表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
79/79

第79話 戦地を覆うもの

 爆炎が上がる。

 土煙が視界を奪い、耳鳴りが鼓膜を打ち抜く。


 アルベルトは剣を振り抜き、目の前の兵を弾き飛ばした。

 息が荒い。肩で呼吸する。

 剣をガツンと地に突き立てると、詠唱符用紙を取り出し、素早く魔法陣を刻み、放り捨てる。


 次の瞬間には炎が地を舐め、王国兵を押し返す。


 剣を手に取り直し、アルベルトは崩れた石壁を蹴って高所へ跳んだ。


 そして——目が合った。


 ズタボロの男。


 血に塗れた外套。

 焦げた袖。


 ロベルト・ロアだった。

 ザリ、と音を立てて着地すると、ロベルトは笑った。


「……無事に帰れたようで何よりですよ、グランハルトさん」

「いえ、おかげさまで。——バーニーは?」

「置いて来ました。息子を戦場に出したい親はいません」

「ははは。それは何よりです」

 アルベルトは緊張の中でも笑った。


 その瞬間。


「下がれ、アルベルト!!」


 ヘルマンの怒号。


 次の刹那、二人の間を炎が裂いた。


 地面が爆ぜる。


「——現れたな、ヘルマン・クイーンズ!!」


 ロベルトが詠唱符に書き込む文字が次々と紙から浮かび上がり、陣となって回り出す。

「ちっ、またお前か!」


 ヘルマンも魔法陣を浮かび上がらせる。


「俺はお前を許さない!!」

「俺はお前なんか知りもしないけどな!!」


 衝撃。

 光。

 爆音。


 魔法と魔法が正面衝突する。


 アルベルトも割って入る。

 三方向からの圧力。


 ロベルトは一歩、また一歩と押される。


 その時。


 王国側の増援が雪崩れ込もうとする。

「対流、火道——昇炎!!」

 ヘルマンが極めて難しい魔法陣を刻む。

 極限の火焔がロベルトと王国軍の合流を遮断する。


「アルベルト、今だ! やれ!」


 アルベルトは、簡素化させた魔法陣を展開する。


 ——その一瞬。


 バーニーの顔が、よぎった。


 あの、まだどこか幼さの残る青年の顔。


 父を見上げた眼差し。


『なんであんたまで俺から父さんを奪うんだよ!!』


 迷い。


 それは、ほんの、瞬き一つ分だった。


 その隙。


 轟音。


 ヘルマンの体が弾かれる。


 腹部を撃ち抜かれていた。

 血が、空中で弧を描く。

 その赤が、やけに鮮やかに見えた。


「ッ——」

「ヘルマン様!!」


 ロベルトが腕を振り上げる。


「ヘルマン・クイーンズ、撃ったり——」


 次の瞬間。


 ロベルトの右腕が、爆ぜた。


 血が宙に舞う。


「……ただで……やられるかよ」


 ヘルマンが笑う。

 指先には自らの血で魔法陣を書いたであろう血痕。


 ロベルトが後退する。

 王国兵が彼を囲む。


 だが追撃は叶わない。


「——退く!!」

 アルベルトは辺りの神政国の者たちへ知らせるために叫ぶと、ヘルマンの腕を担いで瓦礫の陰へ身を潜めた。


「ヘルマン様、ヘルマン様……!」


 血が止まらない。


「私のせいで……!! ああぁ……! 俺が、俺が迷ったから……!」


 ヘルマンは、薄く笑う。


「……お前のせいじゃないよ」


 かすれ声。

 それでも、穏やかだった。


「上出来だった……アル」

「へ、ヘルマン様……! 俺は、俺は——」


 その瞬間。


 王国側から歓声が上がる。


「ヘルマン・クイーンズが倒れたぞ!!」


 士気が爆発する。

 神政国の兵が、明らかに怯む。


 ——押し返される。


 一歩、また一歩と。


(だめだ……)


 アルベルトの瞳が強く揺れる。


(——負ける)


 その時だった。


 風が、止まった。


 誰かが、空を見上げる。

 そして、その隣の者も釣られるように空を見上げた。

 その動きは伝染するように全ての兵に伝わり——いつしか、全員が凍りついた。


 昼間の空を覆う、巨大な魔法陣。


 太陽よりも巨大な紋様が、ゆっくりと回転している。


 光が、戦場を青白く染める。


 アルベルトの瞳が、震える。


「こ、これは——」


 息が止まる。


「……アイ?」


 戦場の全てが、空を仰いでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