告白
【悪魔も聖書を引用できる——】
衝撃のラスト!
あなたはきっと騙される!!
「それ、わたしに?」
待ち合わせ場所に着くと、拓海が小ぶりな花束を抱えて待っていた。彼が着る白いシャツとのコントラストで、赤い薔薇がひときわ鮮やかに映えている。
「ちょうど花屋の前を通ってね。君に似合うと思って」
「うれしい。わたし、バラは一番好きな花なの」
麗子は花束を受け取ると、拓海と並んで歩き出した。
金曜の夜。麗子にとっては〝仕事帰り〟という設定だ。虎ノ門にある貿易会社でOLをしていることになっている。
二人が向かっていたのは、拓海が推すイタリアンレストランだ。談笑しながら歩いていていると、横に長い古びた建物にたどり着く。二階建ての白い外壁の建物で、上階は居住用らしく、道路に面した一階部分にいくつもの店舗が収まっていた。目的のレストランはそのうちの一つで、雑貨店と洋書専門の古書店に挟まれている。拓海が開けたドアをくぐり、麗子は店内へと足を踏み入れた。
週末の夜とあって、店内はほぼ満席でにぎわっていた。照明がぐっと落とされ、落ち着いた大人の雰囲気が漂っている。拓海が勧めるだけあって、洗練された小洒落た空間だ。
奥の席がリザーブされていた。テーブルには白いクロスが掛けられ、キャンドルの柔らかな灯りが中央で揺れている。隣の席とはレンガ造りの壁で仕切られており、半個室のような感じになっていた。壁には額縁に収まった海外の風景写真が飾られている。イタリアのシチリアあたりだろうか。
二人はメニューを開き、とりあえず赤ワインとピザを注文した。ワインはすぐに運ばれてきた。「お疲れさま」と互いにグラスを軽く合わせ、口に運ぶ。
軽い雑談を交わしていたところで、頼んだピザが焼きたての状態で運ばれてきた。会話を一時中断して、熱々のピザをさっそくほおばる。自然と笑みがこぼれ、麗子はその味を絶賛する。店内の窯で焼き上げているだけあって、デリバリーのピザとはまるで別物だ。薄い生地のピザはあっという間に二人の胃の中に消え、すぐに別の種類のピザを追加で注文した。
いつものように会話は弾んだ。まずは先日の舞台について語り合う。麗子が印象に残ったシーンを挙げると、拓海は嬉しそうに役作りの過程や苦労した点などを語り出した。その流れで、共通の趣味である映画の話題に移り、しばらく盛り上がったあと、再び舞台の話に戻る。
麗子は拓海から次回作の構想を聞かせてもらう。先日、演出家と脚本家を交えて打ち合わせをしたらしく、半年後の上演を目指しているという。麗子は次の舞台も見にいくことを約束した。
ワインを何度かおかわりし、ほどよく酔いが回りはじめたところで拓海が聞いてきた。
「本当に付き合ってる人、いないの?」
「ええ、いないわ。しばらくフリーで、デートらしいデートも全然してないの。拓海さんは?」
「ぼくもいないよ。この前、言わなかったっけ?」
「ええ、でもいそうに見えるわ」
「そう?」
「そうよ。むしろ、いないほうが不思議なくらい。背が高くて清潔感もあるし、優しくて気遣いもできる。それに、こういうお洒落なお店も知ってるし。絶対にモテると思うわ」
「そんなことないって」
拓海は軽く肩をすくめた。
ここで、スーツ姿の団体客がやって来て、店内が少し騒がしくなる。
「麗子さん、時間はだいじょうぶ?」
「ええ、平気よ」
麗子は時計を見て答えた。
「じゃあ、店を変えない? ちょっと騒がしくなってきたし」
「そうね。別のところで飲み直しましょうか」
拓海に連れられ、小さな雑居ビルの中にあるバーへと移動した。イタリアンレストランから歩いて数分ほどの場所だ。
カウンター席に腰を下ろし、麗子はマティーニを、拓海はバーボンを注文する。店内はこぢんまりとしていたが、真新しい高級な調度品で統一されており、上質で静謐な空気が漂っていた。ディナーデートの締めくくりにふさわしい場所といえた。
二人は手早く用意されたグラスを軽く合わせて静かに乾杯する。
麗子は店内を見回しながら口を開いた。
「素敵なお店ね」
「でしょ? ここもお気に入りなんだ。たまに来るんだけど、来るたびに気持ちがリセットされるっていうか、リフレッシュされる感じがするんだよね」
「わかるかも。こういう洗練された空間って、自然と背筋が伸びるものね。大人の嗜みっていうのかしら」
