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『ぶちかませ!!』

襲撃現場を見たフーリは飛竜があまりにも貧弱な姿をしていると思った。

コウモリとトカゲを足して割ったような姿、腕は無く、長い首と尻尾があり、翼と脚があるだけ。

GAUZSに登場する飛竜とは、姿こそ似ているが大きさ、迫力が全然違う。

GAUZSに登場する飛竜は、10メートル近くの巨体で空を縦横無尽に飛び回り、ブレスと爪の攻撃に一般プレイヤー達は苦戦する、中位モンスターの中では上、上位モンスターの中では最も下。

謂わば上位モンスターへの登竜門的な存在だった。


こちらの世界の飛竜は見た限りでは5メートル程の大きさしか無く、10メートルに届く個体は見られない。

飛竜から馬車を守る一団は悪戦苦闘しており、大きな被害はまだ出ていないのだろうが、時間が立てばもっと被害は増えるだろう。



そんな時だった。

フーリ達の前で馬車を守る一団から、飛竜に向かって紫電が迸る。

紫電を見た瞬間、フーリ達は驚き眼を見張る。彼らが見た紫電はコイルが言っていた歯車を出している人間からで、その力を彼らは初めて目にしたからだ。


『フーリ殿、如何しますか?』


驚いているフーリの耳にクロの声が聞こえる、そこでもう直ぐ襲撃地点に辿りつこうとしていることに気が付き、馬車を守る集団と飛竜もクロの巨体に気付いたようで、動きを止めている。


「手前の奴はクロが始末しろ。

 俺は右、コイルは左、リグリットはあの集団を守ってやれ。」


後ろに座る二人にも聞こえる声で言ったフーリは、今ある疑問を押し込めると息を吸って吐く。

そしてクロへ一番手前の飛竜を指さし叫ぶ。


「ぶちかませ!!」


その瞬間、クロの大きな口から大音量の雄たけびが周辺に響き渡り、そのままの速度で一番手前で飛んでいた飛竜に襲いかかった。


クロの牙と爪が飛竜に襲いかかった瞬間、フーリは宣言通りにクロの背中を蹴り、空へ飛び出すと右に飛んでいた飛竜の首目掛けて自身の左足を横に振り蹴る。


コイルはクロの背中の上で愛弓に矢を番えてから、照準を合わせず上空へ矢を放つ。


リグリットはクロの背中から飛び降りた瞬間に、自分の身体をすっぽりと覆ってしまう程の美しい装飾がされた銀の大盾を出現させて、馬車を守る集団の前に着地する。

リグリットが地面へ盛大にクレーターを作って着地した瞬間…。


クロの牙と爪の餌食になった飛竜が四肢をバラバラにして地面に落ち、フーリが放った蹴りに吹き飛ばされた飛竜は、近くを飛んでいた別の飛竜を巻き込むとそのまま流れ星のように飛んでいき、集団から離れた場所へ墜落。コイルが放った弓矢は上空からまっすぐ光の軌跡を描き、左を飛んでいた飛竜の頭を射ち落とす。


その場に静寂が支配していた。フーリ達は一瞬のうちに4体の飛竜を葬るといった離れ技をやってのけたのだから当然かもしれない。

しかし、彼らにとっては"それが当然"。飛竜など幾らおろうが物の数ではない。

この場に居る飛竜を数分あれば1人で片づける事が出来るのだから。


リグリットは地面に降り立つと、集団の中で一番豪華な鎧を着たイカツイ顔の男を見付け、その男に言った。


「助勢しよう。

 しかし、手出しは無用。

 貴殿らはそこで見ているといい。」


リグリットの余所行きの言葉で宣言したが、そこでふと思った。彼らに自分の言葉が通じたのだろうか?という疑問だ、世界が違うという事は言葉も違うかもしれない、自分達の暮らしていた世界でさえ、たくさんの言葉、言語があり理解するには大変な努力が必要となる。そこで、リグリットは男の顔をジッと見ると、豪華な鎧を着た男は驚きの表情でぽかんと口を開けたまま首を縦に振る。

