいのかな」
「向こうの街で、天使に追加バフを付与してるらしいよ。一応、運営としての働きはしているんだと思う」
公式の掲示板よりも、wikiの方でのやり取りの方が活発らしい。
[ダンタリオン]が中心となって、話が進んでいく。
「それ以外は何をするでもなく。今は天使陣営の中をウロウロしてるって」
「しばらくの間は、マスコット的な役割の方が大きそうだねー」
公式からの追加情報も出ておらず――
天使たちも[ルシフェル]が何かアクションを取るのを待っているらしい。
「画像って、もう公式掲示板に貼ってある感じ?」
「wikiにも何枚か出てるよ。許可を貰った画像だけ上げるけど」
[ダンタリオン]がそう言うと――
何枚ものSSが映し出された。
一枚目。
厳かな、光に彩られた天国街の風景の中で――
[ルシフェル]が食料アイテムを、はむはむと頬張っている画像だった。
写真に写っている様子から察するに、天使達から贈られたのだろう。
……餌付けか?
「うわぁ、可愛い……」
小動物のような雰囲気に、女性陣が湧きたつ。
エモーションとは違う、自然な動きが静止画にも関わらず伝わってくる。
だからこそ、余計に可愛く感じるのだろう。
二枚目、三枚目と新しい画像が表示されるたびに――
女性陣から黄色い声――ならぬコメントが飛んでいた。
…………
飛び交うハート。
ぐったりとする男性陣。
「で、こいつは天国からは出てこないのか?」
「現界に降りてくる可能性があるか、ってこと?」
天使の長、という立ち位置である以上――
現界にいる人間にも影響を与える可能性があるかもしれない。
ひいては、アルマゲドンに関わってくる可能性があるのではないか。
というのが、[ベリアル]からの意見だった。
「今のところ、降りる必要性は見当たらないよね」
「バフの付与だけだもんねぇ」
その言い分をそのまま受け取れば――
後々には降りてくる可能性が出る、ということだ。
「……街で遭遇したら、攻撃した方がいいのか?」
もともとは“象徴”として扱われていた存在。
こうして、実際に降り立っているとはいえ――
攻撃対象として扱われるか怪しいものだが……。
なにしろ情報が少なすぎるのだ。
いろいろ試してみる必要はあるだろう。
あくまで、可能性の一つとして挙げてみる。
…………
「グラたん……」
「うわ。サイコパスだ、サイコパス」
……女性陣に睨まれた。
[シトリー]も便乗して、ここぞとばかりに煽ってくる。
「いや、お前らもレイドボスだのなんだの言ってただろ!」
『みんなでタコ殴り!』みたいな発言が出てなかったか?
俺の妄想の中の出来事だったのか?
「こうして実物を見ると……ねぇ?」
「斬りかかるのも、躊躇われるでしょ」
「ねー」
「ですねぇ」
一致団結して、異論を唱えてきた。
「……そりゃあ自分だって、抵抗がないわけではないけど」
良心うんぬんといった面での抵抗もあるにはあるのだが……。
それよりも、天国・地獄を含めた全ての女性プレイヤーが敵に回る事の方が重大だ。
試しに口に出してみただけでこれである。
万が一、実行に移した日には――
……袋叩きだろう。間違いなく。
考えるだけで憂鬱になってきたところで――
[ベリアル]と[ダンタリオン]が助け舟を出してくれた。
「試してみればいいんじゃね? 運営だって、そういう行動を取る奴がいることぐらい考えてんだろ」
「まだ、どちらも状況が掴めてないだろうし、降りようとしても向こうの天使たちが止めるんじゃないかな。NPCとはいえ、意思疎通ができるらしいから」
「こっちだって、[サタン]が現界に降りようとしたら止めるよねぇ? グラたんみたいなのが、こぞって狙ってくるのは分かってるだろうし?」
そして、余計なひと言を足してくる[シトリー]。
相変わらず、女性陣のチクチクとした視線が痛い。
非常に不本意なのだが、ここで謝るしかなかった。
「もういいだろ! 俺が悪かったよ!」
俺にヘイトを集めても仕方ないだろ!
――――
「あぁ、そういえば。今度は名前を募集してるみたい」
「名前?」
話題は変わって――
公式サイトでの更新予定の話になっていた。
「うん、あの子の」
どうやら、運営が名前の募集を始めているらしい。
結果は、十一月のアルマゲドン後に発表されるようだった。
「いろんな場所で、個人的なアンケートみたいなのをやってたねぇ」
「もちろん、wikiの方でもいろんな候補が上がってるよ」
「[ルシフェル]・[サタン]じゃ駄目なのか?」
というか――
『我が名は[ルシフェル]』と、しっかり言っていたような気がするんだが。
「やっぱり、陣営を移る度に呼び方変えるのも面倒なんじゃない?」
「どっちでもいい気がするがなぁ……」
運営はこれを機会に、とことん盛り上げていくつもりらしい。
……そのうち、公式からグッズ販売でもされるんじゃなかろうか。
――――
そして――
ある程度、話が落ち着いたところで[バアル=ゼブル]が締める。
「ゲームの進行としては何も変わっていないだろう、というのが今回の結論でいいな?」
全員が肯定の意を示す。
「それでは、これで解散としましょうか」
女性陣は、そのまま集まって[ルシフェル]談義に花を咲かせるようだった。
自分は流石に、その華々しい空気に混ざる勇気もないので――
[ダンタリオン]や[シトリー]と一緒に地獄街へと戻る。
「今のところ、装備の追加なんて話もなさそうだし。大きくバランスは崩れることはないだろうけど……」
「今月のアルマゲドンがどうなることやら、だねぇ」
「勝っても負けても、たかだかマスコットが移動するだけだろ。やることは変わらないさ」
ここまでやり込んでいると――
バフで補正をかけられたところで大した意味がない。
初心者救済のためのアップデートなんて、正直どうでもいい。
今までと変わらず、全力を尽くすのみだろう。
「“たかだかマスコットが移動するだけ”……それはどうだろうね」
「分かってないなぁ、グラたんは」
「…………?」
ネットの世界というものを舐めていた、と言うしかないだろう。
見通しが甘かったと、そう言うしかないだろう。
全く考えていなかったのだ。
たかだかマスコットが移動するだけ。
そんな、些細なことでも必死になってしまう――
単純なプレイヤーばかりなのだということを。




