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二刀流への応援歌  作者: 沢村俊介
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足首の関節治療に新しい方法が

 9月に入ってのことだった。僕は、河野敦文選手を連れ、タクシーで病院に向かっていた。

 河野選手は二軍の選手なのだが、その走力、守備力、確実性のある打撃力で、近く一軍昇格もあると、二軍の打撃コーチから聞いたことがある。今日、彼は二軍のイースタン・リーグの試合で、ショートへの内野ゴロを打ち、一塁ベースに駆け込んで行く。しかし、相手の遊撃手の送球が逸れ、一塁手がファールグランドの方へ身を乗り出してボールを捕ろうとした。河野選手は、咄嗟に一塁手との衝突を避けようとして、右側に倒れ込んでしまう。その際、右足に不測の力が加わったのか、右足首の内側の踝あたりの骨を痛めたようなのだ。

 河野選手を車いすに乗せ、車いす搭載可能なタクシーで、都内の病院に向かったのだ。

 診て下さったのは、澤村選手の右足首捻挫、左足太腿裏肉離れの診察をしてもらったことのある、重正先生だった。

 河野選手の踝損傷については、幸いにも、骨のひび割れということで、手術の必要はなく、左右からの固定で、運動を止めて安静にしていれば、約2週間程度で、骨のひび割れは修復していくとの診断を得た。

 診察が終わり、僕は重正先生に呼び止められた。それから河野選手にも声を掛けられた。

「河野さん、すみませんが、トレーナーの吉原さんと少しお話しがありますから、出たところの長椅子でしばらくお待ちください」

 僕は、二人だけで、重正先生と向き合った。

「実は、他でもない、澤村選手のことです」

 僕は緊張した。やはりどこか悪いのでは、という心配が先に立つ。

「私は、6月の16日でしたかね、定期検査が終わったとき、澤村選手に言ったのです。『もし、左太腿裏の筋肉とか、右足首の関節に何か違和感があったら、すぐに私に連絡をしてください』と。それで、澤村選手には、わたしのパソコンのメールアドレスをメモして渡しました」

「そうでしたか」

 僕は、重正先生の配慮に感謝した。

「それで、このあいだ、8月31日に、澤村選手からメールをもらいました」

「えっ、あの時ですか」

「そうです。ドームの公式戦で、投手として先発した時ですね。実は私も、スポーツナビでその試合をパソコン画面で見ていたのです。4回のマウンドまで行ったものの、スリーランを打たれ、結局のところ4点を失ってマウンドを降りざるを得なかった試合があった日です。その試合のあとに、メールがありました」

「・・・」

「違和感があったようです。右足首の関節に。澤村さんは、右投げで、ボールを投げる時は、右足が軸足になりますよね。その軸足をしっかり蹴ることで、時速160キロを超えるストレートを投げることができます。その試合でも、160キロの球を何球か、投げていましたよね。でも、澤村さんは、何度か投げたあと、足首に痛みを感じたようです」

「そうでしたか。やはり、あそこは完治していなかったのですね」

「あの6月16日の定期検査の時、太腿の筋肉だけでなく、底屈・背屈と右足首を上下に、そして左右にも動かして、右足首関節の具合も調べたのですが。関節の骨と骨の間には関節軟骨というクッションがあります。さらに、関節液という潤滑油もあって、クッションに湿り気を与えています。でも足首を酷使すると、潤滑油が不足し、クッション性が弱まります。すると骨と骨が直接ぶつかることもあり、骨に亀裂や棘が生じることもあります。さらに、この骨の棘が剥がれ落ちて、骨と骨の間に挟まることもあって。こうなると、この骨片が遊離体となって、関節周りを浮遊し、足首の足甲・足先の方、脇の方、踵の方と、色々な箇所に移動し、その滞った箇所で痛みや炎症を生じさせるという、やっかいなことになります。とすれば、ここは外科手術で除去した方がいい」

「そうですか。でも重正先生、以前に、手術をしても、また足首への過度の負担から、骨に亀裂が走ったり、棘が生れたりすると伺ったことがありますが……」

「そうだったですね、そういうこともあります。でも、右足首に、腫れ・炎症・痛みが生じたら、投げるものも投げられなくなります。ここは、手術して取り除くのがいいのかな、と考えています」

「そうですか。今は、まだシーズン中ですが」

「むろん、手術を勧めたいといっても、それはシーズン後になると思います。球団側のご事情もあるでしょうし。ともかく、手術を勧める気持ちになったのは、海外で、骨のひび割れを修復していく、いわゆるセメダインのような接着剤や、クッションである関節軟骨を修復していく薬、また、このクッションに湿り気を与える関節液を補充する薬などが開発されましてね。これらは今、臨床例で、いい結果を生んでいるのです」

 僕は、重正先生の顔を見ていた。確信に満ちていた。それで先生に質問をする。

「水分のある体内でも、骨が接着剤をもって、接着できるのですか?」

「そうです。海の生物が、海中で貝殻の破片を自らが吐き出す粘着性の液体でくっつけて、自分の棲み処を作る、というのがヒントになったようです」

「先生、今後は、関節軟膏を補修したり、関節液を増やしたりも、していけるということでしょうか?」

「そうです」

 先生は、微笑まれていた。

 僕は、重正先生の話を聞きながら、足首の骨にひびが入らないよう、足首の関節のところに、気功で気を入れたり、酸素を注入したりする治療を超える治療法があるということに、内心喜びを感じていた。

 今後は、足首を守るため、関節軟骨の保護剤や関節液の補充剤を投与していけばいいのだ、と思った。

「そういうことなので、もし、澤村さんからあなたの方に相談があれば、このシーズン・オフにも、手術で骨片を除去する方法も一つの選択肢として、あなたからも勧めてみてください」

「はい、わかりました。先生、本当にありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします」

 僕は、うれしい気持ちが沸き上がっていると同時に、澤村選手に成り代わるような気持ちにもなっていて、重正先生に深く頭を下げた。(完)


(注)普通紙のスポーツ記事、スポーツ新聞のプロ野球記事を参考にさせていただきました。

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