…どうやら通じたようだ。言葉が通じなかった時はフーリに丸投げしようと思っていたリグリットは男の反応に満足し頷く。


丁度、その時上空を飛んでいた飛竜が1体、仲間の無念を晴らす為か、それとも混乱しての行動か、リグリット目掛けて急降下してきた。


豪華な鎧の男はその飛竜が目に入り、リグリットへ注意を促そうとした瞬間に、また信じられないモノを見ることになった。


リグリットは急降下してきた飛竜を一瞥すると、まるで重量を感じさせない軽やかな身のこなしでその場から飛び上がると、美しく装飾された銀の大盾を飛竜に振り被った。


そして…。『ドゴンッ!!』という音と一緒に急降下してきた飛竜はリグリットの大盾に殴られ、地面に叩き付けられたのだった。


「ふん、軽いな」


リグリットは飛竜が自分の知る、ゲーム内での飛竜と重量が違うことに大盾で殴った瞬間気が付き呟く。

小さな呟きだが、その場にいた兵士達の耳にはしっかりと届き、呟きが聞こえた兵士は皆思った。


『(何が!?)』


彼らにとって、飛竜はとても危険な魔物であり、その巨体は人間の身体と比べても巨大だ。もちろん重量も軽く1トンは超えている。

そんな飛竜を自身の身長と変わらない大盾を持ち、さらにはジャンプをして飛竜を殴り飛ばしたのだ。

兵士達は自分の目を疑い、そしてリグリットの呟きに真意を見つける事が出来ずに今の反応になる。


丁度その時、地面に大きな影が出来る。上を見上げた先には黒く巨大なドラゴンが羽ばたき、ゆっくりと降りて来る所だった。

周囲の空を見れば、飛竜は残っておらず視線を地面に移すと複数体の飛竜が打ち捨てられたいた。


地上でリグリットを見ていた者たちは気がつかなったが、残った2体の飛竜を1体はコイルの弓に射られ、もう1体はクロの爪に引き裂かれてたのだった。

まさに瞬殺。一瞬のうちに強大な力を持った飛竜を7体を葬ったフーリ達にその場にいた兵士は顔を青くしていた。中には地面にへたりこむ者までいる。

無理もない、彼らにとって強敵の飛竜が退かれたといっても、次に登場したのは黒い巨大なドラゴン。

ドラゴンを倒すには周辺国から兵と冒険者を集めて、多大な被害を出してやっと討伐出来るか出来ないかなのだから。

誰がかは知れないが、喉を鳴らす音が嫌に耳に着く、そんな静寂が一団を包み込んでいた。





そんな一団に近付く人間がいた。

その男は全身を黄緑色の動き易い服を身に着け、肩口は無くそこから伸びる腕は細くもなく太くもない。しかししっかりと筋肉はついており筋張った腕の先、手には武骨な鉄色の手甲が嵌めてある。

男の顔はその見た目とは違い普通で、髪も目もこの世界では珍しくない黒色。

ゆっくりと近づいてきた黄緑色の男は、銀の鎧を纏った赤髪の女に声を掛けた。


「まぁこんなもんだろ。リグリットもご苦労さん」


「ああ、フーリもな。

 しかし、ここの飛竜は軽いな」


「デカさが違うからな、そりゃ仕方ない。それにあれで"むこう"より強かったら逆に驚くぜ」


「そうだな」


軽い挨拶をして親しそうに話す男と女。周囲の人間は誰も声を掛ける事が出来ないでいた。


「そんで?どいつが親玉なんだ?」


「多分だが、あの1人豪華な鎧を着た男じゃないか。

 それと言葉もそのまま通じるようだぞ」


そう言ってリグレットは最初に話しかけた豪華な鎧の男を指さす、その指の先にいる男へ黄緑色の男、フーリは目を向ける。


「あぁ…。確かにあれっぽいな。

 言葉に関してはありがたいな。今さら新しい言語を覚えろとか、どんな拷問だよ」


言葉が通じなかった時はフーリに丸投げする気満々だったリグリットは神妙に頷く。

フーリが丁度納得したとき、上空から降りてきたクロが地面を揺らし着地する。クロの背中に跨っていたコイルがひらりと飛び降りると周囲が一瞬騒がしくなる。

その反応を不思議に思ったフーリとリグリットが一団の兵士を見ると一様に驚いた表情をしてざわめいていた。フーリはその騒ぎの原因であるコイルへ視線をやると、コイル自身も何故こんな反応が返ってくるのか理解できず、さらに兵士達の視線に晒されていることに顔を引き攣らせ、足早にフーリとリグリットも元にやってきた。


「…何だい?これ…。

 何でみんな僕の事を見てるんだい?」


「知らん。何か向こうの驚く事があったんだろ、害は無いから放っておけ」


「…僕には害があると思うんだけど」


フーリの冷たい反応に苦笑しながら鼻の頭を掻いたコイルは視線が気にはなるが今は無理矢理放っておくことにした。


「…はぁ、とりあえずコイルの事はいいだろ。

 俺があの派手な鎧を着たおっさんに話して来る」


そう言うが早く、フーリは2人に背中を向けると集団の中心、豪華な鎧を着た男に近づいていく。

フーリがこちらに近づいていることが分かると、兵士の中から出てきた男の傍には、これまた豪華なローブを着た茶髪の女も一緒だった。

2人の男と女はどちらも表情には緊張の色が見て取る事が出来るが、その目はフーリ達を値踏みする色を感じ取ったフーリは少し面倒な気分になりながらも、そんなそぶりは顔に出さず近づく。

3人の距離が十分近づいた所で、フーリが先に足を停めた。

距離にして3メートル程で話をするには少し遠く感じるが、フーリにとっては警戒している相手を刺激しないようにする為の行動だった。

その意図に気が付いたのは鎧の男で、彼はフーリの行動に少し安心したようだが、緊張は解かずに足を停めると声を掛けてきた。


「御助勢感謝する、貴殿らのお陰でこちらも最小限の被害で済んだ。

 改めて、心から感謝する」


見た目の厳つさからは想像できない物腰の柔らかい鎧の男は右手で拳を作ると胸に持ってきて、頭を下げた。それに倣うかのように男の左に右に立つローブの女も同じように礼をする。


