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赤い鍵


 88式二機大破、破棄。88式一機、小破。V式、損傷無し。これが花端小隊の被害状況だった。機体を大破された二名は警備兵の志願を取り下げ、工兵を希望。残る一名、イモリ氏は元より工兵希望。バイレス氏は後方支援として引き続き警備兵を志願。

 カガネ小隊は全員損傷無し。無事救出と補給は完了。ネクスター4機を撃退。という結果となった。


「バイレスをひきとってやってくれ。私は来期まで休暇でも取るよ」


 花端隊長は苦笑いをしながらそう言った。


「まぁ……予想通りと言うべきか……こちらの小隊の進むべき道は決まった様な物だな」


 カガネさんはそう言いつつ、ため息を吐いた。どうみても嬉しそうではない。


「ネクスターについて説明をお願いします」


 俺がそう言うと、花端隊長は片手をあげてミーティングルームから出て行ってしまった。


「トシ、コーブ、小稲は工兵志願だったな、席を外してくれるか?」


 三人は顔を見合わせると、二人だけ、立ち上がった。


「私は、警備兵への志願に変更します」


 小稲がそう言ったのを聞いて、皆が少し驚いた顔をした。


「いいの? あれ? 小稲ってミシュテカの修理とかをしたくてここに来たんじゃ……」


 とコーブが尋ねると、小稲は頷いた。


「もっと……分かりやすくて、もっとやりたい事が見つかったから。私は誰かの役に立ちたい。ミシュテカの人達の役に立ちたいと思ってここに来たの。その為に工兵の勉強をしてきたの」


 小稲は俯きながら、自分に言い聞かせるようにそう言った。


「でも、七式のコクピットの中で、私は違う私になっていたの。私自身が七式になった様な気がして、出来る限りの情報を管理して、皆を助ける。怪我をした先輩達を助けて、補給して、そしてバイレスさんの所まで戻った時……これがしたかったんだって思った」


「小稲の情報分析能力と判断力、実行力は完璧だった。俺はきっと敵わない」


 先輩であるバイレスさんがそう言って苦笑いした。バイレスさんは黒人系の体格の良い人で、とても優しい顔立ちの人だった。俺達より三歳は老けて見えるが、花端隊に居た以上は、きっと一つ年上だと思う。


「いいだろう。小稲の警備兵への志望を認可する。他の者は外へ」


 トシとコーブはやれやれと言った顔で部屋から出て行った。それが当然だった。彼らはミシュテカというこの地下の街で生きていく事を、希望しているのだから。

 カガネさんはミーティングルームの鍵を閉め、そして防音スイッチも入れた。

 部屋の上の電子掲示板に『防音中』という文字が表示されていた。


「この鍵を持っている者は、選択権はないと思え」


 そう言ってカガネ隊長は赤半透明の鍵を懐から取り出して、俺達に見せた。


「俺とエルイルがその鍵を見せると、小稲とバイレスは怪訝そうな顔でそれを見た」


「小稲、バイレス。鍵を受け取るか。部屋を出て行ってくれ」


 新たに二つ、カガネさんが鍵を二人に渡すが、二人とも、それを受け取っていた。


「薄々は勘づいていたと思う。NCWが土木工事の作業ロボットではなく、戦闘を目的とした兵器だという事を」


「私は元々工兵だ。しかし工兵を三年つとめ、戦闘に向いている者は教官の道を歩む事が出来る。教官になった者は新人を訓練し、工兵につかせるか、或いは兵士に道を選ばせるかの選択をさせる事になる」


「ネクスターとは兵士の事だ。この惑星C9の地下5000階にある地下都市ミシュテカを守り、そして100年の間、地上への脱出路を探し続けている」


「ごっ、5000階!? 百年!?」


「とんでもない数字に、俺達は目を丸くしてそう叫ぶしかなかった」


 カガネ隊長が、記録ムービーを正面の巨大モニターに映し出した。それはネクスターになる事を決めた者達への説明用のムービーだった。


 約130年前。地球は惑星C9という、地球形の理想的な星を見つける事が出来た。その環境は地球よりも更に住みやすい所であり、しかも地球の8.3倍の大きさを持つ星だった。人々は新しい星に移民をはじめ、C9の大自然と闘いながら開拓を進めていった。まさしくフロンティア時代であり、地球本土では人口の増加と不況に苦しんでいた人々に、働く場所と金と土地と意志を与えた。働けば働くほど金持ちになれる。それがその頃のC9だった。


 しかし20年経った時、人類は未知の文明に出会う事になってしまった。彼らが何者なのか、元々C9に居たのかも分からない。人類が見つけたのはたった一つの巨大な石の建造物だったからだ。

 その建造物を調べない訳にはいかなかったが、それは調べてはならない物だった。

 地球人は自分達の手に終えない存在を、その遺跡から呼び出してしまった。その遺跡はいわゆるワープゲートの様な物であり、宇宙航行におけるジャンプゲートと同じく、その門から何かが転送される為の転送門だった。


 ゲートから出てきたのは、攻撃的な未知文明の生物達だった。地球本土からも救援が送られ、惑星C9上では未知文明の敵との大戦争が起こってしまった。

 開拓者達は、いち早く危険を察知し、C9の広大な地下に人々を収容するためのシェルターを建造した。それが地下5000階相当に建設された地下都市ミシュテカだった。

 地下5000階と言っても、この惑星C9の巨大さから比べれば、アリの巣程度の小さな物だった。約8年の歳月をかけて、地下にほぼ完全なシェルターを作り、そして移民者達の殆どを収容する事が出来た。勿論、地球へ戻る者が大半だったが。

 地上での戦争は一進一退だったが、ゲートがある限りはどこかから敵が湧いてくるのを止める事が出来ない。どこか全く別の星から来た生物なのか、それとも異次元から来る様な超自然的な生物なのかは分からないが。彼らは一見して、神話のデビルやホラー映画の怪物と似た様な姿をしていて、総称してフィーンド(化け物)と呼ばれていた。


 そのフィーンドが出てくる門を壊す為に、地球の軍隊は核攻撃も含めて様々な攻撃を行ったが、最後に出た結論は、ゲート周辺の大気層を破壊して生物の住めない場所にする事だった。それは20年間の開拓を全て捨てる事を意味していたが、いつか、地球の文明があのゲートを再び閉じる方法を見つけるまでの間、C9の開拓者達は地下都市ミシュテカというシェルターに逃げ込む事になった。


「とんだSF映画だな」


 それが、俺の率直な感想だった。



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