カレーなる王様とお出かけ 3
お待たせしました。
今回でお出かけ編は完結です。
剣をかまえるルエンと向かい合いながら、徐々に距離を取る。
「………いくぞ」
小さく呟くと、後ろにいた男に振り向きざまの回し蹴りを食らわし1発KOを決める。
それと同時に周りに集まりつつあった野次馬の中から何人かの屈強な男たちが刃物片手に向かって来る。
勢いをつけて飛びかかってきた奴を避けながら、別の刃物を降り下ろしてくる奴の腕を掴み無防備になっている腹に向かって拳をめり込ませる。
次々に向かって来る奴らの相手をしながらルエンの方へ視線を向ければ、器用に剣の柄部分で襲い掛かる奴らに当て身を食らわせ地面に沈めていた。
ーーーーーむやみやたらに剣で切りつけないのか。
騎士といえば直情的な者が多いのにルエンに限っては、なるべく怪我をさせないようにしている。
気に食わない存在なのには変わらないが、その行動には素直に感心した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「………やっと片付いたな。とりあえず倒れているやつの手を拘束しておくかな」
ようやく襲い掛かってくる者たちが居なくなったころ、大きく息を吸い呼吸を調えると近くの露店にあった紐を買って手早く倒れている者を拘束していく。
そんな俺の姿を見ていたルエンも激しい動きに乱れていた呼吸を調えながら疑問を口にした。
「………何故気づいた?コイツらが最近この辺りで暴れている盗賊団だと」
「あれ、コイツら盗賊団なのか?……最初は単純に怪しい奴らが後を着けてきてるなって思っただけだが、まぁコイツらも刃物チラつかせながら歩いてた上に、街の人も怯えた顔して見てたからロクな奴らじゃないって直ぐにわかったよ」
なるほどな、こいつら盗賊団だったんだな。そういえばアーノルドから報告を受けていたいたけど、これならほぼ壊滅状態だろうから新たに騎士団を派遣する必要がなくなったな。
そんなことを考えながら拘束し終えた者たちを見回す。
地面に倒れ付しているのはざっと二十数人、こんな人数で暴れたせいで道沿いに並ぶ露店、数件も一部壊れたりして被害を受けている。
………………城に帰った時のアーノルドの反応が怖いな。
「正直、ライス殿は普通に俺の挑発に乗って向かって来るかと思っていたんだがな。もちろん、そうなった時は容赦なくあんたをぶっ飛ばしてから盗賊連中を捕まえる気だったんだが、あてがはずれて残念だ」
「挑発に乗ったフリをして剣を抜きやすい状況にしたんだ、感謝してほしいくらいだな。まぁアンタは剣を抜くことなくやっつけたけどな。………だが1つ忠告だ、街中で剣を抜かないのは確かにいいことだが当て身だけで済む奴ばかりではない、ちゃんと見極めるんだな。」
「………ライス殿アンタは何者なんだ?戦うことに慣れ過ぎている、特に刃物を持った人間に対して素手であんな風に戦うなんて見たことも聞いたこともない。」
あぁ、久し振りに暴れられるってことで空手やら柔術やら色んな技を使ったんだよな。………最近、デスク仕事ばっかりだったからストレス溜まってたのかな。
「あいにく、俺の仕事はしがない事務屋だよ。」
それだけ言って笑う俺にルエンはあからさまに顔をしかめたが、特に追及をしてくることはなかった。
「ライスさん、ルエンさん、お待たせ!すっごく良いものが手に入ったから興奮して話こんで遅くなっちゃいました!!………って、あれ?何でこの人たちこんなところで寝てるんだろ?どこかの国の風習かなにかなの?」
やっと店から出てきたミーナの呑気な言葉に脱力しながらも安堵の息をつく。
危険なことに彼女が巻き込まれなくて良かった………
「ミーナ殿、すみませんが急な用事が出来たので今日はここで失礼します。………ライス殿、あとのことは頼みます。」
「用事ですか?残念ですね…。あっ、でもお城に帰ってきたら研究所のほうにきてください!新しい調味料が手に入ったので新作の料理を作ろうと思っているんです」
ルエンの急な離脱に戸惑いを見せたミーナだったが、すぐに笑顔を浮かべて研究所に来るように誘う。
騎士としての職務と自分の欲望の狭間に立たされ、騎士の自分を取ったルエンは思わぬ誘いに残念そうな表情をしていたのが一変して喜色満面の顔で『用事を早く終わらせて絶対に早く行きます!!』と言い残し去っていった。
新しい調味料?新作の料理?!ヤバい、俺も早く城に帰りたい!!
