表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ星を見ていた  作者: 青木りよこ
20/30

20 輝きが増す

翌日バド部は練習が休みだったため姫様と会うことはなかったが、俺は心の余裕が違った。

だって夕方には姫様に会える。

何このアドバンテージ、いきなりシード権獲得。

夏休み万歳。

もう一生夏休みでいいぞ、人類最年長が許可を出す。

まさか俺より年上いねぇよなー?

いねぇよ、いてたまるか。


お昼は野菜たっぷりの炒飯を千紘に山盛りにして食べさせ、二人で水ようかんを食い、夕方のバイトに備えた。

バイトは夕方五時から夜八時十分までの三時間十分労働。

四時四十五分に千紘が従業員用駐輪場に着くと姫様が自転車を停めているところに遭遇できた。

よっしゃー。

姫様、私服、至福、我幸福。

姫様の黒Tシャツ姿。

眩しいです。


「おはよう、佐倉君。今日からよろしくね」


「おはよう」


「ごめん。おはようって時間じゃないよね」


「うん。でも今日初めて会ったからおはようでいいと思う」


「お昼でもおはようございますって言っちゃうよね?」


「うん」


「今日も暑いね」


「うん」


「ちゃんとできるかなぁ。昨日一回見ただけじゃ不安だよね?」


「うん。でも何とかなると思う」


「そうだね。わからなかったら佐倉君に聞いちゃうと思うけどいい?」


「うん。俺も柳に聞くと思う。でもまあ誰かいるだろうから大丈夫だと思う」


凄い。

千紘、ちゃんと姫様と喋ってる。

つーか、二人とも黒いTシャツ着てるから、何か双子みたいで可愛いな。

こんな男女ユニットのキャラクターグッズあったら俺箱買いしちゃうよ。

あー、姫様可愛い、可愛すぎる。

今日はポニテだ。

ポニ姫様。

体育と部活の時はポニテなんだよね。

いつもはおろしてる。

可愛いなぁ。

こんなに近くで拝めるなんて最高。

肌白いなぁ。

顔小さいなぁ。

千紘、ありがとう。

今日はカレー三日目だけど、明日はちゃんと作るからな。

栄養があって美味しいもの食べような。

しかし、千紘。

お前は顔のいい男だと思っていたけど、隣に姫様がいると輝きが増すな。

しかし、姫様可愛すぎる。

俺は四百年以上前から知っていますけどね。

昨日今日の推しじゃないのよ。


石田さんに言われデリカの制服に着替え、直属の上司となるデリカの主任を待つ。

二人とも白い白衣と黒いエプロンに髪の毛が全部隠れる様に黒い帽子を被り、白い固そうなデリカシューズを履き、白いマスクをしている。

ちょっとー、何してくれてんの。

世界一お可愛らしい姫様の顔ほとんど隠れちゃってるじゃん。

目しか見えないよー。

まあ瞳はキラキラ輝いてお星さまが宿ってるけどー。

あーん、こんなのってないよー。

顔、顔が見たいですー。

俺の楽しみ奪わないで―。

こんな幽霊の生きがいをー。

う、う。

今日まで真面目に生きて来たのに、あんまりだ。


「お待たせしましたー。主任の磯村ですー。じゃあ佐倉君、柳さん、下降りましょう」


デリカの主任という男は恐らく若いと思われる。

身長は千紘より低いが、百七十は普通にあるだろう、瘦せ型。

見た目にこれといった特徴はない。

だってマスクで顔ほとんど見えないから。

考えたらこの格好、目以外全部覆われてるじゃん。

あ、でも前向きに考えるんだ。

姫様の可愛さがばれなくて済むと。

スーパーで働く可愛い娘に懸想するド変態がいないとも限らないからな。

何て図々しい。

八つ裂きにしてやりたい。

この主任が姫様にセクハラしたら油の中つっこんでやろ。

油地獄じゃ。


デリカの作業場に入り手を洗い、アルコール消毒すると山田さんというパート女性を紹介された。


「今日は山田さんの閉店作業を見ていてもらいます。明日からは二人でやってね。わからなかったら、デリカ清掃作業マニュアル、これファイリングしてあるからこれ見て。山田さん何でも知ってるからわからなかったら何でも聞いて。山田さん三十年この店いるから、俺今年二十七なんだけど俺が生まれる前から山田さん働いているんだよ。大ベテランだから何でも知ってるから大丈夫だからね、安心して」