「そう、それ。大人の嗜み。若い子がここに来ても、どこか無理して背伸びしてる感じがするでしょ?」
「確かにそうね。ここは大人のための空間ね」
しばらく店内に流れるジャズに耳を傾ける。こういう落ち着いた空間では無理に会話をつなぐ必要がない。無言の間が気詰まりにならず、むしろ心地よかった。
麗子はカクテルピンに刺さったオリーブを口に運ぶ。拓海が空いたグラスを見て、「おかわりは?」と聞いてくる。麗子は同じものを頼んだ。
新しいグラスが置かれたところで、拓海が大きく身を寄せてきた。額が触れ合いそうなほどの距離。彼の体温がじんわりと伝わってくる。この距離感、嫌いではない。
拓海が静かに口を開く。
「ぼくたち、まだ数回しか会ってないのに、不思議と親しみを感じるんだ」
「わたしもよ」
「趣味も合うし、君となら何時間でも話していられる」
「ええ、話は尽きないわね」
「君といると、一瞬たりとも退屈しない。それに、すごく自然体でいられるんだ。わかるかな、この感覚? 二人でいることが、まるで当たり前のように感じる。ずっと昔から親しかったような錯覚すら覚えるくらいにね」
「わかるわ」
拓海はそっと麗子の手を取ると、真剣な眼差しで続けた。
「あの写真展で会ったときから、君に惹かれてた。気づけば、いつも君のことばかり考えてしまう……。麗子さん、よかったらぼくと、付き合ってくれないかな」
麗子はじっと相手の目を見つめてから、ふっと微笑んで答えた。
「ええ、わたしでよければ」
拓海の顔がぱっと輝く。
「ありがとう」
「実はわたしも、会った瞬間からあなたのことを強く意識していたの」
拓海はさらに顔を寄せてくると、握った手を離さずに言った。
「今夜はずっと、君といっしょにいたい」
「ええ、わたしもよ」
* * *
ホテルの部屋に入るなり、互いの身体を貪るように求め合った。麗子は何度も絶頂を迎え、今は死んだようにベッドに横になっていた。
髪を優しくなでられ、麗子は薄目を開けた。すぐ目の前に、拓海の端正な顔があった。
「寝てた?」
「ううん。少しウトウトしてただけ」
「何か飲む?」
「ありがとう。でも今はいいわ」
拓海はなおも麗子の髪を優しくなで続ける。麗子はそっと目を閉じ、彼の手のひらから伝わる微細な刺激に身を委ねる。どうして女という生き物は、こうも男性から頭を触られることに弱いのだろう。心が無防備になり、しだいに従順な気持ちになっていくのがわかる。
麗子は目を開けると、拓海に問いかけた。
「ねえ、拓海さん。わたしのどこに惹かれたの?」
拓海は少し考える素振りを見せてから答えた。
「雰囲気、かな……。君のどことなく物憂げな雰囲気に、強く惹かれたんだ」
「じゃあ、顔だけじゃないのね?」
「ああ、もちろんだよ。ぼくは外見だけで人を判断しない。君はとても美しい顔立ちをしているけれど、それ以上に、ぼくは君の雰囲気に心を奪われたんだ」
「じゃあ、わたしの内面を認めてくれたってことよね?」
「ああ、その通りだよ」
「本当に、わたしの内面を愛してくれてるのね?」
「ああ、そうだよ」
麗子はここで声のトーンを少し落とし、一語一語区切るように言った。
「……もしもよ。もしもの話だけど、わたしが事故か何かで顔がめちゃくちゃになったとしても、わたしのこと、愛し続けてくれる?」
拓海は一瞬、動揺したように目を見開く。だが、すぐに力強い声で答えた。
「愛し続けるよ」
「本当に?」
「ああ、本当さ。ぼくはどんなことがあっても、君を愛し続ける」
「うれしい!」
麗子は拓海に抱きついた。
しばし抱擁したあと、麗子は相手の目をじっと見つめて再び問いかける。
「拓海さん、もう一度聞くけど、わたしにどんなことがあっても、本当に愛し続けてくれるのね?」
「ああ、約束するよ」
「ううん、誓って。どんなことがあっても、わたしのこと愛するって」
「わかった、誓うよ。どんなことがあっても、ぼくは君を愛し続ける」
しばし見つめ合ったあと、自然と互いの唇が重なった。すでに麗子の身体は彼を受け入れるべく潤っていた。それを察したのか、拓海はすぐに麗子を求め、再び二人は一つになる。
頭の中がまっ白になっていくのを感じながら、麗子は拓海の背中に、自分の爪を強く食い込ませていった。
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