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「悪かったな、どうも伝達が上手くいってなかったみたいだ。その、なんだ。いや、後でいいか。とにかく入ってくれ。」
「は、はぁ…。」
眉根を寄せて、いぶかしげな顔つきをしていたが、部屋に入るとその表情は一変した。
「これは…。」
呟いて息を飲む。
部屋の中は広く、床は毛足の長い絨毯に覆われ、壁は白を基調とした大理石、天井は大きく弧を描いていて、きれいに配置された採光用の天窓から光の筋がいく筋も下りてきていた。大きく取られたバルコニーに続くもう一方の扉からも穏やかな日差しが差し込んでおり、部屋の中はとても明るかった。しかし、調度品は驚くほど少なく、大きな執務用と思しき机が一つと、壁に飾るように配置された甲冑や武具だけだった。
「あ、あの…。さっきから思っていたんですが、あなたは何者です?ただの遊撃長、という訳ではなさそうですが…?」
驚愕から、再び眉根を寄せた表情に戻ったアリアは困惑気味に尋ねた。
「俺か?…気になるか?」
アリアをさっさと追い越して部屋に入っていったシグルーンはどことなく愉快そうだった。
「それは…当然でしょう。実はかなりの位なのでは?」
入口から動けずにいるアリアを横目で見ながらシグルーンはその一つしかない執務机に座ると、引き出しから紙を取り出した。
「偉いのは俺ではないな。正確には、俺の父親だ。」
次は羽ペンを取り出した。
「父上は何をなさっていらっしゃる?」
シグルーンはようやく作業の手を止めて、アリアの方に向き直った。
「この国の王をなさっていらっしゃるよ。」