ミーナの言葉にどんな料理が出てくるのかと想像しながら、期待に胸を膨らます。
「………ィスさん、ライスさん!聞いてます?私たちも移動しましょう。なんかここ騒がしいですし、もう少し行った先にオススメのお店があるんです!せっかくだから行きましょう!」
「そうだな、まだ騒がしくなりそうだし早く移動するか」
遠くのほうから大人数がやって来る足音が聞こえる、多分ルエンの奴が警備兵でも連れてきたんだろう。
とりあえずこの場はアイツに任せるかな。
せっかくのミーナとの外出なんだから残りの時間、楽しまなくちゃ損だよな。
「で、新しい調味料って何を見つけたんだ?」
「新しい調味料は『魚醤』です。お魚で作った醤油なんですけど、ちょっと酸味があって美味しいんです。タイ料理に使うナンプラーとかも魚醤なんですよ。」
魚醤か………聞いたことないけど、ナンプラーなら知ってるな。
あまりタイ料理を食べたことないんだけどミーナが作る物なら美味しいんだろうな。
早く城に帰りたい感じがするけど、2人きりのこの状況も捨てがたい!!
「この魚醤は海がある国出身の商人さんが持ってたんですよ。魚醤って塩漬けした魚を瓶に詰めて発酵させたものなんです。塩漬けの魚ってことで甘いもの好きのこの国の人には見向きもされなくてずっと売れ残ってたんですけど、だからこそ発酵が進んでいたみたいで私には逆にラッキーでした!」
見せられた瓶には確かに魚らしき物が入っていて底のほうには茶色の液体が溜まっていて、一見して見れば腐っているようにも見える。
塩も魚も高価なものだからそれなりの値段をするはずだが、この状態になったらもう売り物にはならない。
ミーナはお手頃の値段で買えたはずだ。
だが、こんな状態の物を見せられたくなかったな………、一気に食欲なくなったよ………
「あっ、ライスさん!このお店です、ちょっと買ってくるんで待ってて下さい!!」
そう言って駆け出したミーナは露店の主から何かを受けとると、直ぐに戻ってきて串に刺さった肉らしき物を差し出してきた。
戸惑いがちにそれを受け取り、良い匂いに誘われて串に刺さった肉にかぶり付いた。
「ーーーー!?」
口の中に広がる肉の旨味、そしてスパイスの刺激と香り。
城の中では味わったことのないその食べ物に驚きを覚えた。
「こっちもオススメですよ」
口の中に肉を頬張ったままのミーナが別の串を差し出してきたので、それも食べてみる。
それは肉にトマトソースを絡めて焼いた物で、あまりの旨さに感動した。
「………旨い、なんだこれ?」
「これはですね、北のほうにある国の名物なんですって!美味しいですよね?私も初めて食べたときにビックリしちゃいました、この国にも甘いもの以外にも食べ物があるんだなって。」
笑いながらもう1本の串肉を頬張るミーナは、宝物を見つけたみたいに得意気に語りながら食べ終わった串を持っていた袋に入れた。
「宰相様から少しだけ聞いてたんです、王様は甘い物以外の食べ物が食べたくて色んな国に足を運んだって。行った国で困っていることがあれば真摯に話を聞き、必要とあらば手を差し伸べる。そんな優しい王様に感謝した人たちがこの国を真似て次第に食文化まで変わっていってしまったって。………なんかそれってわたしたちの居た日本みたいな状況ですよね。日本人も太平洋戦争のあとから急速に食の欧米化が進んで昔ながらの和食が廃れていったんです。私も手軽に食べれるパンとかマクドナルドとかを好んでたんですけど、この世界に来る少し前に和食の良さが見直されて無形文化遺産にもなったんですよ?」
ーーーーースゴいですよね、世界の色んな国の人たちが和食を真似してたべてるんですよ?
