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凍てつく王国  作者: 玖波 悠莉
後編
68/86

11-4 詠唱

アリアを中心に夜の行軍は城へと進む。

頭から水をかぶったアリアの髪は少しずつ凍りつき、それを男たちが気味悪そうに見た。

やがて城の正門にたどり着き、彼等はアリアを城の兵へと預けると、明らかにほっとした顔で城下の街へと帰っていった。

驚いて右往左往する兵たちをよそにアリアはそこから逃げ出すでもなく、深い溜息をついた。もはや町の人間たちの手を離れたのだから、マリアと、その家族に気兼ねする必要はどこにもなかったというのに。ようやく集まってきた兵たちは、アリアのまるで抵抗する様子のない姿を見て、次いでその白い肌と黒とも銀ともつかない髪を、凍りついた水滴を見て一瞬気圧されたようだったが、やがて粛々と業務を遂行し始めた。

罪人として入るには立派過ぎる城門に一瞥もくれることなく、うなだれたままアリアは城内へと入る。兵に促されるままに城の内部へと足を進め、地下牢へと続く、アリアにとって見覚えのある鉄扉の前で足を止めた。

「ひとつ聞きたいんだけど。」

冷気をはらんだ声音が鉄扉の前で兵の足をも止めた。

「な…。」

銀とも黒ともつかない色に染まった長い髪をかきあげるように振って、水を払う。その水滴のうち、幾つかは氷と化していた。

慌てて飛び退る兵に赤い唇で問う。

「第何王子だったかな…忘れたけど。シグルーンはいない?」

「は?な?なぜ…。」

なぜこんな女から王子の名が出るのか分からなかったのだろう。兵は疑問とも、おそれとも、苛立ちとも、とれる声を上げた。

「シグに話をしてもらいたいんだけど。いない?」

「何故お前が…王子の名を!」

苛立ったようにアリアも声を荒げる。

「だから!聞いているには私!」

氷の化け物の怒りを感じ取ったのか兵は息を飲んだ。かろうじて威厳を保つかのように答えた。

「お、王子は…ウルサーンとの和平交渉に向かわれた!故に…」

「あ、そ。ならいいや。」

今まで、俯いていた白い、美しい顔を上げると一気に身を沈め、兵に足払いをかけた。兵が転倒したところで、濡れた後、完全に凍りつかされていた手首の縄を手首をひねって一気に砕いた。

「何…!?」

慌てて立ち上がろうとした兵に外套を投げつけて一気に駆けだす。

「凍ると砕けるの!」

聞いてもいないことを叫んで。


城の入口の方から大勢の兵が駆けてくる。

アリアは手袋や襟巻なんかの防寒具を投げ捨てながら城の上階へと続く階段を駆け上がった。いつもの服に腰帯に籠手と言う軽装になったアリアは両手に双剣を抜いて階段をさらに上へと駆け上る。

にわかに城が騒がしくなった。下の方で叫ぶ声、上の方でざわめく音。階下から追いかけてくる兵はアリアには追いつけない。金属のこすれる音が城を騒然とさせる。

ようやく上の方から兵たちが雪崩るようにして降りて来て、アリアを足止めする。下からの兵もアリアに追いつき、彼女は大階段の踊り場で兵に囲まれた。兵に囲まれようと、傲然と彼等を睥睨するアリアを目に留めて、一瞬ひるんだものの、隊長らしき兵は大きく息を吸い込んだ。

「そこま…」

彼が言い終わらぬうちに、さっと踵を返したアリアは採光用の窓に飛び移り、窓枠に乗ったかと思うと、窓を蹴り壊し、そのまま身を躍らせた。

あまりの一瞬の出来事に唖然としていた兵たちは、我に返って慌てて窓にとりついた。

だが、見下ろした先の遥かな山肌にも、城のそそり立つ壁にもどこにもアリアの姿はなかった。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

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