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聖女の魔力は万能です  作者: 橘由華
第五章
205/205

168 邂逅

ブクマ&いいね&評価ありがとうございます!


いつもお読みいただき、ありがとうございます。

本編167「フラグ建築士」の最後を変えています。

最後三行だけですので、今回のお話を読んで「あれ?」と思った方は本編167話をお読みいただけますと幸いです。


それから、虫の名前の描写があります。

今回のお話は閑話的なものなので、苦手な方は後半(「前菜は数種類あった。」以降)を読み飛ばしていただけばと思います。

 合同討伐から少しして、テンユウ殿下から招待状が届いた。

 スランタニア王国に留学した際に応対したことと、今回討伐に参加したことのお礼に食事会に招待したいというものだ。

 招待されたのは使節団の長であるカイル殿下と、討伐に参加した師団長様と団長さん、それから私だ。


 万能薬でお母様が回復したこともあり、テンユウ殿下はスランタニア王国に対して悪い感情は持っていないと思われる。

 スランタニア王国で、それなりの親交もあったしね。

 そういう訳で、テンシャク殿下と比べると、あまり警戒しなくても良い相手と言えるだろう。

 カイル殿下もこの機会にテンユウ殿下にいくつか聞きたいことがあるそうで、皆で招待を受けることになった。


 指定された日、威圧にならない程度の護衛と共にテンユウ殿下が住む屋敷へと向かった。

 テンユウ殿下は皇宮から少し離れた場所にある離宮に住んでいた。

 外から見た印象では、離宮の大きさは使節団と同じくらいで、結構広そうだ。


 入り口に到着し、馬車から降りると、テンユウ殿下が出迎えてくれた。

 その後ろに線の細い、美しい女性が立っていた。

 どことなく、テンユウ殿下に似ているような気がする。

 この女性はもしかして……?



「ようこそお越しくださいました」

「こちらこそ、御招待ありがとうございます」



 テンユウ殿下の挨拶にカイル殿下が答えた。

 すると、テンユウ殿下は隣に立つ女性の方を見た。

 テンユウ殿下の視線を合図に、女性が一歩前へ出る。



「紹介させてください。こちらは母です」



 予想通り、女性はテンユウ殿下のお母様だった。


 万能薬はちゃんと効いたようだ。

 テンユウ殿下からはずっと寝たきりだと聞いていたので、こうして元気そうな姿を目にすると感慨深い。


 お元気になられて、本当に良かった。

 和かに微笑む姿に、こちらも笑顔になる。



『その節は息子共々大変お世話になりました。お陰様でこの通り、起き上がることができるようになりました』



 お礼の言葉と共に、テンユウ殿下のお母様が深くお辞儀をした。

 合わせて、テンユウ殿下もお辞儀をする。


 テンユウ殿下とは異なり、お母様はザイデラ語で話したけど、カイル殿下はザイデラ語ができるので問題はない。

 微笑むお母様に対して、カイル殿下は鷹揚に頷いて返した。



「食事を用意しております。どうぞ中へお入りください」



 顔を上げたテンユウ殿下はそう言うと、私達を離宮の中へと招いた。


 華やかな皇宮とは対照的に、テンユウ殿下が住む離宮は落ち着いた色味で整えられていた。

 置かれている家具も暗い色味の物が多く、花瓶等の陶器も薄緑色の物や青色の一色で模様が描かれた物ばかりだ。

 テンユウ殿下の趣味だろうか?

