2-1
凍りついた牢を後にして、彼等は長い螺旋階段を上っていた。牢番が落としていった灯りは、牢番が腰を抜かした時に倒れてしまったらしくすっかり油がこぼれて使い物にならなくなっていた。しかし当の2人はというと、灯りが消えて闇に沈んだ無人の牢獄を昼間の街道を歩く様にすいすい歩いていた。
どれくらいそうして無言で階段を上がっただろうか。やがて唐突に階段は終わり、代わりに巨大な鋼鉄の門扉が姿を表した。今はその門扉は少し開いていて、一条の光が漏れていた。
「あいつ…。慌て過ぎだ。最後まで閉めていけ…。」
そう呟くと、シグル-ンは一気にその門扉を開け放った。さながら、光の洪水だった。
「さあ、」
光の中の男がアリアを呼んだ。
まぶしさに目を細めながら一歩踏み出すと、そこはすでに王宮の中だった。
今まで暗がりに沈んでよく見えなかったが、シグルーンの髪は漆黒で、瞳は薄い青。透明な空の色だった。背はアリアよりは高かったが、さほど大柄という訳ではなかった。年のころは17,8位だろうか。アリアとそう違わないように見えた。
「どうした?」
ぼんやりと彼を見つめていたアリアに彼が再び声をかけた。
「あ、いえ。なんでもありません。」
さっと首を振って、シグルーンに続く。ふわりと広がった長い銀髪が光に反射して輝いた。ふと、シグルーンがその輝きを目で追った。だが、すぐに踵を返し、門扉から手を放した。
歩き出した彼女の後ろで重たい音を立てて牢獄に続く鋼鉄の門が閉じた。今度こそ、最後まで。