逃がすつもりはない
男性側視点
記憶を取り戻したあいつに、告白してから1年。
1年がこんなに長く感じるとは思わなかった。
この1年は幸せでもあり、苦悩する1年だった。
俺はあいつを本当に幸せに出来るのだろうか……
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「夏輝!あやちゃん、次はいつ連れてきてくれるの?」
ワクワクしながら俺に声をかけてきたのは母親だ。
1年前…いや、高校時代に一度だけ会った彼女の事をいたく気に入っている母。
俺の知らない所でアドレス交換して頻繁にやり取りをしているらしい。
俺よりもやり取り多いんじゃないだろうか…
「土曜日に連れてくる予定だけど……」
「なに!?土曜だと!?日曜日にしろ日曜日に!わしが会えないではないか!」
母との会話に割り込んできたのは祖父。
祖父も彼女の事を気に入っている。
なんでも亡くなった祖母にそっくりだとか…
そうか?
彩香は祖母のように怖くないと思うが…
とは祖父の前では言えない。
祖父は今でも祖母一筋だからな。
「じゃあ、土曜日はお泊りしてもらいましょう♪」
浮き浮きしながら彩香にメールを送る母。
祖父もその隣でうんうん頷いている。
「夏輝……返事はもらえたのか?」
俺の肩に手を置いて苦笑している父の声に母と祖父も俺に視線を向ける。
「ああ、昨日やっと承諾の返事をもらった。土曜日はその報告も兼ねてだったんだけど……」
俺の言葉に3人は諸手を挙げて喜んでいる。
俺以上に喜んでいるような気がしないでもないが…俺の好きな人を認めてくれていると思えば嬉しいもんだ。
「え?花楓さん達に言っちゃったの?」
彩香の会社の近くのカフェでランチを楽しむ俺と彩香。
なかなか会える時間が合わない為、週に一度ランチを一緒にするようにしている。
「ああ」
「だからこの間のメールのテンション高かったのね」
苦笑する彩香。
「彩香の方は?」
「昨日伝えたよ。叔父さんものすごく喜んでくれた」
彩香の両親は彩香が19の時に事故で亡くなったそうだ。
彼女が辛い時にそばにいられなかったこと悔んだら
「過去には戻れないけど……この先、ずっと一緒にいてくれるんでしょ?」
薄らと頬を染めて見上げてきた彩香は殺人級に可愛かった。
その場で押し倒さなかった自分をほめたいくらいだ。
もし、あの場で押し倒していたらビンタだけでは済まなかっただろう……
「それはそうと、時間大丈夫?」
「ん?ああ今日はこの後、お前んとことの商談だから大丈夫」
「え?まさか……」
さっと顔色が悪くなる彩香に俺はニヤリと笑う。
「一緒に行くだろ?」
「ヤダ」
「なんでだよ」
「またお姉様方にいじられる……」
あ、青かった顔が赤くなった。
よーく話を聞けば、今朝、彩香は俺との関係を貴也さん(彩香の叔父)経由でばらされたらしい。
まだプロポーズの返事をもらう前…お試し期間中のデート現場を目撃されてから時々いじられていたらしい。
嫉妬や妬みではなく、可愛い妹の恋を見守るって感じみたいだったけどな。
うーん、俺としては牽制の意味を込めて一緒に行きたいのだが…
まあ、今はこれだけで十分か。
俺は彩香の左手を取ると俺がデザインした指輪にチュッとキスをした。
彩香は顔を真っ赤にさせて慌てて左手を引っ込めようとした。
「な、な、な……」
「彩香が俺のモノって印。…………キスマークのほうがいいか?」
左手を引っ張って抱き寄せ耳元でそう囁くとさらに顔を赤らめて俺の胸をバシバシと叩く彩香。
潤んでいる瞳で見上げられれば俺の負け。
大人しく彩香を開放すると、脱兎のごとく逃げた。
「くっ……やっぱり飽きないな~」
彩香が逃げてきっかり5分後に店を出る。
最初は友達の延長のような付き合いだった。
徐々に友達ではない、異性としての付き合いに変わるのにそう時間は掛からなかった。
この1年で俺と彩香の関係は劇的に変わったと周りは見るだろう。
表面上はそうかもしれないが、俺も彩香も想いは高校時代から続いていた。
高校の入学式の日、お互いに一目惚れをし、今なおその想いは続いている。
「もう二度と逃がすつもりはないからな……」
一度は諦めかけた恋
”偶然の再会”が導いたのは
諦めきれない初恋の成就だった
一応これで完結です。
大幅に削りました。いやもしかしたら削り過ぎたかも…
ただダラダラと描くよりもあっさりした方がいいかな~と・・・
ここまでお読みいただきありがとうございました。