4-1
長い階段をはるか上にあるシグル-ンの部屋まで登っていくと、既にハインツが待って居た。しかし、ハインツだけではなく、女性が一人、一緒だった。
扉を開ける前から何やら声が漏れ聞こえてきていて、シグル-ンが溜息をついていた。
「やっぱりいない?そんな事見ればわかるわよ!わざわざこんなところまで来た意味は?下に直接会いに行けばいいじゃない?って、あたし、言わなかったぁ?」
「だから、入れ違いになる可能性があるといいましたよね、私は。」
「なんなかったじゃない。」
「確実に伝えなければいけないことがあったんです。あなたと違って。」
「あたし、あんた嫌いだわ。」
「奇遇ですね、私もです。」
「なら何であんたがわざわざあたしのところに来るわけぇ?可愛い隊長さんでもいいじゃない?」
「わかっていてわざわざ聞くそういう所なんか特に。」
「あんたが嫌いだから言ってんのよ。」
「あー隊長がうらやましいですね、美少女と一緒に散策とは。」
「あんたも美女と一緒よ。」
「その辺にしてくれ…。」
疲れ切った顔でシグル-ンが扉を開ける。
「あらぁ?隊長さんじゃなぁい?もー、こんないけ好かない奴じゃなくてあなたがよかったわぁ?」
女がシグルーンの方を振り向いた。割と背が高く、ハインツと並んでも見劣りがしない。豪奢な金髪を緩く巻いて、ハインツと同じような黒の服を着ていたが、豊かな胸元は大きく開かれ、妖艶な体の線が制服の受ける印象を全く別物にしていた。派手だが、かなりの美貌だった。そして今、その真っ赤な唇は少し不機嫌そうにとがっていた。
「すまん…じゃない、俺は悪くないはずだが。…おい、なんでお前ら毎回こんなめんどくさいんだ。」
シグルーンはハインツに矛先を向ける。
「さぁ?誰かが人の恋路に口出しするのがいけないと思いますが?」
「は?」
「あれぇ?隊長さん知らないの?」
女が身を乗り出す。
「別にいいでしょう?それこそあなたには関係ない。」
「ああもうわかった。で?俺は頼みごとをしてたはずなんだが?」
「ああ!そうそう!こんなやつにわざわざついてきたのもそれなのよ!で、どこぉ?その新入りちゃんは?」
「アリア?あ、すまん、入ってくれ。」
シグルーンは扉の向こう側で突っ立っているアリアに声をかけた。
「かっわぃー!」
うかがうように部屋の中を覗き込んだアリアを見てその女性が声を上げた。。
「え、え、え?」
ぺたぺたと頬を触られて助けを求めるようにアリアはシグルーンを見た。
「すごくかわいいじゃなぁい?真っ白ってところまでしか聞いてなかったけど、予想以上じゃない?」
そんなアリアを気にも留めず女性は楽しそうである。
「あ、あの…。」
「ああ…この人はルイーゼ。一応、うちの数少ない女なんでな…。」
アリアの助けを求める視線に苦笑しつつシグルーンが彼女を紹介する。
「一応って何よぉ?」
「あの…?よろしくお願いします?」
相変わらず頬をルイーゼの両手に挟まれたままでアリアは一応挨拶をした。
「あら!よろしく。私のことはルイーゼでいいわよ。」
楽しそうなルイーゼに対して、アリアはほとんど無表情だった。
「私は、アリアでお願いします。」
彼女らをよそにハインツはシグル-ンに声をかけた。
「先程、軍の方で呼ばれまして。隊長も呼べとの事でしたので。ああ、今からです。」
「わかった。すぐ行こう。…ルイーゼ、アリアの方頼んでもいいか?」
アリアをつついているルイーゼに声をかける。
「言われなくとも。」
部屋を出る間際、アリアの横を通るときシグルーンはアリアに呟いた。
「…頑張れよ…。」
「…はい…。」