そう言って笑うミーナを見て俺の中のモヤモヤしたものが次第に晴れていくのを感じた。
欧米がこの国で日本が近隣諸国だと例えてみれば確かに状況が似ている。もし、近隣諸国が自分の国の郷土料理のよさにもう一度気付いてくれたなら、それはなんと素晴らしいことだろう。
「この国に感化された国の人たちもきっと直ぐに気付きますよ、自分の国の郷土料理がどんなに素晴らしい物なのかって。だって実際にこの異民街には各地からやって来た人達が自分の国の郷土料理を作って売ったりしているんですよ?みんなやっぱり食べ慣れた物がいいんですよ」
「………そうか、これがあるってことはみんな自分の国の料理を忘れていないってことなんだな。」
手に持つ串肉を見下ろしながらグッと手に力を込める。
ずっと罪悪感を感じていた、自分の欲望を優先するあまり他国の文化を壊してしまったんじゃないのかと。
申し訳ない気持ちで一杯で、滅多なことではこの国を出ることができなくなってしまった。
ミーナはその言葉でずっと俺を苦しめていたモノから救ってくれた。
「さて、そろそろお城に帰りましょうか。あんまり遅くなると宰相様に怒られちゃいますし」
そう言って歩き始めたミーナの後ろ姿を目で追いながら、自分の胸の前に拳を当てた。
初めて感じるこの感情、胸がグッと締め付けられる感じがしてとても苦しい。
………こんなの日本で生きていた頃にだって感じたことがない。
自分ではまったくわからないこの感情に戸惑いを覚えたがこれだけは言える。
………彼女にずっと俺の傍に居てもらいたい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
色んなことがあったものの、なんとか城へと戻った俺たちはすぐにミーナの研究所に向かい新しい調味料で作った料理が出来上がるのを待っていた。
大人しく座って待っていると身軽な服に着替えたルエンがやって来て料理を作っているミーナに一声かけてから当然のように椅子に座った。
テーブルを挟んで斜め向かいに座るルエンに目をやると、むこうもこっちを見ていた。
「事後処理は上手くいったのか?ここに来るのはもっと遅くなると思っていたんだが?」
「あいにくと私は優秀なんで。………と、言いたいとこだけど今日は何故だかあの街周辺に兵が多く配置されていて迅速に処理ができた。本当だったら取り調べやら身元調査なんかで深夜までかかるとこだったから正直、運が良くて助かったよ。」
なるほど、俺とミーナが外出するってことでアーノルドの奴が警備兵を多めに配置したんだな。
迅速な処理が出来たのも俺専属の影の護衛が動いたんだろうな。………こういう時は仕事が早いのも考えものだな、せっかくのミーナとの食事に邪魔者が増えてしまったんだから。
「はーい、出来ましたよ!新作料理です、召し上がってくださいねっ!」
目の前のテーブルの上に置かれたのは深めのお皿に盛り付けられた肉やジャガイモ、人参に玉ねぎ。
ホクホクと温かい湯気を放つそれは、なんとも言えない良い香りを放っていた。
日本で生きていた頃、母親がカレーと同じくらいよく作ってくれた料理………
「………肉じゃが?」
まさかこれをもう一度食べることができなんて………異民街で食べた串焼きと同じくらい、いやそれ以上の衝撃があった。
目頭が熱くなるのを感じて眉間にグッと力を込めると、ミーナ特製の箸を手に取り皿の中身に手をつけた。
口の中に広がるのは少しだけ酸味のきいた醤油らしき味の染み込んだジャガイモのの味。
人参も玉ねぎも肉も、みんな次々に口の中に入れていき深く味わう。
ルエンも食べた瞬間に大きく目を見開き、マジマジと皿の中身を見下ろしたあと口の中に掻き込むように手に持つフォークを忙しなく動かす。
先に食べ終えていた俺はミーナにおかわりを要求し、先程とは多めに盛り付けられた肉じゃがを頬張った。
それを見ていたルエンが自分も負けてなるものかっ!と、おかわりを願い出て再び食べ始める。
………いつの間にか競いあうように肉じゃがを食べる俺たちに、自分の食べる分がなくなるっ!とミーナが激怒し部屋から蹴り出された。