 正直なところ、皇宮よりも目に優しく、住むならこちらの方がゆっくりできそうな気がする。


 案内された広間には、大きな円卓が置かれていた。

 テンユウ殿下の勧めで、一番奥にカイル殿下が座る。

 それから時計回りに、団長さん、私、テンユウ殿下、師団長様の順に座った。


 マナーに則った席次なんだろうけど、隣にテンユウ殿下が座ったことに少し驚いた。

 だって、私は一般人。

 平民枠だ。

 なのに、隣が皇子。

 驚くなという方が無理でしょう。


 それを言うなら、そもそも食事会に招待されたことを驚くべきなんだろうけど、そこは共に状態異常回復ポーションの開発に勤しんだ仲だ。

 万能薬を開発したのが私だとは知られていないと思うけど、留学時のお礼と言われれば、なしよりのありかなとは思う。


 ちなみに、そのお母様は食事会には不参加だそうだ。

 万能薬で病気は治ったけど、体力が完全に回復した訳ではないので、長時間の社交はまだ難しいからだそう。

 それでも、一言お礼は伝えたいと出迎えてくださったそうだ。

 テンユウ殿下もだけど、お母様もとても義理堅い人なんだなと思う。



「スランタニア王国では色々と学ばせていただき、ありがとうございました。とても有意義な時間を過ごすことができました」

「こちらこそ、ザイデラのことを教えてもらい感謝する。あのときに学んだことは、貴国を訪れてからとても役に立っている」

「そう言っていただけると嬉しいです。それから、この度は我が国の軍と共に討伐に赴いていただき、ありがとうございました」



 皆が席に着くと、テンユウ殿下が口を開いた。


 招待状に書かれていた通り、挨拶は留学時の応対と討伐に同行したことへのお礼から始まった。

 ただ、留学時のことを話すときと、討伐のことを話すときは様子が異なった。

 討伐のことを口にする際、テンユウ殿下の表情が僅かに曇ったのだ。

 申し訳なさそうな表情と言えばいいだろうか。


 そして、何かを言い淀んだ様子を一瞬見せた。

 しかし、結局言うのは止めたようだ。

 


「今日は討伐に参加された皆さんに英気を養っていただきたく、我が国の料理を沢山用意しました。良ければ無礼講で、遠慮なく楽しんでいただければと思います」

「ありがとうございます。皆、テンユウ殿下もこう言ってくださったことだ。今日は無礼講で楽しんで欲しい」



 笑みを浮かべると、テンユウ殿下は食事会を楽しんで欲しいと言葉を締め括った。

 テンユウ殿下の言葉を受けて、カイル殿下からも無礼講の許可が下りる。


 カイル殿下の返事にテンユウ殿下は頷くと、控えていた侍従さんに合図を送った。

 その合図で、使用人さん達が部屋の中に入ってきて、私達の前に料理の皿を並べた。


 料理はスランタニア王国に合わせてか、大皿から取り分ける形ではなく、一人分ずつ提供された。

 彩り鮮やかで、見た目も楽しめるよう美しく盛り付けられた料理が並ぶ。


 テンユウ殿下が一口食べたのを見届けてから、私達もカトラリーを手に取った。

 用意されていたカトラリーはスランタニア王国で一般的なフォークやナイフだ。

 私達に合わせてくれたんだろう。

 個人的には箸の方がありがたかったりするのだけど、ここはテンユウ殿下の心遣いに感謝するべきよね。


 前菜は数種類あった。

 胡麻が掛かった人参の炒め物、薄緑色の野菜と橙色の粒の和え物、それから薄切りにされた胡瓜……。

 なんだけど、この胡瓜がやけに芸術的な形をしていた。

 薄切りされた胡瓜が螺旋状に連なっているのだ。


 えっ? 薄切りにした胡瓜を組み立てたの?

 気になって最初にフォークを差し込めば、数枚だけ取ったはずの胡瓜が連なって、だらりと垂れ下がった。

 この薄切り、全部繋がっているようだ。

 マジか。


 改めて見れば、人参や薄緑色の野菜――食べてから分かったけどセロリだった――も物凄く細く切られている。

 何て技巧。

 やばいわね、皇子様の料理人。

 ちなみに、味ももちろん、とても美味しかった。


 続けて供された料理は、蓋付きのお椀に盛られていた。

 テンユウ殿下の後に続いて蓋を開けて固まった。

 これは……。


 お椀には琥珀色のスープが注がれていて、中心に丸い白い野菜が鎮座している。

 野菜の上には半透明のゼリーっぽい物が載せられていた。

 まぁ、それはいい。


 問題はゼリーの上に鎮座している(ブツ)だ。

 木の枝にも見えなくはないんだけど、どちらかというと真っ直ぐな尺取り虫のように見える。

 これは一体……。


 もしかして、他の人の料理にも載せられているんだろうか?

