261 九月と幼女フットサル大会
カノープス社からの定形郵便が届いた。
封筒の表には『幼TEC対抗フットサル大会のご案内』と書かれている。
フットサル?
幼女だけでミニサッカーをやる気なのか?
ビジネスとは別フィールドでもカノープス・イズ・ナンバーワンを証明したいなんて、野心家の流川らしいイベントといえる。
あと社長が喜びそう。
ドジっ娘のくせに、勝負と名がつくものなら何でも飛びつく。
「社長、流川さんからお手紙ですよ」
「なになに……九月の吉日、都内の某所で幼TEC対抗フットサル大会を企画しております。つきましては貴社にもご参戦いただきたく、大会概要とエントリーシートを送付した次第であります……」
気になった神宮寺や姫井も招待状をのぞき込んでいる。
「豪華賞品ありますだって!」
オフィスに激震が走った。
「ちょっといのりさん。お昼休憩中に大きな声を出さないでよ」
「シイナちゃん、フットサル大会だよ!」
「はぁ……あの流川マキが? どうせ幼女株式会社をボコボコにやっつけて、あなたの吠え面を見るのが目的でしょう」
「流川はそんなに悪いやつじゃないよ」
「でも頭がいいじゃない。遊び心というのは、時として、人を残虐にさせるのよ」
シイナの言うことに一理ある気もするのだが……。
「リュウゾーに一位の座を譲るのは癪だな」
「僕たちが優勝するのです!」
神宮寺も姫井もやる気まんまんのようである。
今回のフットサル大会は変則ルールとなっており、フィールドプレーヤーは幼女5人、ゴールキーパーは幼女以外という縛りがある。
というわけで俺の参戦も決定。
「1チーム10人まで登録可能だけれども……シイナちゃんはどうする?」
「勘弁してよね〜。まだ残暑が厳しいし〜。私はオフィスから応援しているわ〜」
というわけで、やる気ゼロのシイナを除いた八人でエントリーすることが決まった。
……。
…………。
大会当日。
某商業ビルの屋上にあるフットサルコートへやってきた。
ここなら都会の景色が一望できる。
なおかつメンバーの集合も楽である。
天空のフィールドで勝負できるなんて、幼TECの頂点を決めるのに相応しい一日となりそうだ。
「おい、あいつら全員カノープスかよ」
お揃いのユニフォームを着た幼女が40人くらい、コート一面をつかってウォームアップをしていた。
パス練習とシュート練習を淡々と繰り返しており、部活動のような真剣さといえる。
「龍造寺先輩!」
「頑張ってください!」
女性社員の黄色い声の先にいるのは白髪の幼女。
「うぉらぁ! これが『カノープス式流星ブレード』だぁ!」
胸でトラップしたボールを一閃、回し蹴りの要領で右脚にミートさせた。
矢のように放たれたボールは、キーパーの左手を弾いて、ゴールネットに突き刺さる。
カノープスの『10番』を背負いし幼女。
くるりとバク宙を決める様子から察するに、今日のコンディションは絶好調か。
「お前らぁ! 絶対に勝つぞ!」
アクロバティックなパフォーマンスに怖気付いたのは加賀美、雪森、有栖川の三人。
「幼女の動きじゃない……というか人間の動きじゃないよね」
「勝負になるのかな? 急にお腹が痛くなってきたよ……」
「あのシュート、顔面にもらったら鼻が折れそう」
龍造寺が超次元サッカー出身者というのは理解した。
ざっと観察するかぎり、他のカノープス社員もバケモノ級ということはなく、エースの活躍さえ封じれば俺たちにも勝機がありそう。
うちのサッカー経験者は三人。
俺、神宮寺、奈良橋。
中学までプレーしていた神宮寺がもっとも上手い。
「龍造寺くんはね、サッカー強豪校の出身なのだよ。全国高等学校サッカー選手権では、背番号の10をつけて、埼玉スタジアムでプレイした経験もある。ボールを見ていると今でも血が騒ぐようだね」
そういって登場したのは流川だった。
埼玉スタジアムでプレイ……。
額面通りに受け取るなら、エースストライカーとしてチームをベスト4まで導いたことを意味する。
これは経験者ってレベルじゃない。
まさに超次元サッカー。
「個人技を重視するプレースタイルと、凶暴すぎる性格が祟ってしまい、プロから声は掛からなかったみたいだけれども……。ITの道に専念してくれたお陰で、いまでは我々の斬り込み隊長というわけさ」
「おいおい! 流川さん! 一人だけアップ練習サボらないでくださいよ! あんたが大将でしょうが!」
「いや……トイレに行っていただけ……」
「何回行っているんすか⁉︎ 頻尿ババアっすか⁉︎」
嫌がる流川をつかまえると、龍造寺はズルズルと引きずっていく。
「私には開会宣言のあいさつという使命があるのだよ。息が上がっていたら恥ずかしいだろう」
「アップ練習で息が上がるとか、どんだけ軟弱なんすか」
「まったく……」
シュート練習に参加した流川の動きも観察させてもらった。
「あっ⁉︎」
