迷宮序曲
昇降機には既FM七十七式が乗っていた。まるでトラックのような機体だった。その背中に二機までNCWをパワーアームで掴んで移動させる事ができる。その折には補充もできる様だった。
「カガネ隊長、花端隊の奴らのうち二機は大破して放棄しています。四機のうち二機は俺が連れて帰りますから、花端さんとオカダ機の援護を頼みます」
「了解した。バイレス。先行を頼む」
七十七式の移動はまるでムカデの様だった。六足歩行のこの機体は、頭部、中部、後部の三節に別れていて、狭い角も曲がれる様になっていた。ただしNCWを乗せると、それだけ嵩張ってしまう。
この機体を隊長が先行させたのは、なにより装甲が厚いからだろう。その目的は味方機の補修である以上、武装よりも各所に甲板が取り付けられて装甲が厚くなっていた。
トシのサブマシでは傷一つつかないし、俺達の持つ20ミリでも凹ませるのがやっとだろう。
(しかし、いきなり戦闘か……)
ポケットの中にある赤い半透明のキーの事がちらついていた。見た時にすぐわかった。あれは作業員に渡される様な物じゃない。戦えという意味がその色に含まれていた。
俺達は初めてミシュテカという街を離れ、そしてこの惑星C9の地下に潜っていく。目の前に広がるのはNCW2機が並んで歩ける通路で、床も壁も段差の多いプレハブ工法で作られた物だった。天井には無数の配管か並んでいて、街の方へと向かっていた。
ある程度まで進むと、七十七式は移動を止めた。そこから先はNCWが一機しか通れず、七十七式が先頭をいけば「詰まってしまう」可能性があった。
「小稲。花端隊までの距離は?」
「た、多分……直線で300メートルほどです。二人、人間らしき反応があります」
「よし、バイレスはここで待機。二機が戻ってきたら回収してくれ」
「了解隊長。奴らには気をつけて」
「……まぁ向こうも、殺しはしないさ。先頭はセトルと私、その後ろにコーブとエルイル。トシは小稲の護衛をしろ。小稲が撃たれるぐらいなら、お前が盾になれ」
「は、はい、分かりました……」
トシは自分の役所を聞いて、幾分か気落ちしていた。遠回しどころかお前に戦闘力は求めてないと言われているのと大差ない。
俺と隊長は、センサーを頼りに周りに移動する物体が無いかどうかを確認しつつ、曲がり角まで進む。十字路、T字路、単純な曲がり角にシケイン状態の角。そこでクリアリングをしながら、小稲の指示する方向へと近づいていく。
「まるでゲームの中のダンジョンだよ……」
コーブがため息をつきながらそう呟いた。その通り。何故こんな曲がりくねった細い通路を作る必要があるのだろうか? デジタルアニメや映画の世界でも、こんな風に曲がりくねった通路なんて迷宮以外には出て来ない。
スペースコロニーにせよ、地下都市にせよ、道という物は『何かがそこを通る為に作られた直線空間』であり、こんな風に阻害する物では無い。
「隊長。近くに何か居ます」
俺がそう言うも、小稲はその何かを探知していなかった。
「よく気付いたなセトル。敵の待ち伏せだ!」
正面、右へと曲がる角の天井に何か微少な反応があった。気付かなければ俺達はそいつの真下を通過する事になっていた。
しかし俺と隊長は壁際に機体を寄せると、その微少な反応に向けてアサルトライフルを放つ。20ミリの弾丸はこの程度の甲板を易々と撃ち抜く威力があった。というよりは、威力がありすぎた。
対人戦なら、トシの持つ8ミリ口径の銃で十分だ。それをわざわざ20ミリの大口径のアサルトライフルが作られ、しかもそれが標準武装として配布されるという事は……敵がNCWに乗っている事を踏まえての事ではないだろうか。
