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【猟奇的サスペンススリラー】イミテーション  作者: てっぺーさま
第一章 悪魔は微笑を浮かべて現れる

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13/19

告白

【悪魔も聖書を引用できる——】


衝撃のラスト!

あなたはきっと騙される!!

「それ、わたしに?」

 待ち合わせ場所に着くと、拓海が小ぶりな花束を抱えて待っていた。彼が着る白いシャツとのコントラストで、赤い薔薇(バラ)がひときわ鮮やかに映えている。 

「ちょうど花屋の前を通ってね。君に似合うと思って」

「うれしい。わたし、バラは一番好きな花なの」

 麗子は花束を受け取ると、拓海と並んで歩き出した。

 金曜の夜。麗子にとっては〝仕事帰り〟という設定だ。虎ノ門にある貿易会社でOLをしていることになっている。

 二人が向かっていたのは、拓海が推すイタリアンレストランだ。談笑しながら歩いていていると、横に長い古びた建物にたどり着く。二階建ての白い外壁の建物で、上階は居住用らしく、道路に面した一階部分にいくつもの店舗が収まっていた。目的のレストランはそのうちの一つで、雑貨店と洋書専門の古書店に挟まれている。拓海が開けたドアをくぐり、麗子は店内へと足を踏み入れた。

 週末の夜とあって、店内はほぼ満席でにぎわっていた。照明がぐっと落とされ、落ち着いた大人の雰囲気が漂っている。拓海が勧めるだけあって、洗練された小洒落た空間だ。

 奥の席がリザーブされていた。テーブルには白いクロスが掛けられ、キャンドルの柔らかな灯りが中央で揺れている。隣の席とはレンガ造りの壁で仕切られており、半個室のような感じになっていた。壁には額縁に収まった海外の風景写真が飾られている。イタリアのシチリアあたりだろうか。

 二人はメニューを開き、とりあえず赤ワインとピザを注文した。ワインはすぐに運ばれてきた。「お疲れさま」と互いにグラスを軽く合わせ、口に運ぶ。

 軽い雑談を交わしていたところで、頼んだピザが焼きたての状態で運ばれてきた。会話を一時中断して、熱々のピザをさっそくほおばる。自然と笑みがこぼれ、麗子はその味を絶賛する。店内の窯で焼き上げているだけあって、デリバリーのピザとはまるで別物だ。薄い生地のピザはあっという間に二人の胃の中に消え、すぐに別の種類のピザを追加で注文した。


 いつものように会話は弾んだ。まずは先日の舞台について語り合う。麗子が印象に残ったシーンを挙げると、拓海は嬉しそうに役作りの過程や苦労した点などを語り出した。その流れで、共通の趣味である映画の話題に移り、しばらく盛り上がったあと、再び舞台の話に戻る。

 麗子は拓海から次回作の構想を聞かせてもらう。先日、演出家と脚本家を交えて打ち合わせをしたらしく、半年後の上演を目指しているという。麗子は次の舞台も見にいくことを約束した。

 ワインを何度かおかわりし、ほどよく酔いが回りはじめたところで拓海が聞いてきた。

「本当に付き合ってる人、いないの?」

「ええ、いないわ。しばらくフリーで、デートらしいデートも全然してないの。拓海さんは?」

「ぼくもいないよ。この前、言わなかったっけ?」

「ええ、でもいそうに見えるわ」

「そう?」

「そうよ。むしろ、いないほうが不思議なくらい。背が高くて清潔感もあるし、優しくて気遣いもできる。それに、こういうお洒落なお店も知ってるし。絶対にモテると思うわ」

「そんなことないって」

 拓海は軽く肩をすくめた。

 ここで、スーツ姿の団体客がやって来て、店内が少し騒がしくなる。

「麗子さん、時間はだいじょうぶ?」

「ええ、平気よ」

 麗子は時計を見て答えた。

「じゃあ、店を変えない? ちょっと騒がしくなってきたし」

「そうね。別のところで飲み直しましょうか」


 拓海に連れられ、小さな雑居ビルの中にあるバーへと移動した。イタリアンレストランから歩いて数分ほどの場所だ。

 カウンター席に腰を下ろし、麗子はマティーニを、拓海はバーボンを注文する。店内はこぢんまりとしていたが、真新しい高級な調度品で統一されており、上質で静謐(せいひつ)な空気が漂っていた。ディナーデートの締めくくりにふさわしい場所といえた。

