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第三次侵攻作戦



 一度に5小隊も出撃させるという案に、ベースの兵士達はアサリナ大佐がおかしくなったのではないかと疑う声も聞こえた。

 しかし丁寧かつ綿密に作戦を伝え、それぞれの役割がはっきり解ってくると、そういう不信感は消えていった様だった。

 各小隊の任務はあくまでジャミング装置の防衛であって、無謀な敵陣への突破侵攻ではなく、何も不可能な作戦ではない事を、繰り返して兵士達に説明していた。

 しかし、その実、オルフェ中佐もアサリナ大佐も、侵攻と突破をカガネ小隊がする事を最後まで黙っていて、一体誰が3500階に向かうのかを口に出さなかった。

 その為に兵士の間では、アサリナ大佐とオルフェ中佐が直々に作戦に参加するのではないかという噂が出ていた。


「まぁ噂ではないんだが」


「アサリナ大佐、オルフェ中佐、本当に同行するんですか?」


「正直な所、リスクが高いのはわかっているが、3500階のアビスはカガネ小隊だけでは止められない。私、オルフェ、古川、アリシアも同行する」


「まず、お前達がマキュリスの穴を登って、ジャミング装置を設置しなければ、話は始まらん。そしてそのジャミング装置もすぐに壊されては嬉しくない。だから少し細工をしている。出撃はもう少し待て」


 オルフェ中佐はそう言いながら、椅子を左右に回してダラダラとしていた。


「いや、もう少し待てと言ったが、三日とか一週間とか、先の事だから、ここで待ってても仕方無いぞ」


「そうですか、では失礼します」


「……セトル、なんだ、その疑わしい目は? 何か疑問でもあるのか?」


「オルフェ中佐、一つ尋ねてもよろしいですか?」


「何だ? ジャミング装置の細工については最高機密だぞ」


「いえ、オルフェ中佐は……ガーダーでもおやりになるんですか?」


「ガーダーとか私を殺す気か! 敵の攻撃に耐えられる訳がないだろう! 私はハッカーだ!!」


「ああ、ハッカーですか、なるほど」


「オルフェのハッキング能力を越える人間は居ない。だからこそ、共に行く必要がある」


 アサリナ大佐にそう言われると信じる気持ちになるが、オルフェ中佐の言葉はどこまでが冗談なのか、よくわからない時があった。


「了解しました。ジャミング装置が完成するまで、待機します」


 メインベースに停留している小隊は14小隊あると聞くが、そのうち半分は基地の護衛であり、基本は2小隊で侵攻している。これは100年前近く交戦した結果であり、その理由は簡単で、こちらの歩兵の総数に限りがあり、多くはないからだった。

 しかもベテラン揃いではあるが少数精鋭という訳ではなく、俗に言うエースパイロットと呼ばれる者は10名にも満たない。

 そもそもアサリナ大佐が司令官の席に座ったのは、それまでに60人近い男性の高官達が全て戦死したからであり、太陽系軍の兵士の数よりミシュテカ産まれのネクスターの数が多くなり、侵攻よりも防衛を重視するようになったのがきっかけだった。


 4000階までは大した敵ではなかったアビスが、3500階に侵攻した途端に前へと進めなくなったばかりか、3500階までの各階を要塞化するという対応の変化から、侵攻軍はメインベースを築いて敵を捕獲、分析し、機体のそれぞれに自律したAI機能があり、3500階のアビスが司令塔となって防衛機達に指示を出しているのだろう、と想定するに至った。

 ただの自動修復防衛装置ではない、という見方だった。しかし、それもまた間違っているとセトルは言う。賢いかもしれないが、アビスはアビスでしかなく、修復と防衛しかできないと言い出した。


 それは勿論、セトルが今までにやってきたコンピュータゲームから得た知識でもある。人間の思考は不安定で、思いつきや嘘、閃きなどのコンピュータには絶対に真似が出来ない才能があり、どんなに最強のロジックをもったAIでさえも、人間側が圧倒的に不利な立場でない限りは、ロジックそのものに負ける事は無かった。だからこそゲームというものは、難易度が上がるほどAIが強くなるのではなく、人間側の初期値が絶望的に低いというハンデを背負わされる。

 今、相手にしているのが所詮はAIのロジックならば、人間は絶対に負ける事はない。しかし現状の3500階までのルートは、人間側にとって辛いハンデであり、AIにとって有利な防衛戦だった。

 これに勝つ為には、圧倒的な物量か、或いはAIの弱点を利用するか、出し抜くかしかない。その三つを同時に行うのは、あくまでゲーム上では鉄板の戦い方だった。

 現実とゲームは違う、というが、それは相手が人間だからだとも言えた。これは逆に現実の人間相手よりも簡単なゲームと考える事も出来た。


「……ああ……なるほど……」


 五日後、出来上がったジャミング装置には、マキュリスの細胞から作られた人工皮膚がまかれていた。これによってジャミング装置が稼働するまでは、カモフラージュが出来る。全ての装置を一度に稼働させる事が出来れば、当然その方が効果はあがり、作戦は成功に近づくだろう。本隊が持っていくジャミング装置には、カモフラージュの代わりに分厚い装甲が施され、耐久力を上げていたが、とても一人では持てない大きさになっていた。


(……だが、これは間違っていない)


 俺は、オルフェ中佐が、少なくともバカではないという事は認めた。ただ、賢すぎて様々な事を考えすぎてしまう神経質な所はある様だった。それは中佐という地位による責任感がそうさせてしまっているのかもしれない。人の命を預かれと言われたなら誰でも出来る限りローリスクを考えるのは当たり前だった。


「カガネ小隊はカモフラージュの四機を持って3600階まで移動。設置後はすぐに撤退。それら四つのジャミング装置を起動させると同時に、3800階に侵攻を開始する」


 アサリナ大佐は、これを第三次侵攻作戦と命名し、本隊である四小隊の前で待機した。カガネ隊が戻ってきた後、アサリナ大佐達も含めて、五小隊が4000階から上へと侵攻を始める。


「これより、第三次侵攻作戦を開始する。各自、己の役目を全うせよ」


「カガネ隊、行くぞ」


「了解」


 今回の設置に限り、比奈瀬さんは盾を持たず、ジャミング装置を二つ持っていた。カガネ隊長と俺、エルイルと雪刃さんが一つずつ持つが、アベリアさんは護衛として、小稲はセンサーとして武装して同行した。


「敵機、移動開始しています。上の穴から降りて来るつもりです」


「そりゃそうだろうね。まずは3900に一機設置。よし、次は3800階へ行こう」


 マキュリスは基本的に、自分の身体の下にある床をぶち抜いて降りていたので、登るのはワイヤーを使えば簡単だった。むしろ面倒なのは全員が装置を持っている3900階の時点であり、そこに一機設置しただけで、あとはすいすい登る事が出来る。


「よし、3800設置。敵は今何階?」


「ええとそれが……3600でうろうろしています」


「どういう事?」


「わかりません。待ち伏せしているのかもしれません」


「とにかく3700へ行こう」


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