入団取り消し
舞楽団が地方へ旅出つ前の日、アリアは楽士長に呼び出された。
アリアが楽士長の部屋に入ると、そこには団長の姿もあった。
「さっそくだがアリア、おまえに頼みがある」
楽士長はそう切り出した。
「アリア、舞楽団への入団を取り消してくれないか」
その言葉に、アリアは救われたような気持ちになって返事をした。
「はい」
「……理由はわかっているかい?」
「……はい」
アリアはマリクに嫌われていると思ってから、練習に身が入らなくなっていた。
そんなアリアを旅に連れて行けないと言われるのは当然のことだろう。
「すまないな。このままではマリクが駄目になる」
団長の言葉に、アリアは顔を上げて彼を見た。
「マリクが何を抱えているのかはわからないが、おまえが入ってから音がおかしくなった」
そう言われて、そこまで彼に嫌われているのかとアリアは悲しく思った。
「マリクとアリア、どちらか片方を辞めさせるなら、入団したばかりのおまえのほうを辞めさせるしかない」
団長はそう言ってから、もう一度「すまないな」と謝った。
「……私はこれからどうしたらいいのでしょうか?」
アリアは楽士長に問い掛けた。
就職先である舞楽団を辞めたのだから、自分は楽士も辞めなければならないのだろうか。
そんな考えが頭をよぎり、アリアは自分の立ち位置に不安を覚えた。
しかし楽士長はその考えを払拭してくれた。
「アリアは神殿楽士としてここに残りなさい」
その言葉にアリアはホッとした。
望んで楽士になったわけではなかったが、今では竪琴を弾かないでいると落ち着かなくなっていた。
だから楽士を辞めたくないと思っていたのだった。
「皆には体調不良で辞退したということにしておくから、明日は自室から出ないようにしなさい」
楽士長にそう言われて、アリアは「はい」と返事をした。
体調不良の振りをするのは心苦しかったが、入団取り消しになった理由を正直に話すこともできない。
そんな葛藤を抱えながら、アリアは退室を促されて自室に戻った。
そしてマリクのことを考えた。
(これでマリク兄様の気持ちも軽くなるでしょうね……)
そう思うと安堵とともに悲しくなった。
もうマリクとは顔を合わせないようにしようと思いながらも、彼の音が聴けないことを寂しく思った。
(あのどこか懐かしい音をずっと聴いていたかった)
それはもう叶わない。
そう思うと涙が溢れそうになって、アリアは竪琴を手に取るのだった。