 二人は手早く用意されたグラスを軽く合わせて静かに乾杯する。

 麗子は店内を見回しながら口を開いた。

「素敵なお店ね」

「でしょ? ここもお気に入りなんだ。たまに来るんだけど、来るたびに気持ちがリセットされるっていうか、リフレッシュされる感じがするんだよね」

「わかるかも。こういう洗練された空間って、自然と背筋が伸びるものね。大人の(たしな)みっていうのかしら」

「そう、それ。大人の嗜み。若い子がここに来ても、どこか無理して背伸びしてる感じがするでしょ?」

「確かにそうね。ここは大人のための空間ね」

 しばらく店内に流れるジャズに耳を傾ける。こういう落ち着いた空間では無理に会話をつなぐ必要がない。無言の間が気詰まりにならず、むしろ心地よかった。

 麗子はカクテルピンに刺さったオリーブを口に運ぶ。拓海が空いたグラスを見て、「おかわりは?」と聞いてくる。麗子は同じものを頼んだ。

 新しいグラスが置かれたところで、拓海が大きく身を寄せてきた。額が触れ合いそうなほどの距離。彼の体温がじんわりと伝わってくる。この距離感、嫌いではない。

 拓海が静かに口を開く。

「ぼくたち、まだ数回しか会ってないのに、不思議と親しみを感じるんだ」

「わたしもよ」

「趣味も合うし、君となら何時間でも話していられる」

「ええ、話は尽きないわね」

「君といると、一瞬たりとも退屈しない。それに、すごく自然体でいられるんだ。わかるかな、この感覚? 二人でいることが、まるで当たり前のように感じる。ずっと昔から親しかったような錯覚すら覚えるくらいにね」

「わかるわ」

 拓海はそっと麗子の手を取ると、真剣な眼差しで続けた。

「あの写真展で会ったときから、君に惹かれてた。気づけば、いつも君のことばかり考えてしまう……。麗子さん、よかったらぼくと、付き合ってくれないかな」

 麗子はじっと相手の目を見つめてから、ふっと微笑んで答えた。

「ええ、わたしでよければ」

 拓海の顔がぱっと輝く。

「ありがとう」

「実はわたしも、会った瞬間からあなたのことを強く意識していたの」

 拓海はさらに顔を寄せてくると、握った手を離さずに言った。

「今夜はずっと、君といっしょにいたい」

「ええ、わたしもよ」


    *  *  *


 ホテルの部屋に入るなり、互いの身体を(むさぼ)るように求め合った。麗子は何度も絶頂を迎え、今は死んだようにベッドに横になっていた。

 髪を優しくなでられ、麗子は薄目を開けた。すぐ目の前に、拓海の端正な顔があった。

「寝てた?」

「ううん。少しウトウトしてただけ」

「何か飲む?」

「ありがとう。でも今はいいわ」

 拓海はなおも麗子の髪を優しくなで続ける。麗子はそっと目を閉じ、彼の手のひらから伝わる微細な刺激に身を委ねる。どうして女という生き物は、こうも男性から頭を触られることに弱いのだろう。心が無防備になり、しだいに従順な気持ちになっていくのがわかる。

 麗子は目を開けると、拓海に問いかけた。

「ねえ、拓海さん。わたしのどこに惹かれたの?」

 拓海は少し考える素振りを見せてから答えた。

「雰囲気、かな……。君のどことなく物憂げな雰囲気に、強く惹かれたんだ」

「じゃあ、顔だけじゃないのね?」

「ああ、もちろんだよ。ぼくは外見だけで人を判断しない。君はとても美しい顔立ちをしているけれど、それ以上に、ぼくは君の雰囲気に心を奪われたんだ」

「じゃあ、わたしの内面を認めてくれたってことよね?」

「ああ、その通りだよ」

「本当に、わたしの内面を愛してくれてるのね?」

「ああ、そうだよ」

 麗子はここで声のトーンを少し落とし、一語一語区切るように言った。

「……もしもよ。もしもの話だけど、わたしが事故か何かで顔がめちゃくちゃになったとしても、わたしのこと、愛し続けてくれる?」

 拓海は一瞬、動揺したように目を見開く。だが、すぐに力強い声で答えた。

「愛し続けるよ」

「本当に?」

「ああ、本当さ。ぼくはどんなことがあっても、君を愛し続ける」

「うれしい!」

 麗子は拓海に抱きついた。

 しばし抱擁したあと、麗子は相手の目をじっと見つめて再び問いかける。

「拓海さん、もう一度聞くけど、わたしにどんなことがあっても、本当に愛し続けてくれるのね?」

「ああ、約束するよ」

「ううん、誓って。どんなことがあっても、わたしのこと愛するって」

「わかった、誓うよ。どんなことがあっても、ぼくは君を愛し続ける」

 しばし見つめ合ったあと、自然と互いの唇が重なった。すでに麗子の身体は彼を受け入れるべく潤っていた。それを察したのか、拓海はすぐに麗子を求め、再び二人は一つになる。

 頭の中がまっ白になっていくのを感じながら、麗子は拓海の背中に、自分の爪を強く食い込ませていった。

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