シュートを三本放って三本とも枠を外したから、こっちはリアル幼女並みの運動スキルといえそうだ。
……。
…………。
トーナメントの抽選結果が発表された。
憤然として文句をつけにいったのは神宮寺。
「おいおい、16チーム中、5チームがカノープスとか卑怯だろう」
トーナメント表には『カノープス一軍』から『カノープス五軍』まで存在するのである。
もしカノープス同士がマッチした場合、互いに手を抜くのは明白。
「別に各社1チームとは決まっていません。トーナメント形式なので、キリ良く16チームとなるよう、私たちが調整しただけです」
龍造寺が器用にリフティングしながらいう。
「龍造寺くんのいう通りです。もしカノープス同士でマッチした場合、決して手は抜かないと誓いましょう」
大会管理者である流川がそう宣言したのでは納得するしかない。
まるで国際政治だな。
パワーの大きな国が有利になるようルールは定められる。
「キリ良く16チームか……悔しいけれど、正論っちゃ正論だな」
幼女株式会社が優勝するためには四連勝が求められる。
その道中にカノープスが何個いようが関係ない、という気もする。
それに不満があるのは他の幼TECも一緒。
右の山か左の山のカノープスを全滅させて、カノープス vs カノープスではない決勝戦を実現させようと、いまから打倒カノープスに燃えている。
幼女株式会社は右の山。
一方、カノープス一軍は左の山。
決勝まで龍造寺とぶつからないのは朗報といえる。
「神宮寺さん、決勝戦で待っています」
ボールをコートの方へ蹴飛ばすと、これから一回戦を始めるべく、龍造寺は立ち去っていった。
……。
…………。
「一回でも多く戦えるように全員で頑張ろう!」
みんなで円陣を組んで、社長が気合いを入れた。
遊びのフットサルなのだけれども、全員の目が真剣だった。
俺たちの一回戦の相手は『カノープス五軍』。
こういっては失礼だが、16チームのなかで一番弱そうな相手である。
「ゴールキーパーの人は重りを巻いてください!」
俺は手首と足首にトレーニング用のリストアンクルウエイトをつけた。
幼女との肉体ハンディを考慮しての措置であり、成人男性と成人女性で別々の重さが用意されている。
小学生のとき。
ゴールキーパーというポジションは、他のみんなと練習メニューが別だから嫌だな、と思ったものだが、まさか10年後とかに役に立つ日がこようとは……。
「須田ちゃん、ゴールは任せたぜ!」
「はい、安心して攻めちゃってください!」
フィールドに立っているのは、神宮寺、奈良橋、加賀美、雪森、有栖川の五人。
怪我人が出ない限り、ベンチの社長と姫井は使わない方針だ。
大丈夫。
あの龍造寺だって10年のブランクがあるはず。
俺がゴールを守りさえすれば、どこが相手だろうが負けない。
「それでは一回戦、キックオフです!」
審判の笛とともにプレーヤーが動き出す。
先攻したのは幼女株式会社。
神宮寺がドリブルで切り込み、いきなり相手ゴールに襲いかかる。
まず1点。
ベンチにいる社長と姫井が歓喜のハイタッチをしている。
すぐにリスタートしたのだが、今度は奈良橋がボールを奪い、そのままゴールまで持っていった。
社長たちがハイタッチした30秒後のことだった。
結果からいうと初戦は『5-0』で快勝。
神宮寺が3点、奈良橋が2点決めるという理想的な内容であった。
二回戦の相手は『カノープス四軍』。
一回戦の上位互換みたいなものだが、今度は神宮寺がアシスト役に徹して、奈良橋、雪森、有栖川がそれぞれゴールを決めたので、『3-0』で勝つことができた。
俺も二試合連続でクリーンシートを達成。
しかし、二試合目は危ないシーンが何回かあった。
そして三回戦の相手は『カノープス二軍』。
スピード・テクニックともに今までの比でないことは戦う前から分かった。
前半は何とか『0-0』スコアで折り返す。
そして後半、このまま延長戦に突入かと思われたとき、相手のゴールキーパーがファンブルし、こぼれたボールを神宮寺が押し込んだのである。
「よっしゃあ!」
「勝ったぁ!」
紙一重での勝利。
優勝したのかと錯覚してしまうほどの喜びようであった。
もう一方のコート。
別の準決勝が行われているコートはというと……。
「食らいやがれ! これが『龍造寺バスターショット』だぁ!」
龍造寺が右脚を一閃。
放たれたボレー弾がゴールへと襲いかかる。
得点のホイッスルと試合終了のホイッスルが立て続けに鳴り、気になるスコアは『8-0』という絶望的なまでの大差であった。
まさに超幼女レベルの破壊力。
龍造寺一人でここまで『33得点』を稼いでおり得点王のタイトルは内定だろう。
「神宮寺さん、決勝まで残ってくれたこと、圧倒的感謝っすわ!」
白い髪の悪魔は、右肩をぐるぐる回しながら、不吉な笑みを向けてきた。
『幼女株式会社』vs『カノープス一軍』
まもなくキックオフである。