別に知りたくない個人情報どうも。


「一応二人とも連絡先聞いといていい?俺も教えとくから、具合悪くなったり用事できたら連絡して」


何と、流れで姫様のラインげっど。

しゅにんー。

いいやつじゃーん。

嫌、俺はしないけど、知ってるってだけで嬉しいよ。

何ていい日だ。

昨日から色々起こり過ぎでしょ。

どうしてこう俺を喜ばせることばかりするの?

神様がいるの?

もう、ずっと続いて、地球。


「じゃあ俺帰るからあとは山田さんよろしくね。明日は山田さんいないけど、何か困ったことあったら次長か店長がいるから言って、これ、内線の番号一覧ね。これにかけたら出てくれるから、大丈夫だからね」


千紘と姫様は「はい」と返事する。

声が揃っていて大変宜しい。

高い音と低い音のハーモニーも素晴らしい。

もっと長文で聴きたい。

二人で合唱のソロパートやってくれ。


「何か今聞いておきたい事ある?」


千紘がないですと言うと姫様も言ったので、主任はお疲れさまでしたと言い、帰っていった。

山田さんは昨日動画で見た清掃マニュアルを黙々とこなしていった。

千紘と姫様は真剣な目で見ていたので、俺も黙ってド真剣に見た。

値下げ機の使い方、値下げシールの貼り方と残った商品の廃棄のかけ方を習い、今日は退勤時間となった。


千紘が着替え終わると姫様も女子ロッカーから出てきて、二人で社員証をスキャンして事務所から出て階段を降りて行く。

昨日とまるで同じ流れだ。

これが夏休み中続くのか。

幸せすぎる。

これ夢?

じゃあもう絶対覚めるな。

起きないからな、俺。


「外暑いんだろうね?」


「ああ」


「スーパーって涼しいね。寒いくらい」


「うん」


もっと喋ろ、千紘。

二文字で返すな。

あー、俺だったらもっと喋るのに。

姫様、家の千紘がすみませんね。

でも凄くいい子なんです。

優しい子です。

お菓子二種類あったら必ず先に選ばせてくれるんです。


「じゃあ、また明日ね。お疲れ様」


「お疲れ様」


千紘は又姫様の後ろから自転車を漕いでついて行った。

信号の所で姫様が止まり、千紘はその隣に並ぶ。


「ローソン行くから」


「あ、うん」


「あ、後ろからついて行ったら気味悪い?」


「え、ううん。何にも思ってないよ」


「家の近くセブンイレブンとファミマしかなくて」


これ本当です、姫様。


「あ、そうなんだ。佐倉君ローソン好きなの?」


「デカ盛りとかあるから」


「あ、そうだよね。おっきい方がいいよね」


「うん」


「佐倉君甘いの好きなの?」


「うん」


「そっか。あ、信号青」


千紘はローソンで自転車を停めた。


「じゃあ、佐倉君、お疲れ様。明日またよろしくね」


「ああ。柳、気を付けて帰って」


「うん。ありがとう」


姫様が千紘に手を振った。

千紘が振り返した。

こんな風に千紘が女の子に手を振ったことがあっただろうか。

もしかしたらあるかもしれないが俺の記憶にはない。

俺は昨日同様姫様について行き、姫様がお家に入るのを見届けてローソンに戻った。

これから夏休み中これが俺達のルーティーンになるんだな。

何て素敵なルーティーン。

一生したいよ。


千紘は今日もデザート売り場に佇んでいる。

一本の美しい木みたいに。

この顔隠しといたほうがいいな。

うん。


「どれがいい?」


「満たされすぎているので俺はいいよ。お前二つ食べな」


千紘はロールケーキとレアチーズケーキをレジへ持っていった。

家に帰りカレーと出かける前に作っておいた春雨のサラダを食べた。


「どっちがいい?」


「レアチーズ」


クリームたっぷりのロールケーキを食べてゆっくりお休み、千紘。

明日も姫様に会えるんだ。

早く明日になりますように。














評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