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二刀流への応援歌  作者: 沢村俊介
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澤村選手の晴れやかな顔を見たいのに

 6月12日現在のことなのだが、わがチームは58試合を終わったところで、24勝34敗と、借金は10であった。しかも、首位のチームとの差は15ゲームと広がっている。

 澤村選手とトレーナーの僕は、練習グラウンドの外野を黙々と走っていた。

 澤村選手はまだランニング・シューズだった。早くスパイク・シューズを履いて、ダッシュなどをしたいだろうなと僕は推測する。

 気功師の沖田さんの話では、右足首の三角骨の骨棘の具合は良好ということだったのだが。澤村選手本人がスパイクを履き、ダッシュを試みようとしない限り、やはりまだ、本人の心の中には、右足首の状態に懸念があるのかもしれない。

 僕は走りながら、都内の病院の、整形外科医の重正先生の言葉を思い出している。

『トゲだって、その先端部が丸くなることだってあるんですよ。例えば、骨と骨の間には関節液というのがありましてね、それが関節軟骨の細胞から出た老廃物を運び出し、一方でその細胞に水分や栄養分を運び入れているんですが。トゲの先端部が関節液によって少しずつ少しずつ削られていく。削られた結果、カスが出ても、そのカスを関節液が外へ運び出してくれることも期待できる。関節液がきちんと働いていれば、関節軟骨が痛んだり、大本おおもとの骨から剥がれたりすることもないし。でも、関節液が働かないと、剥がれた軟骨の小片が、関節液内を浮遊して、時々は神経を刺激することもあるのです』

 

 完全に右足首の痛みを取るには、こうした骨と骨の間にできたトゲや関節軟骨の遊離体を外科的手術で除去する以外にはないのだろうかと僕は不安になる。

 でも僕は単なるトレーナーであり、整形外科医ではない。簡単に手術をした方がいいなんて、とても言えない。それに、手術をした結果、トゲや軟骨遊離体が取り除かれれば、足首の痛みから完全に解放されるのだろうか、しろうとの僕にはわからないことも多い。

 三角骨のトゲはもう再び現れることはないのか、又、剥がれた箇所の関節軟骨は完全に修復されるのか、疑問点が僕にはあるからだった。

 僕は大学の教育学部体育学科のあたりで、アスリートの科学的トレーニングの方法を専門的に学んだ者ではない。僕が勝手に澤村選手にスパイクを履くことを勧め、ランニングやダッシュを推奨するわけにもいかない。トレーニングにも段階的に強度を上げていくという基本理念はあるにちがいない。やはり、澤村選手のトレーニングのメニユーを最終的に決めるのは、トレーニング・マネージャーであるの室崎さんだった。

 澤村選手の打撃練習は好調だった。6月96日のフリーバッティングでは、37本打って、12本が柵越えのホームランであったし、6月11日のフリー打撃でも、46回打って、そのうち16本が柵越えで、バッティングの調子はとても良かった。そして、6月13日にはブルペン捕手を相手に、投球練習を開始したのだが、横から見ていた僕には、スピンも効いていて、ごく普通の投手が投げる球よりは球速があったように見えた。スピードガンで測ったわけではないが、時速150キロは出ていただろう。

 残念ながら、今はスパイクではなく、シューズを履いての投球練習であって、球を投げる瞬間時の、軸足である右足での蹴りは以前よりは強くなく、また、球を投げた後、踏み出した左足へ体重を十分乗せている、という感じを以前ほどは、僕自身は持てなかった。やはり、捻挫した右足首をかばったり、左太もも裏の大腿二頭筋を切った左足を庇っているように僕には見えた。

 マッサージ師等養成の専門学校の授業を僕は思い出す。

『心と体は密接な関係がある。トレーナーは単なる技巧・技術者であってはならない。アスリートの心にも寄り添い、精神のリラックスが筋肉の良好な働きをもたらす、ということを忘れてはならない』

 澤村選手は、たぶん痛めた肉体が回復しないことに悩んでいるのだろう。そして、成績不振が続くチームの状態についても思い悩んでいるのだろう。心の悩みが肉体の回復を阻んでいるのかもしれない。

 打者と投手の二刀流をめざす澤村選手は、今、フリーの打撃練習をはじめられた。そして、ブルペンで捕手を座らせての投球練習も始めることができた。一歩一歩進んでいるように思える。でも、澤村選手の顔は決して晴れやかではないように僕には見える。トレーナーとしての自分にできることはないのか、僕は依然として深い悩みの中にいた。(つづく)


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