追い出されることが二度目の俺とは違い、突然のミーナの暴挙に免疫のないルエンは目を白黒させて廊下に尻餅をついていた。
ーーーールエン、やっぱりミーナの相手にお前は相応しくないな。
優しいミーナも暴力的なミーナも、みんな理解でき抱え込めることができるのは俺だけだ。
俺は以前の経験から激怒したミーナが再び扉を開けることがないことを知っているので、未だに呆然と座り込んだままのルエンに一瞥を送るとその場を後にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ーーーーー執務室にて
「…いやにご機嫌ですね、陛下。そんなに今日の外出は楽しかったのですか?」
「あぁ、なかなか充実した1日だった。外出することを許してくれてありがとな、アーノルド。」
上機嫌な俺は深夜になってもまだ仕事を続けている。アーノルドに今回外出するにあたって出来なかった書類仕事を『寝る間も惜しんで全部終わらせるから!!』と約束していたのだから悔いはない。
幸いなことに、肉じゃがを食べることが出来たという興奮が未だに治まっていない。
集中して片付けているので山となっている書類が徐々に無くなっていく。
「充実した1日を過ごされたようで何よりです。時に陛下、異民街のほうから騎士らしき男と地味な格好をした貴族らしき男たちが暴れて露店が何軒か被害に遭っているという報告を受けているのですが………?」
「………………修繕費は城に回すよう言ってくれ」
「すでに修理のための人間を派遣しました、修理費は陛下の個人資産から出しておきました。あと、こちらはその際に出た報告書なので早めに目を通していただきサインのほうをお願いします」
まさか俺の資産から費用を出すとは………いや、別にケチつけてる訳じゃないけどルエンだって一緒に暴れたのに何で俺だけ………。
理不尽な対応にブツブツ文句を言っていると、ドンドンっと新たに机の上に積まれた紙の束に意識が遠くなる。
今日は確実に徹夜だな………
一気にドーンと疲労感に襲われ机の上で頭を抱え込む俺を横目に、アーノルドは着々と帰宅の準備を済ませている。
「では、私は先に帰ります。怠けてないで早く取りかかってくださいね」
それだけ忠告するとさっさと部屋を後にしようとするアーノルドに恨みがましい視線を向けていたが、不意に名案が思い浮かび出ていくアーノルドを呼び止めた。
あからさまに顔をしかめるアーノルドに対して俺はニヤリと笑ってみせる。
「アーノルドお前に一つ報告がある、城内の警備にあたっている騎士の中に『ルエン』という男がいるはずだ。今回一緒に街に出て思ったが、なかなか腕も立つようだし状況判断もできる………そいつを近衛騎士に配置替えをしてくれ、もちろん最初は下っぱからだが指導教官にはザクートをあてる。明日の朝一番に通達を頼む」
「平の警備騎士からエリートの近衛騎士に、ですか?反対の声がありそうですが指導教官がザクートなら大丈夫ですかね………それにしても新人に近衛騎士の中でも一番に厳しく恐ろしいと有名な人物を指導教官にするとは、陛下も人が悪いですね。」
ーーーーーお前には言われたくないな
内心ではそう思いつつ、今度こそ部屋を後にするアーノルドの後ろ姿を見送った。
俺はこれからの展開を思い浮かべながらニヤける顔を押さえられなかった。
だって不公平だろ?俺はこれから数日は確実に溜まった仕事を片付けないといけない、だから自分からミーナに会いに行くことができない。カレーを執務室まで運んでくれる時に会えることはできるが、それも限られた短い時間だけ。
それなのに警備騎士として比較的自由のきくルエンは頻繁に時間を見つけてはミーナに会いに行くだろう。
そんなこと許せるはずがないだろう?
ーーーー翌日、ルエンが天国から地獄をみたのは言うまでもないだろう。
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
しばらくは私生活が忙しいので投稿は休止してボチボチ書き溜めていきたいと思います。




