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ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
22/30

22 知らない一面

千紘はデリカの資材上げをしている。

要はトレーを作業場の上の棚に上げる作業だ。

デリカでは毎日段ボールに沢山トレーが入ってくるので、段ボールを開けて新しいトレーを取り出し、空けた段ボールはテープをはがして平らにして、段ボールの回収置き場まで運ぶ。


「佐倉君そのままで届くんだね」


洗い物をしている姫様が振り返り、千紘に声をかける。

背が高い千紘は手を添えるだけで高い棚に届くのだ。


「いいなー。背が高くて、何センチあるの?」


「百八十四」


いいなー。

俺ももう少し生きていたらそれくらいになったんじゃ。

あと二十年くらい。


「昨日佐倉君お休みだったから私資材上げるの、そこの脚立使ったんだよ」


見てました。

見てることしかできませんでした。

カスハラじじいが来ないか心配だったけどそっちの方は問題なかった。


「佐倉君は小っちゃい頃から背高かった?」


「小五くらいから急に伸びた」


「そっか」


「多分遺伝だと思う。両親ともデカいから」


「そうなんだ」


「うん。母親百七十あるし」


「いいなー。背高い女の人かっこいいよね。百六十センチ欲しいよ。贅沢言えば百六十五」


「今何センチ?」


「百五十五」


ぎゃー、俺と変わんない。

あ、でも俺は浮けるから自由自在だから。

千紘よりおっきくなれるし。


「まだ伸びるから大丈夫だと思う」


「佐倉君のお父さん佐倉君より大きい?」


「さあ、わかんない。三歳の時離婚してそれから会ってないから。母親は百八十七って言ってたけど」


「あ、そうなんだ」


「うん。あ、別に気にしてくれなくていいから」


「え、あ、うん。あ、でもそれならやっぱり私が背高くなるのは難しいかな。うちねお父さんもお母さんも小っちゃいんだよねー」


「そうなんだ」


「うん。あ、あのね、緑君ね、身長百六十五センチなのね、でも百二十センチの声出すし、百九十五センチの声も出すんだよ。凄くない?」


「凄いな」


あ、千紘笑った。

マスクしてるから姫様わかんなかったかもしれないけど、千紘は間違いなく笑った。

すぐ燃え尽きて消えてしまいそうな流れ星みたいなんじゃなくて、もっとしっかりしたもの。

優しくて、ふんわりしてて、背景に小さな花が飛んでそうな、ちゃんとした形になるもの。


「テトラ終わったから次何見たらいい?」


「あ、見てくれたんだね。嬉しい」


「面白かった。中尉死んだのはびっくりしたけど」


「最初から死亡フラグ立ってたから、寧ろ私は長生きしたなって思ってた。あそこまで掘り下げてもらえるキャラになるとは思ってなかったよ」


「そうなんだ。あんな死に方させなくても、報われなくて可哀想だと思った。何も悪いことしてないのに」


「あれだけ丁寧に最後を描いてもらえたんだから十分だと思うよ。私は大満足。最後のかすれた声が最高だった。もう、緑君天才。去年とか毎日寝る前にあの最後のシーン見てた」


「眠れなくならないか?」


「なんない。ああー、いいこえー、しみるーって感じで寝れる」


「そっか」


「佐倉君が見てくれるなんて嬉しいな。アニメの話できる人家族以外いなくて」


「いつも一緒にいる涌井は?」


「理華ちゃんはアニメ見ないから」


「そうなのか」


「うん。全然。全く趣味が違うんだよね。漫画も読まないんだよ理華ちゃん」


「何で仲良くなったんだ?」


「えっとね、私中学からこっちに引っ越してきたのね。だから中学入った時誰も知り合いいなくて、入学式の後、教室でね、前と後ろの席で、その時話しかけてくれたの。で、部活も一緒に入って、中学三年間同じクラスで、全然好きなもの一致しないのに一緒にいると楽しいんだよね。ずっと喋っていられるし、無言になっても平気」


「ホントに仲いいんだな」


「うん」


千紘、お前いい仕事しすぎでしょ。

どうしちゃったのお前。

他人にちゃんと質問するなんて、そんな千紘俺知らないよ。

どんどん知らない一面出てくるな、お前。

嫌、元々持ってたのかも。

誰も引っ張り出せなかっただけで。

一面ていうか、これが千紘なのかも。

姫様みたいに千紘に興味ないとこう、千紘は普通でいられるのかなって。

嫌、普通より愛想いいんじゃ。

だって自分から、次何見たらいいって聞いたよね。

え、あ、あれか、アニメに目覚めたんか。

俺だって教えてあげられるのにー。

姫様より詳しいよ。

だって俺の方がこの世にいて長いもん。

ファーストガンダムリアルタイムで見てた世代なのよ、バサラさんは。


「あ、じゃあ次はね、ブラックオーバー見て欲しい。これもロボットものだけど人は死なないよ。ダルそうな緑君が楽しめます。おすすめ」


「わかった」


「アニメ声優で追っかけて行くと楽しいよ。つまんない話でも声聞いてるだけで満足できるし」


「そうか」


「うん。佐倉君はいいなーって思った声優さんいた?」


「嫌、あんまりわかんない。仲野緑はかっこいい声だと思ったけど」


「でしょー?あ、女の子の声優さんは?」


「わかんない。声がちょっと高すぎて、もうちょっと低くていい」


「そっかー。ストーリーはどんなのが好き?」


「あんまり可哀想な目にあわない、もの?」


「あ、ごめん。最初からエライの勧めちゃったね。テトラ最後は思い切りハッピーエンドだったけど、結構鬱展開だったよね。最後の方結構キャラ退場するし」


「あー、確かに」


「でも最後の告白のシーンとか凄く良くなかった?」


「良かった。よく言えたなって思った。何にも言えないまま終わると思った」


「ねー」


千紘は今日も姫様に手を振ってもらいローソンに寄りスィーツを二つ買って家に帰った。

バサラさん特製豚丼を食って風呂から上がると、姫様に勧められたアニメを見て、野球の結果だけ確認して寝た。










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