 隣の団長さんのお椀を見ると、そちらには(ブツ)ではなく、細切りの人参と緑色の小さな葉が飾られていた。

 まさか、私のお椀だけ?


 恐る恐る反対隣を見れば、ニッコリと微笑むテンユウ殿下と目が合った。

 ちらりとお椀に目を向ければ、そちらには私の物と同じ(ブツ)が載っている。



「殿下、これは……」

「『冬虫夏草』です」



 ザイデラ語だったけど、私の耳には正しく理解できる言葉で聞こえた。

 冬虫夏草~~~~~!!!!!

 これが、あの!!!


 名前は知っていたけど、初めて目にする実物にテンションが上がる。

 冬虫夏草は滋養強壮に効果があると言われている茸の一種で、幼虫に寄生して育つ。


 元の世界にもあったけど、ザイデラにもあるとテンユウ殿下から聞いていた。

 冬虫夏草からポーションが作れないかなんて話をしていたのだ。

 まさか、ここでお目に掛かれるなんて……。



「セイ、それは?」

「茸です」



 冬虫夏草をフォークの上の載せて観察していると、奇妙な行動に気付いた団長さんが声を掛けてきた。

 フォークの上に載っている物を見て、眉を寄せている。

 そんな表情になるのも分かります。

 ぱっと見、虫ですもんね。



「茸、なのか?」

「はい。滋養強壮に効果がある薬草の一種でもあります」



 団長さんの疑問に答えたのはテンユウ殿下だ。


 

「見た目があまり良くないので、私とセイの分だけ載せてもらいました」

「滅多に手に入らない貴重な物なんですよ!」



 テンユウ殿下の説明に、興奮気味に補足した。

 冬虫夏草はザイデラでも栽培技術は確立されていないそうで、自然にできた物を採集するしかない。

 故に目にすることなんてできないと思っていたのだけど、御用意されているだなんて!

 きっと、テンユウ殿下が気を利かせてくれたのだろう。


 テンユウ殿下も言う通り、見た目は微妙。

 本当に微妙。

 けれども、これは貴重な、とても貴重な茸なのです!

 きっともうこんな機会はやってこない!!

 たとえ見た目が尺取り虫でも、ここで食べないという選択肢はないっ!!!(やけくそ)



「滋養強壮ですか。すみません、セイ様。ちょっと鑑定させていただいてもよろしいでしょうか?」



 師団長様も話に入ってきた。

 魔法に関することではないけど、興味を覚えたようだ。


 もしかして、滋養強壮だけでなく、他の効果もあったりするんだろうか?

 例えば、魔法に関する効果とか。

 師団長様なら野生の勘で気付いた可能性がある。



「それなら、後程、調理前の物を用意しましょう」

「ありがとうございます。そちらも是非鑑定させていただきたいのですが、調理された物も鑑定させていただけますでしょうか?」

「分かりました。よろしいですよ」



 テンユウ殿下から許可がもらえたので師団長様は私のお椀に鑑定魔法を使った。

 料理には滋養強壮の他に魔法抵抗が上がる効果もあった。

 やっぱり。


 新たな効果を発見して、盛り上がる師団長様とテンユウ殿下、それから私。

 そんな私を笑顔で見つめる団長さん。

 ここまで発言がないカイル殿下は空気と化していた。


 ちなみに、冬虫夏草はあまり味がせず、筍のような食感だった。


薄緑色の野菜と橙色の粒の和え物・・・薄緑色の野菜はセロリの茎、橙色の粒は海老の卵。

薄切りにされた胡瓜・・・ただの胡瓜ではなく、和え物です。

お椀の料理・・・白い野菜は蕪、上の載ってるゼリーっぽい物は燕の巣、琥珀色のスープには干し貝柱が使用されています。


以上、料理の補足でした。

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