「いや、こっちも偶然遭遇しただけだからな。

 もう少し早く来ることが出来たら被害はもっと少なく出来ただろう…すまん」


フーリはそう言うと目を瞑り軽く頭を下げてから頭を上げると、そこには驚いた顔をした男と女がいた。

そんな2人の反応に首を傾げたフーリに男が驚きを引っ込めると「いや…」


「こちらこそ申し訳ない、ただそう言って貰えるとは思わなかったのでね。

 旅をしていれば魔物に襲われることもある、それは覚悟の上だ。

 貴殿が気に病む必要はない」


そう言った男は若干フーリ達に向ける目の色を弱めると苦笑しながら応えた。

一方でフーリは、


「(マズッたか?警戒されないように言ったことだが、こっちの世界では魔物に襲われることが当り前で、その辺はドライなのかもな)」


そんな事を考えながらも笑顔を顔に張り付ける。

フーリの笑顔の真意に気付かない男はそのまま話を続ける。


「私はフォーゲンハイツ王国、王国騎士団近衛隊副長を勤めているバルバロイ=オーディスと申す者だ。

 貴殿の名前を窺ってもよろしいか?」


「フーリだ、ただのフーリ」


「?家名はお持ちでは無いのか?…いや、失礼した。

 フーリ殿達はドラゴンを従えておられるようなので、さぞ高名な家の出だと思ったのでな」


「ああ…、まぁ従えてると言えば、従えているな」


フーリはそう言って自分の後ろを少し身体を動かすことで見る。そこには大人しく待機しているクロがおり、確かにあれだけ見れば自分達がドラゴンを従えていると取られるだろう。実際にはクロの主人はまだここに到着していないありすだとしても、彼らにはそんな事を知る術はない。

そして、名乗りの事でフーリは驚いていた。金持ち、または貴族か何かの集団だとは思っていたが、まさかの騎士団、しかも近衛隊副長と名乗ったのだ。


「(こりゃあ、当たりを引いたかもしれんな)」


正面を向いたフーリは今後の事を考えてこの集団と繋ぎを作ることに決めた。

そして、疑問に思ったこともある。この連中が自分達をどう思っているかは後ろに控える兵士達の表情からある程度予想が付く、畏怖や好奇といった感情だ。警戒しこちらのやり取りを見ている、一部の比較的キレイな鎧を着た連中が1つの馬車を集中していることから、その馬車には近衛が守る存在が乗っているということ。そんな連中の親玉が助けたとは言え素姓の知れないフーリに自身の素性を明かした。何か問題、もしくは目的があってのことなのではないか?この場合にはその両方だろうが…。


「それで、そっちはこれからどうするんだ?」


ここは相手に水を向けてやることにしたフーリは、そう質問した。


「…我々はこれから王都に戻ることになる。

 今回助勢してもらったことへの報酬をお渡ししたいが、今は手持ちがなく直ぐにお渡し出来ない。

 よろしければ王都まで御一緒して貰えないだろうか?王都に着き次第相応の報酬をお渡しする事を約束しよう」


豪華な鎧の男、バルバロイは少し考えてからフーリにそう提案してきた。

色々と事情があるのだろうが、今ここで報酬を理由に引き留めようとしている事は理解出来る、そして自分達の力を戦力として必要としていることも理解出来た。


「まぁ…報酬に関しては貰えるモンは貰っとく。

 それで、理由はあの馬車に乗ってる奴が関係してんのか?」


そう言ってフーリは顎でキレイな鎧を纏った兵士達が守る馬車を指した。

その瞬間、バルバロイと女の表情が険しい物に変化する。


「ああ、勘違いすんなよ?

 別にあんたらをどうこうするつもりはこっちにはねぇよ。

 それに助けた相手をわざわざ襲うなんて可笑しいだろ?

 ただ、あんたらがどうしたいのか…俺らをどうしたいのかハッキリとさせたいんだよ」


「…フーリ殿、貴殿達の目的はなんですか?」


「敢えて言うなら、恩を売りたいかな?」


「…それだけですか?」


「恩を売る相手は選ぶ方だな俺は、それにあんたも自分の身分を明かしたんだ。

 そこから想像することは簡単だろ?」


フーリの返事に頷くと「少しお時間を頂きたい」と言ってバルバロイは踵を返した。付添いの女は一度フーリを見た後にその後を追っていった。


「(まぁ、俺に腹芸とか期待されてないし、もし何か問題があればクロとシロで逃げればいいだろ)」


そんな事を思ったフーリは仲間の元へと歩いていく。





そこでふと思い出す。


「そういえば、ありす達が後で来るんだよな…」


なんとなく嫌な予感がしたフーリだった。


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