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凍てつく王国  作者: 玖波 悠莉
前編
41/86

8-2 遠征

ここまで読んでいただきありがとうございます。

その日は、陽が落ちてからしとしとと細い雨が降り出した。

遠征の最終的な目標であるウルサーン国境付近の砦に行くまで、あと1つ片づけねばならない場所があった。日暮れから、最寄りの村に入って空き家を借りて遊撃隊は雨と夜露をしのいでいた。

「さみぃな…。どっちかっていうと、この程度の雨なら雪の方がいいな…。」

「どうせ王都は雪だろうよ。」

「王都の雪はなぁ…積もるから嫌なんだよなー。」

「ああ。こう…地面に落ちたら溶ける、くらいの雪がいいな。びっしょりにはなんねーし。雨と違って。」

「確かに…。」

暗い空に垂れこめた重暗い雲からしとしとと降り続ける雨は、移動を続ける遊撃隊の気力を奪って行った。さらに北上した分だけ、どんどん寒さも厳しくなっていっていた。

「でも、奇襲にはもってこいじゃね?」

家の奥からジャックが出てきて、奇襲かけるらしいから、奥で伝達事項聞いとけよーと言って、そのまま雨脚が次第に強まっていく外に出て行った。


「で、今回は相手の数が多い。50人近くいるらしい。ま、特に今回は砦とかの建造物はなさそうだから隊を分ける必要はない。てことで、夜明けとともに奇襲をかける。太陽を背にして弓兵が狙撃、残りは周りが見えるようになり次第、突撃する。…たぶん、夜明け前に決着だろうけど、な。」

小さなランプの灯りだけが、部屋に所狭しとぎゅうぎゅうに詰まっている遊撃隊の面々を照らしていた。

「誰か見に行ってるんすか?罠とか、そういうのあったら、まずくないっすか?」

その狭い部屋で、いつもより抑えた声で彼等は話していた。

「確かに。俺らのうわさは届いてるはずだしな。」

「ああ、うん。今ジャックが見に行ってる。夜だし、雨も降ってるからそうそう見つからんだろ。あいつは逆にこういうのは平気だしな。」

シグル-ンが傍らのハインツを見上げると、彼は軽く頷いた。

「明日は、たぶん雨だよな?ってことは霧も深えし、かなり暗いぜ?」

「突撃部隊はいつも通りですが、今回は夜目が効く奴らだけで先に飛び込みます。私と隊長、ロバートさん、ジャック、そしてアリアさんですね。この5人で先に奇襲です。」

笑顔でハインツはさらりと言った。

暫し、沈黙があった。

「なぁ、それ、俺たちここで待ってたらだめなのか?全く負ける気がしねえんだけど。」

「敵方は50人の大所帯です。10倍ですよ?」

ハインツは大仰に肩をすくめるが、細い目のおかげで、表情は特に変わったようには見えなかった。

「何か問題あんのか?アリアとシグで先行して叩きのめしてロバートが突撃、粉砕。お前とジャックで討ち漏らしを掃討。終わりじゃねーか!」

「ああもう。良いだろ、別に。この作戦でいいだろ。…寝るなよ。」

何かあっても困るしな、とシグル-ンが付け足して、立ち上がった。

へーい、はいはい、等と実に投げやりな返事か帰ってきたが、それでも各々、武装を整えて立ち上がった。

「じゃ、行くか。アリア、ロバート、俺たちは先に行くぞ。先行してるジャックと合流するぞ。」

さっさと身支度を整えたアリアとロバートもシグルーンに続く。

「ん。」

「わかった。」

ハインツも立ち上がり家の入口に立って、雨の降りやむ気配のない、真っ暗な空を見上げていた。

「明日中に止めばいいんですがね…。山の上の方にある砦を攻めるのにずっと雨のままでは些か心もとない。」

「確かにな…。」

溜息をついたハインツがシグル-ンに合流して、彼等は星明かり1つない真っ暗な闇の中へ足を踏み出した。4人の足取りはよどみなく、ぬかるんだ悪路も、闇も、彼等を妨げるには足りなかった。

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