略奪者19
盗賊の首領――首領自体は気持ち悪く見たくないから、正確にはそのまわり――に、僕は目を向ける。
女たちが、首領がいるところから離れていく様子が目につく。首領の異性に対する魅力が正常に計算され、とても低くなったためだろう。
首領から離れた女たちは、男たちに合流した。その後、首領は男たちにより、袋だたきにされた。
僕自身は、首領に対して特に恨みはない。そのため、わざわざ男たちに混ざる気にはなれなかった。
僕は、美夏ねぇと黒河さんを探して、周りを見渡す。
黒河さんはすぐに見つかった。先程まで一緒に行動していた春さんも、黒河さんの近くにいた。僕はそちらに近づこうとする。
ふいに、体がふわりと浮く感覚がした。
一瞬、足を踏み外したり、地面が崩れたのかと思った。しかし、そうでは無いようだ。
膝の裏や背中あたりの感覚からそう判断する。
「アキ君、可愛いな~」
僕は、美夏ねぇに抱き上げられていた。お姫様だっこで。
え、この姉、急に何やってるの?
僕は、美夏ねぇに問いかけようと、美夏ねぇの方をみる。自然、美夏ねぇを見上げるようになる。
「そうやって見上げてくるのも、可愛いよ~」
僕が問いかけるよりも先に、美夏ねぇが言葉を放つ。
「なんでこんなことしてるの?」
僕は、美夏ねぇを見上げるのをやめ、問いかける。
「わたし、今、こんな格好だし、これはやっておかないといけないなと思って」
ふむ。相変わらず、わけがわかないな。
確かに、僕と美夏ねぇの格好――僕が女装、美夏ねぇが男装――なら、僕が美夏ねぇのお姫様だっこされても、端から見れば違和感はないだろう。普段は激しく主張している上半身の大きなものを、上手い具合に隠しているためか、今の美夏ねぇは美少年にしか見えない。
だからといって、お姫様だっこをする必要はまったくないと思うのだけど。
盗賊の首領を懲らしめて満足したのか、とらえられていた女たちや助けに来た男たちがこちらに向かってくる。彼らの目に、僕と美夏ねぇの状況が映る。
女たちからうらやましそうな目で見られているのは気のせいか。美夏ねぇではなく、僕が。
「ねぇ、私もああしてもらいたいな」
ある女が、隣にいる男、おそらくその女の恋人にそう伝えるのが聞こえる。
どうやら、さきほど感じた視線は気のせいではなかったようだ。
特に男の方も拒否することなく、その女を抱き上げる。それを見た他の女が恋人と思われる男にそれを頼む。かくして、各所で、お姫様だっこが行われる。さらわれた女の恋人のほとんどが助けに来ていたようで、ほぼ全ての女が抱え上げられる。そうしていないのが不自然のようなおかしな空気が漂う。完全に異様な光景だと思うのだが、おおむね皆満足そうだ。僕や相手のいない男、興味がなさそうな春さんと黒河さんをのぞいて。
その集団はそのまま――半数をゆうに越える人数が、お姫様だっこしている状態のまま――帰路につくことになった。