敵の反応はひどく素早かった。俺達が動くと同時に後退をはじめ、弾丸が屋根に穴をあける頃には既に反応は消失していた。
「敵……なのか?」
トシが微妙に震えた声でそう言う。
「そんなに怯えるな。いい事を一つおしえてやる。向こうは私達を殺そうとはしない」
先ほども隊長はそう言っていた。
「つまり、NCWを壊す事が目的……テロリストですか?」
「いやいや、テロリストだったらNCWもパイロットも容赦なく殺すだろう」
トシの予想は外れ、じゃあ一体何なんだという疑問に変わっていた。
「トシの言った事は正しいよ。NCWを壊すのは奴らの手段だ。目的ではない」
「花端隊まで50メートル。その先の角の所です」
と小稲が言うと同時に、角からV式と88式の姿が現れ、その足下に二人のパイロットが傷を負いながら歩いていた。
「小稲は怪我人を収容、V式と88式に補給開始。トシは後ろを守れ。エルイルは広範囲センサーを展開。上に気をつけろ」
「了解」
エルイルの88式がその場にかがみ込み、天井も打ち抜ける姿勢で待機した。ロングバレルのついたアサルトライフルは、弾丸を真っ直ぐ遠くへ飛ばす事が目的であって、連射する機構は除外されていた。
先輩二人は足と手を負傷していたがどちらも軽傷で、小走りで逃げる事が出来た。小稲の七式の背中に飛び乗ると、自分達でノズルとケーブルを引き出し、花端隊長のV式と仲間の88式の補給にとりかかっていた。その落ち着きぶりはさすがだと思った。
「ひどくやられたね。88式に乗っているのは誰?」
「イモリです。いやぁやっぱり俺にはこういうのは無理ですよ。わかっちゃいたんですがね」
「それにしては、お前は随分とカンが良かったぞ、警備兵にはならないのか?」
花端隊長からそう言われても、イモリという人は断っていた。
「俺は自分が死ぬ事より、誰かを殺す事の方がもっと嫌なんですよ」
(誰かを殺すのが、嫌?)
それは俺の心の中に全く無い感情だった。いや、確かに仲間を殺したいとか、ミシュテカに平穏に暮らしている人達を殺すつもりはないが、自分を殺そうとする殺意を持つ相手に対しては、そんな感情は無かった。殺さなければ殺されるからだ。
「花端隊長のV式、弾薬補給完了。バッテリーはどちらも6割です」
「よし、七十七式が迎えに来てる。私と花端隊長と共にセトル、エルイルは残れ。トシ、コーブ、小稲はバイレスの所まで撤退」
「了解」
カガネ隊長の指示通りに、皆が来た通路を戻っていき、俺達はその場に残る。しばらくの間、沈黙が続いていたが、俺はまた、先ほどの小さな反応が複数、しかも周囲に近づいてきている事を見つけた。
それはセンサー上では1ドット程度の反応で、ノイズと見間違える程度の物だった。でも、あきらかに直進したり、停止したりするので分かる。
「4機……」
「一人一機ずつ試しに来たな」
俺の呟きにカガネ隊長が低い声で答えた。二機は天井。二機は左右の壁の向こうだった。
「バレ過ぎだよ」
俺はそう言うと、直進し、左の壁に向かって二回、三点バースト射撃した。そのまま前進しつつ、天井に向かってフルオートで乱射しつつ角を曲がる。
「セトル! 勝手に動くな!」
カガネ隊長はそう言うが、あのまま待っていたら相手の包囲は完璧になり、そして十字砲火に晒されかねなかった。もしそうなっていたらこちらが無事で済む筈が無い。
そしてエルイルも、俺の意図を分かってくれたらしく、乱射した天井に向けて一撃を放つ。
「ええいやるしか! 残りは右の一機!」
隊長二人が右の壁に向かって乱射すると、壁の向こうで装甲が弾けた音が聞こえた。そして俺のセンサーからは四機とも反応が無くなっていた。




